【コラム】

経済ニュースの"ここがツボ"

77 トランプ新大統領を迎える米国を現地取材 - やはり根強い批判、しかし景気は予想以上に好調

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トランプ氏が大統領選で勝利してから約1カ月半。トランプ次期政権への移行準備は着々と進み、株価は政策期待から上昇が続いていますが、その一方で通商・貿易や外交については具体的な政策が不透明で懸念は相変わらずです。

そんな中、約10日間の短期間でしたが、米国に出かけて現地の空気を探ってきました。

ワシントンDCで見たホワイトハウス

ホワイトハウス前では新大統領を迎えるための仮設スタンドの建設工事が進んでいる

まずワシントンDCを訪れました。ホワイトハウスの前では、1月20日に新大統領を迎えるための仮設スタンドの建設工事が急ピッチで行われていました。ただ警備は予想したほど厳重ではなく、準備が淡々と進められている印象でした。たまたまホワイトハウスのビルに入居する日系企業を訪問した際、その同じビルに政権移行チームがオフィスを構えていると聞いたのですが、そのわりにはビルの入館者チェックは他のビルと同じ程度で、こちらが逆に拍子抜けするほどでした。

トランプ新政権の政権移行チームが入居しているビル(ワシントンDC)

政権移行チームの主な仕事は、新政権の人事や政策の具体化を準備することです。これまで主要閣僚人事はほとんどが決まりましたが、ワシントンで話題になっていたのは、閣僚より下位の幹部人事が難航しているらしいということでした。米国では政権が交代すると政府の上級幹部職員がごそっと入れ替わりますが、その数は約4,000人にのぼるといいます。

通常の政権交代時には、新政権の下で仕事をしたいという多数の幹部候補生が民間から応募してくるのですが、今回は応募が少ないというのです。また応募者が過去にトランプ氏を批判していなかったかを一人一人調べてふるいにかけているそうで、数多くの応募者が書類選考で落とされているという話も耳にしました。

トランプ政権の政策にはさまざまな不安が指摘されていますが、政策の内容もさることながら、それを支える足元の体制にも不安を抱えてのスタートになるかもしれません。

新政権の前途への不安という点では、トランプ氏が経営する企業との関係を問題視する声も多く聞かれました。その代表例が「トランプ・インターナショナルホテル」です。議会議事堂からホワイトハウスに向かう大通りに面した一等地にあり、今年9月にオープンしたばかりです。ちなみに大統領就任式当日のパレードが通常ルートなら、トランプ新大統領はそのホテルの前を通ることになります。

同ホテルはもともと米国政府が所有し郵便局として使われていましたが、トランプ氏の会社が政府から借り受け、ホテルに改造したものです。建物は19世紀に建てられた石造りの歴史的建造物で、宿泊料金が一泊800ドル(約9万4,000円)という高額が話題となっていました。しかし今回トランプ氏が大統領に就任することから、政府が所有建物を大統領の経営する会社に貸しているという関係になり、新たな問題が生じているのです。

これは「利益相反」と呼ばれるもので、場合によっては訴訟が起きる可能性もあるそうです。トランプ氏は米国各地で不動産事業を手がけ関連企業も数多くありますので、他にもこうした問題が出てくることは十分考えられます。トランプ氏は「大統領就任後は会社経営から退き、経営は息子に任せる」との意向を明らかにしています。しかしそれを正式に表明すると見られていた記者会見を直前になって延期しました。

こうした点について米メディアは強く批判しています。すでに選挙中から各メディアはトランプ氏への批判を繰り返してきましたが、現在でもその空気は継続しているようです。ちょうどワシントン滞在中に、最大の焦点だった国務長官にエクソンモービルCEO(経営最高責任者)のレックス・ティラーソン氏の指名が発表されましたが、それを報じるテレビは、同氏について「ロシアの友人」「共和党内に懸念」とのニュースタイトルを流し、共和、民主両党の議員が出演してこの人事を批判していました。

ワシントンでは、大統領選でクリントン候補の得票率が90%以上でしたので、トランプ新大統領に批判的な声が多かったのは予想通りでしたが、それを差し引いても米国内の分断の根深さを垣間見た数日間でした。

