【コラム】

経済ニュースの"ここがツボ"

54 株安・円高が加速 - 主な原因は海外だが……

 

54/63

リーマン・ショック以来の急激な株安・円高

世界的に株安・円高、そして原油安の連鎖が続き、不安が広がっています。日経平均株価は12日に1万5,000円割れとなり、今年に入ってからの下落幅は4,000円を超え、下落率は21%に達しました。円相場も一時は1ドル=110円台まで急騰し、わずか10日間で10円以上の円高となりました。

これほどの急激な株安・円高はリーマン・ショック以来のことです。年明けからの動きを整理してみますと、まず中国経済減速と原油安が原因で株価下落が進み、それに対応して日銀が1月29日にマイナス金利を導入しました。これは本来、株価の上昇要因となるはずでしたが、マイナス金利に対する不安が先行したことから株価は一段と下落していました。

そこへ加わったのが、米国と欧州経済への不安です。2月10日、FRB(米連邦準備理事会)のイエレン議長は議会証言で「経済が下振れすれば利上げペースも減速するのが適当」と発言しました。

日経平均株価(2月15日まで)

世界的な株価下落が米国経済にも悪影響をもたらしているとの懸念が広がりました。また、ドイツの最大手銀行、ドイツ銀行の決算が悪かったことから、欧州の銀行への信用不安が広がり、世界の株価が急落し、動揺が拡大しました。

世界的な株価下落の原因は主に海外

こうしてみると、日本にはマイナス金利導入という要因はあるものの、世界的な株価下落の原因は主として海外にあると言えます。ところが、欧米より日本の株価の方が下落率は大きくなっているのです。昨年末から2月12日までの各国株価指数の下落率を比較すると、日経平均株価は21.4%に達しているのに対し、米国のダウ平均は8.3%、英国のFTSE100は8.6%、ドイツのDAXは16.5%などとなっています。日経平均の下落率は上海株価総合指数の21.9%とほぼ同じです。

世界経済の中で最も懸念されているのが中国経済ですから、その国の株価下落率と同じというのは、日経平均は下げ過ぎと言っていいのではないかと思います。

主要国の株価下落率(昨年末~2月12日)

なぜそのようなことになっているのでしょうか。その理由の1つが円高です。前述の通り米国経済と欧州経済への不安が急浮上したことで、為替市場ではこれがドル売り、ユーロ売りにつながり、その裏返しとして円が一斉に買われたのです。また円が主要通貨の中で最も安全と認識されているため、市場が危機モードになると円が買われる展開となります。このような円高は日本の輸出企業の業績を悪化させることになりますので、株価下落を加速するというのが最近の市場の動きとなっています。

円相場(2月15日まで)

日本株は経済の実態以上に売られ過ぎ

第2は、海外投資家の動きです。ヘッジファンドなど大口の投資家は世界各国の株式、債券、商品、為替など各市場にまたがって分散投資していますが、日本株はここ2~3年で大幅に上昇したため利益確定の売りを出しやすい状況にあります。世界的な市場の動揺に直面した投資家が、とりあえず利益を確定しやすい日本株を売って、リスクの少ない日本国債に乗り換えるなどの動きが見られます。

このような動きから見ると、日本株は経済の実態以上に売られ過ぎていると言えます。そもそも、米国経済への懸念やドイツ銀行などの信用不安もやや過度な反応となった感があります。

さすがに、12日の海外市場では株価は反発しました。それを受けて週明け15日の日経平均株価は1,000円を超える大幅反発となり、1万6,000円を回復しました。市場は少し冷静さを取り戻しつつあるようです。しかしまだ安心はできません。ただ「これで底を打った」と判断できるようになるには、少し時間がかかりそうです。

今後、政府が打ち出す対策は?

