【コラム】

経済ニュースの"ここがツボ"

81 トランプ大統領に批判集中だが、NY株価は11日連続で史上最高値

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米国のトランプ大統領が就任して1カ月余りがたちましたが、移民の入国制限やメディアとの対決など強硬姿勢は収まるどころか、ますますヒートアップしています。これには米国の内外から批判と反発が強まっているほか、国家安全保障担当補佐官の辞任や労働長官候補の指名辞退など人事でもつまずきを見せており、トランプ政権は波乱の出足となっています。

株価は上昇、雇用も好調

ところが意外なことに(?)株価は上昇を続けています。米国株の代表的な指数であるダウ工業株30種平均(ダウ平均)は、先週末の24日まで11営業日連続で史上最高値を更新しました。株価が11日間上昇し続けるだけでも珍しいのに、最高値を更新し続けているのです。11日連続の最高値更新は、1987年以来30年ぶりのことです。一般的には、政権への批判や不安が高まれば株価の下落要因となることが多いのですが、今回は逆の現象です。

ダウ平均の動きを昨年の大統領選前後から振り返ると、選挙期間中は様子見気分から一進一退が続いていましたが、選挙後から上昇が始まりました。わずか2日後の11月10日にはそれまでの最高値を更新し、その後も上昇が続きました。12月から1月にかけては横ばいとなる時期がありましたが、大統領就任式の5日後の1月25日には初めて2万ドルの大台乗せを果たしました。そして、そこからまた上昇に弾みがつき、2月9日から11日連続の史上最高値更新となったわけです。この11日間の上昇幅は767ドル、上昇率は4%近くに達しています。

上昇を続ける株価

株価上昇の理由は、米国の景気が実際に堅調なことと、トランプ大統領の経済政策への期待が高まっているためです。すでに昨年12月に本連載(第77回)で、主として消費の面から「米国の景気は予想以上に好調」と書きましたが、今その基調は現在も続いています。

米景気が好調なことは雇用面にも表れています。トランプ大統領は「移民に雇用を奪われた」「製造業がメキシコなどに移転して雇用が国外に流出している」などと主張して、雇用増加を政策の最重要テーマとし、実際にこれが勝因となったと言われています。このため皆さんの中には「米国の雇用がどんどん減っている」「雇用が悪化している」とのイメージを持っている人もいるのではないかと思います。しかし事実はそうではありません。

失業率はすでに数年前から低下し続けており、昨年5月以降は9カ月連続で5.0%を下回っています。最新のデータである1月の失業率は4.8%でした。米国では失業率が5%を下回る水準は完全雇用(非自発的な理由による失業が存在しない状態)と言われており、この水準は9年ぶりの低水準です。

市場が注目する非農業部門の雇用者数も毎月増加が続いています。1月は前月比で22万7,000人増加しました。雇用者数は2010年10月以来、6年3カ月連続で増加しており、その期間中の毎月の増加数を単純合計すると実に1,510万人に達しています。

失業率は数年前から低下、非農業部門の雇用者数も毎月増加が続く

もちろん個別には、工場閉鎖・縮小のため失業した人や希望通りの仕事に就けない人は少なくないでしょう。しかしマクロで見れば、雇用情勢は改善し続けているのであり、それがまた景気持続につながっているのです。株式市場はそうした経済実態の方を見ているわけです。

経済政策の3本柱の効果見込み

そのように堅調な米景気に加えて、トランプ大統領の経済政策による効果が見込めることが、株価を一層押し上げています。トランプ大統領の経済政策は、(1)公共インフラ(社会基盤)投資(2)大幅な減税(3)規制緩和――の3本柱です。

まず公共インフラについては、道路、橋、港湾、学校などの公共インフラの整備に10年間で1兆ドル(110兆円余り)の投資を行うとしています。単純計算で年間1,000億ドル(11兆円余り)ですから、大変な規模です。米国のインフラは歴史的に見て早くから整備が進んでいましたが、その更新があまり進んでおらず老朽化した設備が多いのが現実です。したがってインフラ投資は必要性が高く、その経済効果も期待できるわけです。

第2の減税は法人税と個人所得税を対象としています。法人税は現行35%の基本税率を15%に引き下げる考えを表明しています(共和党は20%への引き下げ案)。世界的にはここ最近、ドイツやイギリスなど欧州を中心に法人税率の引き下げが相次いでおり、日本も小刻みに引き下げを進めています。このため気がつけば、米国の法人税率が主要国の中で最も高くなってしまいました。そこで米国も大幅に法人税を引き下げて米国企業が国外に出ていかないようにするとともに、米国企業の税負担を減らして競争力を回復させようというのがトランプ大統領の狙いです。