景気の良さが印象的だったニューヨーク

続いてニューヨークに移動しましたが、こちらでは景気の良さが印象的でした。ニューヨークに着いた次の日、気温はマイナス7度台、体感温度はマイナス12~13度という寒さで、その夜から翌朝にかけて大雪となりました。そんな中でも、5番街は買い物客や観光客であふれていました。

ニューヨークは寒波に見舞われ、セントラルパークは雪化粧となった

5番街はニューヨークの中でも最もにぎわう大通りで、高級ブランド店が立ち並んでいます。特にクリスマス商戦が繰り広げられる12月は例年、大変な人出となりますが、今回は例年にも増してにぎわっている感じがしました。平日の昼間にもかかわらず歩道は行き交う人の多さで渋滞状態となり、なかなか前へ進めません。ブランド店や高級百貨店の店内はどこも混雑していました。

その5番街の中でも超一等地と言える一画に、あのトランプタワーが建っています。その前で記念撮影をする人たちと徒歩規制の警備で、周辺は一段と混雑していました。

ニューヨーク五番街のトランプタワーの前には多くの人が集まり、観光新名所のようになっている

私は十数年前にニューヨークに駐在し、その前半期はITブームで未曽有の好景気と言われたものですが、今回の光景はその当時と変わらないほどの印象でした。タクシーはなかなかつかまらず、ようやく乗車できても道路はどこも渋滞で「地下鉄に乗れば良かった」と何度も後悔しました。ニューヨーク・マンハッタンの道路渋滞とタクシーの捕まえやすさの程度は、米国の景気を肌感覚でつかむうえで昔から私が目安としている"指標"の一つです。

大手高級百貨店「サックス・フィフス・アベニュー」の店内は買い物客でごった返していた(ニューヨーク五番街)

ただ、好調な消費も見かけほどではないとの指摘もありました。街角の人出の多さほどは小売店の売上高は伸びていないというのです。その理由の一つがネット消費の増加です。ウインドーショッピングは楽しむけど、実際の買い物はネットで注文というわけです。「それが証拠に、店から出てきた客は多くても、店の買い物袋を手に提げていない人が多いでしょう」とある店員が教えてくれました。実際に観察してみると、街を行き交う大勢の人の中で手提げ買い物袋を持っている人は意外に少ないように見えました。この傾向は日本も同じですが、米国が先行しているのかもしれません。

好景気継続のためのポイント3つ

いずれにしても、ニューヨークの街角の様子だけで米国の景気全体を断定するわけにいかないことは言うまでもありません。しかしマクロの数字も消費の堅調を裏付けています。ニューヨーク滞在中に、11月の小売売上高が発表されましたが、それによると前月比では0.1%増にとどまったものの、前年同月比で3.8%増と堅調な伸びを示しました。帰国後に発表された他の経済指標もまずますの結果となっており、特に27日に発表された12月の消費者信頼感指数は15年4カ月ぶりの高水準を記録しました。

株価もトランプ次期大統領の経済政策への期待から上昇が続いており、ダウ平均株価は2万ドルの大台に迫っています。トランプ氏が打ち出している政策のうち特に市場が期待しているのは、(1)今後10年間で1兆ドルの公共インフラ投資(2)法人税、個人所得税の大型減税(3)規制緩和――などです。これらが実行されれば、かなりの景気押し上げにつながるわけで、この期待が株価を上昇させ、それがまた消費を支えていると言えます。

ダウ平均株価は2万ドルの大台に迫る

この流れを持続できるかどうかは、トランプ次期大統領次第と言ってもいいでしょう。ポイントは次の3つです。

第1は、市場が期待している国内経済政策を実行に移せるかどうか。これまでにトランプ氏が掲げた政策をそのまま実行しようとすれば多額の財源が必要となりますし財政赤字を拡大させることになります。与党である共和党はもともと「小さい政府」を標榜しており、財政拡大路線には慎重です。もし共和党の反対で、政策規模が縮小することになれば市場は失望し株価は一転して下落する可能性があります。

第2は、やはり保護主義的政策です。これまでもたびたび指摘してきた通りですが、保護主義は世界経済全体にとってにマイナスであり、結局のところ米国自身にも跳ね返ってくるものです。これが最も懸念される点です。

