もう1月が終わりかけているので、はるか昔の話になってしまったような感じですが、年末年始にかけて"Back to the Future"がI、II、IIIと連続して放映されていたのをついつい全部見てしまいました。リリースされたのはそれぞれ1985、1989、1990年と20年も前ですが、今見ても面白い映画です。とても有名ですから、読者のみなさまもどういうストーリーかを知っていると思いますが、このタイトルは未来へ行くのではなく「未来へ帰る」です。Iはまだシンプルでしたが、IIになると時間の切り替わりを把握していないと話についていけなくなりそうです。現在、過去、未来を動詞で表現しているセリフもいろいろなところにあります。英語は時制をきちんと使い分けますが、日本語は英語ほどはっきりと区別して使わないので、わかっているつもりでもなかなか使いこなせないのではないでしょうか。というわけで、今回は時制について話をしましょう。

最初に、時制について簡単に振り返ってみましょうか。現在形(present tense)は習慣的に行っていることを、過去形(past tense)は過去に起きたことを、未来形(future tense)はこれから起きる(であろう)ことを表現するのでしたね。とあることが起きている時間に幅がある場合には完了形(present/past/future perfect)や進行形(present/past/future progressive)を組み合わせて使うのでした。そして、時制の一致です。基本的に複数の時制を混ぜて使う(shifting verb tense)のはいけません。Verb Form and Tense Rulesには簡単な説明とクイズがあるので、復習を兼ねてお試しください。

ややこしいのは文章の時制が時間と一致してない場合ではないでしょうか。とくに仮定法は難解です。たとえば、"Back to the Future I"でMartyがダンスパーティ会場を去るときに両親に

if you guys ever have kids and one of them when he's eight years old, accidentally sets fire to the living room rug, go easy on him. (present tense)

と言っています。これは今の話? それとも未来? 子供達はすでにいるの? 火をつけたのはいつ? … わかりますか? これは「将来、持つであろう子供たちのひとりが、未来のある時点で火をつけることになるけれど」という未来の出来事を表現しています。このような問題は混乱しますが、教科書どおりですから何かのテキストを見直すだけで思い出すはずなので、ifがあったら参考書や英文法を解説しているWebサイトを眺めてみてください。

では、同じ"Back to the Future I"で1955年に来てしまったMartyがなんとかDocを見つけて言ったこのセリフは日本語にするとどうなるでしょうか?

Doc, I'm from the future. (present tense)

I came here in a time machine that you invented. (past tense)

Now, I need your help to get back to the year 1985. (present tense)

自然な日本語にするとしたら、最初の文章は「Doc、僕は未来からやってきたんだ(過去形?)」となるのではないでしょうか。あえて現在形を表現しようとすると「未来からやってきているんだ」のようになり、やや不自然な日本語になってしまいます。日本語と英語では時制をぴったりと一致させるのは難しいのです。

英語を見て日本語の意味を考えるのはまだいいのですが、逆はかなり大変です。Martin Fowler氏が書いているBlikiの邦訳である「設計力」から時制を考えてみましょう。4つめのパラグラフにある「Javaを扱い始めたころ、熟練開発者がForteで学んだスキルがJavaにおいても大いに役立つことに気づいた」 -- この文章の時制は何が適当でしょうか。単純に全部過去形で書けばよさそうですが、オリジナルの英文を眺めてみると、

In our early days with Java, we found the skills experienced developers had learned in Forte gave us excellent instincts for working with Java.

というように一部で過去完了が使われています。過去完了形は過去に起きた2つの出来事に時間差がある場合、より古い方に適用することが多いのですが、ここでもその用法が使われていました。

もうひとつ、例文を見てみましょう。最後のパラグラフに「もし知識が足りないようだったら、スペシャリストをチームに入れる必要があるだろう」という仮定法の文章がありますが、時制は何を使いますか? 一見、現在形でいいような気がしますが、原文は

if it were a gap I would reach for the platform specialist to fill it

というように過去形です。つまり、Fowler氏は「現在、実際に知識が足りない状況にはないけれど、もしそうだったら」という意味をこめています。原文が現在形で書かれていたら、「現在あるいは将来、知識が足りない状況が発生するかもしれないから、そのときには」という意味が含まれる文章になります。おそらく、この違いを自然な日本語で表現するのは不可能なのではないかと思います。どうしても違いを日本語に反映させたかったら、原文にない言葉を足すしかないでしょう。日本語から英文を書く場合は、単純に言葉を置き換えただけでは意図が伝わらない文章になりかねないので注意が必要です。

ライティングなら、辞書で調べたり推敲したりできるのでまだいいのですが、会話で時制をはっきりさせるのは意外にも苦労するところです。もちろん、数単語程度の短い文章ですが、それでも発音という壁に阻まれ、苦労することがあります。問題なのはregular verbs(基本変化をする動詞)の発音です。ご存じのように、最後に"とぅ"や"どぅ"などが付くだけで、しかもこの部分にストレス(強調)はありません。"こーりゅー(call you)"と"こーでゅー(called you)"の違いをネイティブスピーカがわかるように発音するのは予想外に難しいものです。私はこれが原因で電話越しの会話で話がかみ合わないという経験をしました。スピーチではあらかじめ自分が正しく発音できるirregular verbs(不規則変化の動詞)に置き換えることもできますが、他の表現を考える時間がない場合は、"call you back later"や"called you yesterday and explained you already"のように太字の部分を強調するように発音して、できるだけ捕捉していくといいようです。

正しい英文のはずなのに意図が正しく伝わらないのは、もしかすると日本語を英語に置き換えただけの英文で、英語本来の時制の使い方になっていないのかもしれません。もう一度、時制を見直してみてはいかがでしょうか。