また個人所得税も、累進課税の税率の刻みを現在の7段階から3段階に簡素化するとともに、最高税率を約40%から33%に引き下げる案を選挙中に表明していました。減税規模は法人税と個人所得税を合わせて4.4兆ドル(約500兆円)にのぼると試算されています。

第3の規制緩和は、特にオバマ政権時代に金融、エネルギー、環境の分野で規制が強化されたことから、この3分野を重点的に規制の撤廃と緩和を進めるとしています。すでに大統領令で、新たな規制導入の凍結、石油パイプラインの建設などを打ち出しています。規制緩和によって企業活動の自由度を広げて経済を活性化させることが目的で、同時にオバマ政権の否定との政治的動機も含まれています。

これら経済政策の3本柱の大筋はトランプ氏が選挙公約として掲げていたものですが、選挙中はスキャンダルや非難の応酬に終始していたため、有権者も市場もあまり注目していませんでした。しかしトランプ氏が選挙に勝利したことによって評価されるようになり株価上昇の要因となったものです。特に、2月9日にトランプ大統領が「税制について驚くような発表をする」と発言したことがきっかけとなって、11日連続の史上最高値更新となりました。

トランプ政権の不安と懸念

しかしそうは言っても、やはりトランプ大統領には不安と懸念がつきまといます。それは3つにまとめることができます。

第1は、公共インフラ投資や減税を実行するには税制改革と予算を議会が通す必要があることです。議会は上下両院ともに与党・共和党が多数を占めましたが、共和党は伝統的に「小さい政府」との考えで、もともと大幅な財政出動には慎重です。インフラ投資と減税の財源をどうするかも、今のところ明確ではありません。

第2は何といっても、保護主義の弊害です。トランプ大統領は「雇用を守る」を大義名分に移民を制限し、米国の貿易赤字削減のために輸入を抑えようとする考えを表明しています。

特に焦点となっているのが「国境税」です。これは、海外に移転した企業からの米国への輸入品に関税をかけるというもので、トランプ政権が検討していると伝えられています。また議会の共和党は、米企業が輸出によって得た利益には法人税の課税を免除し、輸入には20%の課税をする「法人税の国境調整」との案を検討しており、政権側と共和党との調整が今後進められる見通しです。

具体策がどうなるかはまだ分かりませんが、いずれにしてもこれが導入されれば、日本など輸出国が打撃を受ける恐れがあります。これは世界の貿易を縮小させ、世界経済に大きな影響を与えかねません。米国の輸入品への課税分は国内での販売価格に上乗せされ、米国の消費者に負担を強いることになります。せっかくインフラ投資や減税で景気を押し上げても、その効果を台無しにする可能性があるのです。

第3は、トランプ政権の安定度です。国内外での批判や人事のつまずきなど、すでに政権は不安定な様相を見せています。閣僚はまだ半数ほどしか議会の承認を受けておらず、各省の上級幹部も任命が遅れているそうです。つまり、政策を実行するための実務の体制がまだ整っていないのです。その中で、強硬な姿勢ばかりが先行しているように見えるわけで、今後の政権運営は前途多難を思わせます。

以上、見てきたように期待と懸念が同居するトランプ政権ですが、懸念が強まれば、株価も下落に転じる恐れがあります。

当面は28日に行われる就任後初の議会演説が最大の焦点です。米大統領は例年、政策の基本的な方針を表明する一般教書演説を行いますが、大統領就任の年は2月に行われます。ここでトランプ大統領が税制改革などについて具体策を打ち出すのか、また貿易・通商問題、中東や対ロ・対中・対北朝鮮などの外交・安保問題などでどのような考えを表明するかが注目点です。その内容によってトランプ政権の今後がかなり見えてくるでしょう。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