第3は、前述のようにトランプ政権の運営です。トランプ氏のビジネスとの利益相反問題、政権の人事・体制の問題など不安材料が少なくありません。国務長官人事など批判もあります。新大統領がそれらをうまく束ねてスムーズな政権運営を行えないような状況になれば、新政権は行き詰まってしまう恐れがあります。

トランプ新大統領は来年1月20日に就任します。それまでにはもう少し方向性が見えてくることに期待したいところです。

※写真はいずれも著者撮影

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

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インデックス

連載目次
第89回 トランプ政権は崩壊寸前!? 米政治不安で株安・円高か - バノン氏解任で政策修正の期待も
第88回 日本橋の高速道路を地下化が具体化 - 都市景観を改善、周辺の再開発と連携
第87回 選挙で明暗分かれたイギリスとフランス - イギリスのEU離脱の行方は混迷
第86回 G7で亀裂を呼んだトランプ大統領 - ロシアゲートで前途に暗雲
第85回 フランス大統領にマクロン氏、ポピュリズム拡大にひとまず歯止め - 新政権のカギは経済立て直し
第84回 フランス大統領選"3度目のまさか"は避けられた - 安堵感広がるが、なおリスクも
第83回 英国がEU離脱を通知 - 交渉は難航か、スコットランドなど国内にも火種
第82回 オランダ総選挙の次はフランス大統領選 - 欧州の政治リスクは続く
第81回 トランプ大統領に批判集中だが、NY株価は11日連続で史上最高値
第80回 “日本批判”を封印した日米首脳会談に安堵感
第79回 トランプ大統領の日本批判は事実誤認--だが日本経済は逆風に耐える力あり
第78回 トランプ次期大統領の矛先がトヨタへ - 2017年は保護主義、ポピュリズムの「懸念」が「現実」に?
第77回 トランプ新大統領を迎える米国を現地取材 - やはり根強い批判、しかし景気は予想以上に好調
第76回 Brexit、トランプの次はイタリア・ショック!?--欧州経済危機再燃の恐れも
第75回 "トランプ大統領"で株高・円安いつまで?--景気には期待、保護主義には警戒
第74回 トランプ大統領の衝撃--保護主義が最大の懸念だが国内経済政策には期待も
第73回 米大統領選の世論調査、トランプ氏が上回る - 株価下落・円高が現実に!?
第72回 米大統領選はどうなる!? 大詰めで波乱 - 市場は「トランプ大統領」を警戒
第71回 米大統領選が終盤戦 - 苦しくなったトランプ氏、浮かび上がった3つの問題点
第70回 現地で見た”Brexitショック”のその後(下) - スコットランド独立? 北アイルランドも!?
第69回 現地で見た"Brexitショック"のその後(上) - 予想外に活気があった英国
第68回 リオ五輪のメダル最多で、景気は本格回復!? 五輪と景気の意外な関係
第67回 28兆円の経済対策と内閣改造 - アベノミクス再強化でデフレ完全脱却めざす
第66回 トルコのクーデター未遂事件の影響は? 中東安定、難民問題、欧州経済の鍵
第65回 参院選の与党勝利はアベノミクスへの信任--脱デフレへ10兆規模の経済政策
第64回 英国EU離脱ショックはリーマン・ショック級--欧州統合は空中分解のおそれ
第63回 英国がEU離脱なら株安・円高進行のおそれ
第62回 消費増税を延期した本当の理由 - 経済成長なしに財政再建はあり得ない
第61回 伊勢志摩サミット、注目は"財政出動"--終了後に消費増税延期を正式決定か
第60回 急激な円高・株安はなぜ起きたか - 米大統領選も円高要因に?
第59回 セブン&アイ鈴木会長、突然の退任に波紋 - セブンは強さを維持できるか
第58回 公示地価は全国平均で8年ぶり上昇、地方圏も底上げ--資産デフレ脱却へ前進
第57回 自動車・電機など賃上げ低水準、景気浮揚には力不足 - 消費増税延期の後押し材料に?
第56回 "トランプ旋風"いつまで続くか - 世界経済にマイナスの影響のおそれ
第55回 シャープが台湾・鴻海の傘下入りで再建の行方は? - 創業者・早川徳次の不屈の精神を取り戻せるか
第54回 株安・円高が加速 - 主な原因は海外だが……
第53回 マイナス金利の影響早くも広がる - 預金金利引き下げなど続々
第52回 マイナス金利を導入したのはなぜ? - 景気回復が期待できる4つの経路
第51回 原油安で"イランつぶし"を狙ったサウジの戦略は変化するか?--減産の兆しも
第50回 原油安はいつまで続くのか!?--サウジVSイランで減産どころかシェア争いも
