【コラム】

経済ニュースの"ここがツボ"

48 2015年の世界経済、救ったのは"米国"--2016年はギリシャ、原油安など要注意

岡田晃  [2015/12/29]

48/60

2015年は、一つ間違えば世界経済をどん底に突き落としかねないような出来事が相次ぎました。欧州ではギリシャ危機の再燃、フランスでの1月と11月のテロ、大量の難民流入など難題が続き、中国では経済の行き詰まりによって株価が急落する"中国ショック"が起きました。原油価格の下落も世界経済の波乱要因となりました。ただそれらを何とかしのぎ、決定的な危機に陥ることは何とか避けられた1年だったと言えるでしょう。

米国は量的緩和とゼロ金利という危機対応から脱して平時の金融政策に

そのような世界経済を支えたのは米国でした。緩やかながらも景気回復が進み、5月にはNY市場のダウ平均株価は1万8312ドルの史上最高値をつけました。その後も雇用改善が続いたことから、FRB(米連邦準備理事会)はついに12月16日に利上げを決定しました。

2015年のNYダウ平均株価

FRBはリーマン・ショック直後の2008年年12月に政策金利を大幅に引き下げてゼロ金利とし、ほぼ同時に量的緩和を導入しました。これは金融危機を乗り切るための緊急避難とも言えるものでしたが、その後は景気が回復してきたことをうけて、まず2014年10月に量的緩和を解除し、次いで利上げの時機をうかがっていました。

しかし2015年に入って一時的に雇用の改善が足踏みとなったほか、中国経済の減速やギリシャ危機の再燃などの影響から、8月にはNYダウが1万5000ドル台まで急落し米国景気は停滞気味となりました。このため利上げが後ずれしていましたが、今回ようやく利上げしてゼロ金利を解除したわけです。

これで約7年続いたゼロ金利の時代に終わりを告げました。量的緩和とゼロ金利という危機対応から脱して、平時の金融政策に戻ったことになり、それだけ米国の景気が回復してきたことを示しています。イエレン議長は「利上げは米国経済が危機を克服した証し」と発言しています。日銀やECB(欧州中央銀行)が量的緩和を継続している中で、FRBだけが利上げしたことにも米国経済の回復ぶりが表れています。

ゼロ金利解除までの経過

2016年は段階的な追加利上げへ――緩やかな景気拡大は続く可能性

これを受けて2016年は段階的に追加利上げが行われることになりそうです。金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)はほぼ6週間に1度、年間に8回開かれますが、そのうち4回程度の利上げが予想されています。

ただ利上げによって景気を冷やしてしまうリスクがあります。現在の米国経済は弱さを抱えたままであり、利上げに耐えられなくなる恐れがある――。これを市場が一番気にしているところです。しかしそれでも米国経済は多少のジグザグはあっても、緩やかな景気拡大は続く可能性の方が高いと見ています。

その理由はFRBの姿勢です。FRBは以前から、経済情勢を十分見きわめながら利上げしていく考えを示しており、今後もし米国景気に弱さが目立ったり海外経済が落ち込んだりすれば、利上げペースを遅くするでしょう。前述の懸念に十分配慮して利上げを急がないということです。

過去の日銀の2度の失敗がいい教訓に

この点で、過去の日銀の2度の失敗がいい教訓となります。1度目の失敗は2000年のゼロ金利解除です。1997~1998年の金融危機をうけて日銀は1999年にゼロ金利政策に踏み切りましたが、ITバブルで景気が回復したとして、2000年8月にゼロ金利を解除しました。しかし当時の日本経済はITバブルと言っても、不良債権問題を抱えデフレに突入するなど構造的な苦境に陥ったままで、とても利上げに耐えられる状態ではありませんでした。それにもかかわらず日銀は前のめりで突き進み、政府や多くのエコノミストの反対を押し切ってゼロ金利解除を決めたのでした。しかし同年の秋には景気後退がはっきりし、日銀は翌年に再びゼロ金利に戻し、さらに量的緩和を導入せざるを得なくなりました。

2度目は2006~2007年に量的緩和解除と利上げです。この時も景気が回復したとして、日銀は前年からその考えを表明するようになり、これも反対する政府に対抗するかのようにして決定しています。しかしその結果、株価は頭打ちから下落に転じ始め、その後のサブプライム危機とリーマン危機によって急落する前段となりました。

これら2度とも、日銀が利上げに向かってしゃにむに突き進んだような印象がありました。ゼロ金利や量的緩和という"異常な"金融政策から、一日でも早く正常な金融政策に戻したいという強い思いがあったからですが、景気の実態に即して金融政策を決めるというより、まるで利上げが自己目的化してしまったかのようでした。

しかし今のFRBには、そのような印象はあまり感じられません。もちろん金融政策の正常化という中央銀行としての"本能"はありますが、それも「要は景気次第」という姿勢は変わらないでしょう。そうであれば、利上げによる悪影響はそれほど大きなマイナス材料にはならないのではないかと思います。