日本経済自体が抱えている懸念も軽視できません。15日に発表された2015年10-12月期実質GDPは前期比・年率換算で1.4%減となり、マイナス成長となりました。特に消費の弱さが目立ちます。しかもこの数字は今年に入ってからの株価下落による影響は反映されていません。株価の水準そのものが大きく下がったことで、それによる消費や企業心理への影響がこれから出てくる可能性があります。マイナス金利導入も本来は景気回復を後押しする効果があるものなのですが、今のところは預金金利引き下げなどの影響が先行していることも気になるところです。

こうした経済の足踏みと市場の動揺に対し、政府が何らかの対策を打ち出すかが注目されます。焦点は二つあります。一つは国際協調です。現在の世界的な株価下落と市場の動揺は各国が協調して対応することが必要です。月末にはG20が開かれますので、その場でどのような議論が行われるか、あるいはG20とは別に主要国の政府あるいは中央銀行が連携して何らかの方針を打ち出すことがあるかもしれません。

もう一つは日本独自の対策が出るかどうかです。その場合、消費税10%への引き上げ再延期は選択肢の一つとなるでしょう。菅官房長官は15日の記者会見で「リーマン・ショック級の経済変動がない限り予定通り」と発言していますが、今後の動向次第では検討課題になる可能性は十分にあると見ています。それには衆議院解散・衆参ダブル選挙の可能性も絡んできます。

市場はこうした動きをにらみながら、しばらくは不安定な動きが続きそうです。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