オフィシャルブログ「経済のここが面白い!」
オフィシャルサイト「岡田晃の快刀乱麻」

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インデックス

連載目次
第90回 米債務上限引き上げ・デフォルト回避で安心感 - しかしトランプ大統領と身内・共和党の溝広がる
第89回 トランプ政権は崩壊寸前!? 米政治不安で株安・円高か - バノン氏解任で政策修正の期待も
第88回 日本橋の高速道路を地下化が具体化 - 都市景観を改善、周辺の再開発と連携
第87回 選挙で明暗分かれたイギリスとフランス - イギリスのEU離脱の行方は混迷
第86回 G7で亀裂を呼んだトランプ大統領 - ロシアゲートで前途に暗雲
第85回 フランス大統領にマクロン氏、ポピュリズム拡大にひとまず歯止め - 新政権のカギは経済立て直し
第84回 フランス大統領選"3度目のまさか"は避けられた - 安堵感広がるが、なおリスクも
第83回 英国がEU離脱を通知 - 交渉は難航か、スコットランドなど国内にも火種
第82回 オランダ総選挙の次はフランス大統領選 - 欧州の政治リスクは続く
第81回 トランプ大統領に批判集中だが、NY株価は11日連続で史上最高値
第80回 “日本批判”を封印した日米首脳会談に安堵感
第79回 トランプ大統領の日本批判は事実誤認--だが日本経済は逆風に耐える力あり
第78回 トランプ次期大統領の矛先がトヨタへ - 2017年は保護主義、ポピュリズムの「懸念」が「現実」に?
第77回 トランプ新大統領を迎える米国を現地取材 - やはり根強い批判、しかし景気は予想以上に好調
第76回 Brexit、トランプの次はイタリア・ショック!?--欧州経済危機再燃の恐れも
第75回 "トランプ大統領"で株高・円安いつまで?--景気には期待、保護主義には警戒
第74回 トランプ大統領の衝撃--保護主義が最大の懸念だが国内経済政策には期待も
第73回 米大統領選の世論調査、トランプ氏が上回る - 株価下落・円高が現実に!?
第72回 米大統領選はどうなる!? 大詰めで波乱 - 市場は「トランプ大統領」を警戒
第71回 米大統領選が終盤戦 - 苦しくなったトランプ氏、浮かび上がった3つの問題点
第70回 現地で見た”Brexitショック”のその後(下) - スコットランド独立? 北アイルランドも!?
第69回 現地で見た"Brexitショック"のその後(上) - 予想外に活気があった英国
第68回 リオ五輪のメダル最多で、景気は本格回復!? 五輪と景気の意外な関係
第67回 28兆円の経済対策と内閣改造 - アベノミクス再強化でデフレ完全脱却めざす
第66回 トルコのクーデター未遂事件の影響は? 中東安定、難民問題、欧州経済の鍵
第65回 参院選の与党勝利はアベノミクスへの信任--脱デフレへ10兆規模の経済政策
第64回 英国EU離脱ショックはリーマン・ショック級--欧州統合は空中分解のおそれ
第63回 英国がEU離脱なら株安・円高進行のおそれ
第62回 消費増税を延期した本当の理由 - 経済成長なしに財政再建はあり得ない
第61回 伊勢志摩サミット、注目は"財政出動"--終了後に消費増税延期を正式決定か
第60回 急激な円高・株安はなぜ起きたか - 米大統領選も円高要因に?
第59回 セブン&アイ鈴木会長、突然の退任に波紋 - セブンは強さを維持できるか
第58回 公示地価は全国平均で8年ぶり上昇、地方圏も底上げ--資産デフレ脱却へ前進
第57回 自動車・電機など賃上げ低水準、景気浮揚には力不足 - 消費増税延期の後押し材料に?
第56回 "トランプ旋風"いつまで続くか - 世界経済にマイナスの影響のおそれ
第55回 シャープが台湾・鴻海の傘下入りで再建の行方は? - 創業者・早川徳次の不屈の精神を取り戻せるか
第54回 株安・円高が加速 - 主な原因は海外だが……
第53回 マイナス金利の影響早くも広がる - 預金金利引き下げなど続々
第52回 マイナス金利を導入したのはなぜ? - 景気回復が期待できる4つの経路
第51回 原油安で"イランつぶし"を狙ったサウジの戦略は変化するか?--減産の兆しも
第50回 原油安はいつまで続くのか!?--サウジVSイランで減産どころかシェア争いも
第49回 2016年、日本経済はどうなる?--"景気回復続く"4つの理由、消費増税再延期も!?
第48回 2015年の世界経済、救ったのは"米国"--2016年はギリシャ、原油安など要注意
第47回 パリの同時テロ、低迷する欧州経済に追い討ちか--"移動の自由"はどうなる!?
第46回 幕末の「薩長土肥」に学ぶ地方創生のヒントとは!?--日本は今"第2の明治維新"