要注意なのは欧州や中国、新興国などの経済悪化

むしろ要注意なのは、欧州や中国、新興国などの経済悪化で、それによって米国経済が変調をきたすリスクを意識しておいた方がいいかもしれません。これは世界経済全体にとっても大きな懸念材料です。

まず欧州ですが、2015年は年明け早々からギリシャ危機が再燃しました。1月の総選挙で緊縮反対を唱える急進左派連合が勝利し、新たに誕生したチプラス政権とEUとの金融支援の交渉は6月末の期限切れを前に暗礁に乗り上げました。チプラス政権は緊縮受け入れか否かを問う国民投票という奇策に打って出て(7月5日実施)、「緊縮NO」が多数を占めました。

ギリシャはユーロ離脱の瀬戸際まで突き進みましたが、意外にも突然、チプラス首相は緊縮受け入れを表明し世界中を驚かせました。EUもこれに応じ、ギリシャが財政改革を実行することを条件に、3年間で最大860億ユーロの金融支援を行うことでようやく合意に達しました。この時期の動きについては本連載で何度か書いた通りです(第13回第15回第32回第36回など)。

これによってギリシャ危機は一応鎮静化しましたが、実は年金改革などは具体的な詳細はまだ決まっておらず、財政改革の本格的な実施はこれからです。12月にギリシャに行ってきましたが、景気は回復の兆しは見えていません。2016年以降に改革の実施段階に入ると国民生活への影響が目に見える形で出てくるため、あらためて緊縮反対の声が強まる可能性もあります。ギリシャの前途は険しいと実感してきました。詳しくは、もう一つの連載「これがギリシャ危機のすべて」で年明けに紹介したいと思います。

欧州では1月と11月にはフランスでテロが起きたほか、シリア情勢の悪化によって大量の難民が欧州に流入し、欧州全体を揺るがしています。これらが欧州経済にとって重荷となり、2016年の景気は低迷が続く恐れがありそうです。2016年は難民問題などを通じて欧州統合のあり方も大きなテーマとなるでしょう。

欧州の景気低迷は中国経済減速の一因に

ところで、欧州の景気低迷は中国経済減速の一因にもなっています。少し意外に感じる人も多いかもしれませんが、中国にとってEUは最大の貿易相手なのです。そのため欧州の景気が悪くなると、その影響は中国にも及びます。2015年6月~8月に中国株が急落しましたが、ちょうどギリシャ危機が瀬戸際に立っていた時期と重なったところが象徴的でした。

2015年の上海株価総合指数

中国経済自体、バブルが崩壊して減速が顕著になっています。中国人民銀行は利下げを相次いで行いましたが、経済減速は一時的なものではなく構造的なものです。2016年も引き続き中国経済の動向には注意が必要でしょう。

原油安による"逆石油ショック"も要注意です。原油価格は2014年末~2015年3月頃に1バレル=40ドル台前半まで急落しました。その後は一時60ドル前後まで持ち直したため、このへんで落ち着くのかと思われましたが、夏以降は再び下落傾向となり、特に12月に入ってからは一時35ドルを割り込みました。

本来なら原油安は石油消費国にとってプラスのはずなのですが、実際には原油安による産油国や米石油産業に打撃というマイナス面が大きく、株価にも下落材料となっています。産油国への打撃はかなり大きいようで、最近は産油国の盟主であるサウジアラビアの金融資産減少や国内不安定化のリスクを指摘する報道も出始めています。こうした懸念がもし現実になれば、中東情勢の混迷やテロの拡散など地政学リスクのレベルは従来の比ではなくなります。

2016年の世界経済は引き続き懸念材料が目白押し

このように2016年の世界経済は引き続き懸念材料が目白押しで、それらの悪影響をいかに最小限で抑えられるかがカギとなるでしょう。その中で世界経済を支える主役は米国という構図は2015年と同じで、米国の踏ん張りに期待がかかります。

その米国では1月から大統領選の予備選がスタートし、11月までの長い選挙戦に突入します。共和党では過激な発言を繰り返すドナルド・トランプ氏がトップを走っており、同氏の動向が大統領選の行方を左右しそうな情勢です。米国経済や世界情勢への影響を注意深く見守る1年にもなりそうです。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