54/63

インデックス

連載目次
第63回 英国がEU離脱なら株安・円高進行のおそれ
第62回 消費増税を延期した本当の理由 - 経済成長なしに財政再建はあり得ない
第61回 伊勢志摩サミット、注目は"財政出動"--終了後に消費増税延期を正式決定か
第60回 急激な円高・株安はなぜ起きたか - 米大統領選も円高要因に?
第59回 セブン&アイ鈴木会長、突然の退任に波紋 - セブンは強さを維持できるか
第58回 公示地価は全国平均で8年ぶり上昇、地方圏も底上げ--資産デフレ脱却へ前進
第57回 自動車・電機など賃上げ低水準、景気浮揚には力不足 - 消費増税延期の後押し材料に?
第56回 "トランプ旋風"いつまで続くか - 世界経済にマイナスの影響のおそれ
第55回 シャープが台湾・鴻海の傘下入りで再建の行方は? - 創業者・早川徳次の不屈の精神を取り戻せるか
第54回 株安・円高が加速 - 主な原因は海外だが……
第53回 マイナス金利の影響早くも広がる - 預金金利引き下げなど続々
第52回 マイナス金利を導入したのはなぜ? - 景気回復が期待できる4つの経路
第51回 原油安で"イランつぶし"を狙ったサウジの戦略は変化するか?--減産の兆しも
第50回 原油安はいつまで続くのか!?--サウジVSイランで減産どころかシェア争いも
第49回 2016年、日本経済はどうなる?--"景気回復続く"4つの理由、消費増税再延期も!?
第48回 2015年の世界経済、救ったのは"米国"--2016年はギリシャ、原油安など要注意
第47回 パリの同時テロ、低迷する欧州経済に追い討ちか--"移動の自由"はどうなる!?
第46回 幕末の「薩長土肥」に学ぶ地方創生のヒントとは!?--日本は今"第2の明治維新"
第45回 中国やブラジルなど新興国はなぜ変調?--今や"世界経済最大のリスク"に
第44回 消費税の軽減税率、安倍首相は財務省に不信感--再増税自体の先送りも?
第43回 ノーベル賞日本人2人受賞の快挙が示す日本の底力
第42回 VWは不祥事の"典型"パターンの一つ--トップの指示? 黙認?
第41回 VWの排ガス不正、"史上最悪"の企業不祥事 - 自動車業界全体に影響広がる
第40回 欧州への難民流入、EU統合の理念揺るがす--受け入れめぐり"東西対立"
第39回 日経平均下落の原因は"中国"だけではない--"安倍景気"息切れ、追加緩和も
第38回 中国はなぜ人民元を切り下げた? - 「経済安定」こそ習近平政権の生命線
第37回 優等生・東芝はなぜ「利益水増し」を行ったのか!?--日立への対抗意識も動機
第36回 ギリシャ・チプラス首相はなぜ"豹変"したのか!?--EU支援決定の舞台裏
第35回 中国株はなぜ急落したのか!?--EUと深い関係、ギリシャ危機の影響に注意
第34回 ギリシャ「緊縮反対」が"勝利"、デフォルト・ユーロ離脱に突き進むのか!?
第33回 ギリシャ、ついにデフォルトか!?--7・1デフォルトの場合、国民投票はどうなる?
第32回 ギリシャ危機はひとまず回避、しかし険しい道続く--ロシア・中国の影も…
第31回 米国の利上げはいつ? - イエレン議長のバックグラウンドを考慮すると…
第30回 円安はどこまで進むのか?--米国はいつまで円安を"容認"する!?
第29回 日本の対外純資産が24年連続で世界一、もはや"貿易"で稼ぐ国ではない!?
第28回 "どん底"からの復活 - シャープは創業者・早川徳次氏の精神を取り戻せ
第27回 トヨタが3期連続最高益へ、好決算の陰で"死角"はないのか!?
第26回 安倍首相訪米の隠れた"もう一つの成果"--なぜ米国は「円安」を容認するのか?
第25回 「TPP交渉」加速の陰に「AIIB」の存在あり--日本を巡り米国と中国が綱引き
第24回 セブンが独走し明暗分かれるコンビニ業界--セブン好調はマック低迷と関係!?
第23回 「株価回復は2万円で終わりではない」 - 長期的な上昇相場の"通過点"
第22回 日銀短観、「景況感は横ばい」の"謎"--デフレの"トラウマ"いまだ
第21回 サウジはなぜイエメン内戦に介入!?--原油価格や世界経済に新たな波乱要因か?
第20回 貿易赤字が縮小傾向、何が起きているのか? - その原因と影響を探る
第19回 3月中にも「日経平均2万円」達成か--"賃上げ・原油安"が強烈な追い風に
第18回 賃上げ機運高まる - "実質賃金"はプラスに転換できるか?
第17回 なぜ日経平均が15年ぶりの高値をつけたのか!?--日本経済の"歴史的転換"背景
第16回 「日経平均」が15年ぶりの高値、過去3回の上昇局面と何が違うのか!?
第15回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(3)--ドイツへの"敵意"の背景とは!?
第14回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(2)--ユーロ発足時から危機の"タネ"
第13回 EUはけしからん!? - ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?
第12回 ECBがついに「量的金融緩和」、原油価格の下落で"最終決断"
第11回 フランスのテロ事件、経済への影響は? - 世界を揺るがす「地政学リスク」
第10回 なぜ原油価格が下落している?(2) - ヘッジファンドなどの資金が一斉に"逃げ"
第9回 2015年の米国経済、注目点は!? - 3つの構造変化で景気持続の可能性
第8回 2015年の日本経済はこうなる - 「日経平均2万円」へ"4つの追い風"
第7回 原油安でルーブル暴落、ロシアは一体どうなるのか?--欧米による"経済制裁"!?
第6回 総選挙で自民・公明の与党が勝利、でも株価が下落したのはなぜ?
第5回 なぜ原油価格が下落している? - OPECと米国が"我慢比べ"、日本への影響は?
第4回 "訪日外国人数"が過去最高 - 「観光」は"経済成長"の柱になりうるのか?
第3回 "GDPショック"走る - 消費再増税延期・衆院解散でアベノミクスの行方は?
第2回 「米中間選挙」でオバマ民主党が"歴史的大敗"、日本経済への影響は?
第1回 "電撃的"だった日銀の「追加緩和」~その背景と効果は?

もっと見る

関連したタグ

人気記事

一覧

イチオシ記事

新着記事

櫻井翔&小山慶一郎、日テレ参院選特番に冒頭から登場「歴史的な夜に」
[06:00 6/26] エンタメ
[欅坂46]結成1年目最後の日に“けやき坂”でライブ テレ朝夏祭りに出演
[05:00 6/26] エンタメ
欅坂46、デビュー1年目最後の日にけやき坂でライブ「すごく大事な場所」
[05:00 6/26] エンタメ
[内田理央]「MORE」連動の水着写真集 逢沢りなと2ショットも
[00:00 6/26] エンタメ
『ニンジャスレイヤー』、コンピアルバム「伐」発売記念でニコ生一挙放送
[00:00 6/26] ホビー