第49回 2016年、日本経済はどうなる?--"景気回復続く"4つの理由、消費増税再延期も!?
第48回 2015年の世界経済、救ったのは"米国"--2016年はギリシャ、原油安など要注意
第47回 パリの同時テロ、低迷する欧州経済に追い討ちか--"移動の自由"はどうなる!?
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第45回 中国やブラジルなど新興国はなぜ変調?--今や"世界経済最大のリスク"に
第44回 消費税の軽減税率、安倍首相は財務省に不信感--再増税自体の先送りも?
第43回 ノーベル賞日本人2人受賞の快挙が示す日本の底力
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第41回 VWの排ガス不正、"史上最悪"の企業不祥事 - 自動車業界全体に影響広がる
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第39回 日経平均下落の原因は"中国"だけではない--"安倍景気"息切れ、追加緩和も
第38回 中国はなぜ人民元を切り下げた? - 「経済安定」こそ習近平政権の生命線
第37回 優等生・東芝はなぜ「利益水増し」を行ったのか!?--日立への対抗意識も動機
第36回 ギリシャ・チプラス首相はなぜ"豹変"したのか!?--EU支援決定の舞台裏
第35回 中国株はなぜ急落したのか!?--EUと深い関係、ギリシャ危機の影響に注意
第34回 ギリシャ「緊縮反対」が"勝利"、デフォルト・ユーロ離脱に突き進むのか!?
第33回 ギリシャ、ついにデフォルトか!?--7・1デフォルトの場合、国民投票はどうなる?
第32回 ギリシャ危機はひとまず回避、しかし険しい道続く--ロシア・中国の影も…
第31回 米国の利上げはいつ? - イエレン議長のバックグラウンドを考慮すると…
第30回 円安はどこまで進むのか?--米国はいつまで円安を"容認"する!?
第29回 日本の対外純資産が24年連続で世界一、もはや"貿易"で稼ぐ国ではない!?
第28回 "どん底"からの復活 - シャープは創業者・早川徳次氏の精神を取り戻せ
第27回 トヨタが3期連続最高益へ、好決算の陰で"死角"はないのか!?
第26回 安倍首相訪米の隠れた"もう一つの成果"--なぜ米国は「円安」を容認するのか?
第25回 「TPP交渉」加速の陰に「AIIB」の存在あり--日本を巡り米国と中国が綱引き
第24回 セブンが独走し明暗分かれるコンビニ業界--セブン好調はマック低迷と関係!?
第23回 「株価回復は2万円で終わりではない」 - 長期的な上昇相場の"通過点"
第22回 日銀短観、「景況感は横ばい」の"謎"--デフレの"トラウマ"いまだ
第21回 サウジはなぜイエメン内戦に介入!?--原油価格や世界経済に新たな波乱要因か?
第20回 貿易赤字が縮小傾向、何が起きているのか? - その原因と影響を探る
第19回 3月中にも「日経平均2万円」達成か--"賃上げ・原油安"が強烈な追い風に
第18回 賃上げ機運高まる - "実質賃金"はプラスに転換できるか?
第17回 なぜ日経平均が15年ぶりの高値をつけたのか!?--日本経済の"歴史的転換"背景
第16回 「日経平均」が15年ぶりの高値、過去3回の上昇局面と何が違うのか!?
第15回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(3)--ドイツへの"敵意"の背景とは!?
第14回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(2)--ユーロ発足時から危機の"タネ"
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第12回 ECBがついに「量的金融緩和」、原油価格の下落で"最終決断"
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第7回 原油安でルーブル暴落、ロシアは一体どうなるのか?--欧米による"経済制裁"!?
第6回 総選挙で自民・公明の与党が勝利、でも株価が下落したのはなぜ?
第5回 なぜ原油価格が下落している? - OPECと米国が"我慢比べ"、日本への影響は?
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第2回 「米中間選挙」でオバマ民主党が"歴史的大敗"、日本経済への影響は?
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