第45回 中国やブラジルなど新興国はなぜ変調?--今や"世界経済最大のリスク"に
第44回 消費税の軽減税率、安倍首相は財務省に不信感--再増税自体の先送りも?
第43回 ノーベル賞日本人2人受賞の快挙が示す日本の底力
第42回 VWは不祥事の"典型"パターンの一つ--トップの指示? 黙認?
第41回 VWの排ガス不正、"史上最悪"の企業不祥事 - 自動車業界全体に影響広がる
第40回 欧州への難民流入、EU統合の理念揺るがす--受け入れめぐり"東西対立"
第39回 日経平均下落の原因は"中国"だけではない--"安倍景気"息切れ、追加緩和も
第38回 中国はなぜ人民元を切り下げた? - 「経済安定」こそ習近平政権の生命線
第37回 優等生・東芝はなぜ「利益水増し」を行ったのか!?--日立への対抗意識も動機
第36回 ギリシャ・チプラス首相はなぜ"豹変"したのか!?--EU支援決定の舞台裏
第35回 中国株はなぜ急落したのか!?--EUと深い関係、ギリシャ危機の影響に注意
第34回 ギリシャ「緊縮反対」が"勝利"、デフォルト・ユーロ離脱に突き進むのか!?
第33回 ギリシャ、ついにデフォルトか!?--7・1デフォルトの場合、国民投票はどうなる?
第32回 ギリシャ危機はひとまず回避、しかし険しい道続く--ロシア・中国の影も…
第31回 米国の利上げはいつ? - イエレン議長のバックグラウンドを考慮すると…
第30回 円安はどこまで進むのか?--米国はいつまで円安を"容認"する!?
第29回 日本の対外純資産が24年連続で世界一、もはや"貿易"で稼ぐ国ではない!?
第28回 "どん底"からの復活 - シャープは創業者・早川徳次氏の精神を取り戻せ
第27回 トヨタが3期連続最高益へ、好決算の陰で"死角"はないのか!?
第26回 安倍首相訪米の隠れた"もう一つの成果"--なぜ米国は「円安」を容認するのか?
第25回 「TPP交渉」加速の陰に「AIIB」の存在あり--日本を巡り米国と中国が綱引き
第24回 セブンが独走し明暗分かれるコンビニ業界--セブン好調はマック低迷と関係!?
第23回 「株価回復は2万円で終わりではない」 - 長期的な上昇相場の"通過点"
第22回 日銀短観、「景況感は横ばい」の"謎"--デフレの"トラウマ"いまだ
第21回 サウジはなぜイエメン内戦に介入!?--原油価格や世界経済に新たな波乱要因か?
第20回 貿易赤字が縮小傾向、何が起きているのか? - その原因と影響を探る
第19回 3月中にも「日経平均2万円」達成か--"賃上げ・原油安"が強烈な追い風に
第18回 賃上げ機運高まる - "実質賃金"はプラスに転換できるか?
第17回 なぜ日経平均が15年ぶりの高値をつけたのか!?--日本経済の"歴史的転換"背景
第16回 「日経平均」が15年ぶりの高値、過去3回の上昇局面と何が違うのか!?
第15回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(3)--ドイツへの"敵意"の背景とは!?
第14回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(2)--ユーロ発足時から危機の"タネ"
第13回 EUはけしからん!? - ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?
第12回 ECBがついに「量的金融緩和」、原油価格の下落で"最終決断"
第11回 フランスのテロ事件、経済への影響は? - 世界を揺るがす「地政学リスク」
第10回 なぜ原油価格が下落している?(2) - ヘッジファンドなどの資金が一斉に"逃げ"
第9回 2015年の米国経済、注目点は!? - 3つの構造変化で景気持続の可能性
第8回 2015年の日本経済はこうなる - 「日経平均2万円」へ"4つの追い風"
第7回 原油安でルーブル暴落、ロシアは一体どうなるのか?--欧米による"経済制裁"!?
第6回 総選挙で自民・公明の与党が勝利、でも株価が下落したのはなぜ?
第5回 なぜ原油価格が下落している? - OPECと米国が"我慢比べ"、日本への影響は?
第4回 "訪日外国人数"が過去最高 - 「観光」は"経済成長"の柱になりうるのか?
第3回 "GDPショック"走る - 消費再増税延期・衆院解散でアベノミクスの行方は?
第2回 「米中間選挙」でオバマ民主党が"歴史的大敗"、日本経済への影響は?
第1回 "電撃的"だった日銀の「追加緩和」~その背景と効果は?

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