48/60

インデックス

連載目次
第60回 急激な円高・株安はなぜ起きたか - 米大統領選も円高要因に?
第59回 セブン&アイ鈴木会長、突然の退任に波紋 - セブンは強さを維持できるか
第58回 公示地価は全国平均で8年ぶり上昇、地方圏も底上げ--資産デフレ脱却へ前進
第57回 自動車・電機など賃上げ低水準、景気浮揚には力不足 - 消費増税延期の後押し材料に?
第56回 "トランプ旋風"いつまで続くか - 世界経済にマイナスの影響のおそれ
第55回 シャープが台湾・鴻海の傘下入りで再建の行方は? - 創業者・早川徳次の不屈の精神を取り戻せるか
第54回 株安・円高が加速 - 主な原因は海外だが……
第53回 マイナス金利の影響早くも広がる - 預金金利引き下げなど続々
第52回 マイナス金利を導入したのはなぜ? - 景気回復が期待できる4つの経路
第51回 原油安で"イランつぶし"を狙ったサウジの戦略は変化するか?--減産の兆しも
第50回 原油安はいつまで続くのか!?--サウジVSイランで減産どころかシェア争いも
第49回 2016年、日本経済はどうなる?--"景気回復続く"4つの理由、消費増税再延期も!?
第48回 2015年の世界経済、救ったのは"米国"--2016年はギリシャ、原油安など要注意
第47回 パリの同時テロ、低迷する欧州経済に追い討ちか--"移動の自由"はどうなる!?
第46回 幕末の「薩長土肥」に学ぶ地方創生のヒントとは!?--日本は今"第2の明治維新"
第45回 中国やブラジルなど新興国はなぜ変調?--今や"世界経済最大のリスク"に
第44回 消費税の軽減税率、安倍首相は財務省に不信感--再増税自体の先送りも?
第43回 ノーベル賞日本人2人受賞の快挙が示す日本の底力
第42回 VWは不祥事の"典型"パターンの一つ--トップの指示? 黙認?
第41回 VWの排ガス不正、"史上最悪"の企業不祥事 - 自動車業界全体に影響広がる
第40回 欧州への難民流入、EU統合の理念揺るがす--受け入れめぐり"東西対立"
第39回 日経平均下落の原因は"中国"だけではない--"安倍景気"息切れ、追加緩和も
第38回 中国はなぜ人民元を切り下げた? - 「経済安定」こそ習近平政権の生命線
第37回 優等生・東芝はなぜ「利益水増し」を行ったのか!?--日立への対抗意識も動機
第36回 ギリシャ・チプラス首相はなぜ"豹変"したのか!?--EU支援決定の舞台裏
第35回 中国株はなぜ急落したのか!?--EUと深い関係、ギリシャ危機の影響に注意
第34回 ギリシャ「緊縮反対」が"勝利"、デフォルト・ユーロ離脱に突き進むのか!?
第33回 ギリシャ、ついにデフォルトか!?--7・1デフォルトの場合、国民投票はどうなる?
第32回 ギリシャ危機はひとまず回避、しかし険しい道続く--ロシア・中国の影も…
第31回 米国の利上げはいつ? - イエレン議長のバックグラウンドを考慮すると…
第30回 円安はどこまで進むのか?--米国はいつまで円安を"容認"する!?
第29回 日本の対外純資産が24年連続で世界一、もはや"貿易"で稼ぐ国ではない!?
第28回 "どん底"からの復活 - シャープは創業者・早川徳次氏の精神を取り戻せ
第27回 トヨタが3期連続最高益へ、好決算の陰で"死角"はないのか!?
第26回 安倍首相訪米の隠れた"もう一つの成果"--なぜ米国は「円安」を容認するのか?
第25回 「TPP交渉」加速の陰に「AIIB」の存在あり--日本を巡り米国と中国が綱引き
第24回 セブンが独走し明暗分かれるコンビニ業界--セブン好調はマック低迷と関係!?
第23回 「株価回復は2万円で終わりではない」 - 長期的な上昇相場の"通過点"
第22回 日銀短観、「景況感は横ばい」の"謎"--デフレの"トラウマ"いまだ
第21回 サウジはなぜイエメン内戦に介入!?--原油価格や世界経済に新たな波乱要因か?
第20回 貿易赤字が縮小傾向、何が起きているのか? - その原因と影響を探る
第19回 3月中にも「日経平均2万円」達成か--"賃上げ・原油安"が強烈な追い風に
第18回 賃上げ機運高まる - "実質賃金"はプラスに転換できるか?
第17回 なぜ日経平均が15年ぶりの高値をつけたのか!?--日本経済の"歴史的転換"背景
第16回 「日経平均」が15年ぶりの高値、過去3回の上昇局面と何が違うのか!?
第15回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(3)--ドイツへの"敵意"の背景とは!?
第14回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(2)--ユーロ発足時から危機の"タネ"
第13回 EUはけしからん!? - ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?
第12回 ECBがついに「量的金融緩和」、原油価格の下落で"最終決断"
第11回 フランスのテロ事件、経済への影響は? - 世界を揺るがす「地政学リスク」
第10回 なぜ原油価格が下落している?(2) - ヘッジファンドなどの資金が一斉に"逃げ"
第9回 2015年の米国経済、注目点は!? - 3つの構造変化で景気持続の可能性
第8回 2015年の日本経済はこうなる - 「日経平均2万円」へ"4つの追い風"
第7回 原油安でルーブル暴落、ロシアは一体どうなるのか?--欧米による"経済制裁"!?
第6回 総選挙で自民・公明の与党が勝利、でも株価が下落したのはなぜ?
第5回 なぜ原油価格が下落している? - OPECと米国が"我慢比べ"、日本への影響は?
第4回 "訪日外国人数"が過去最高 - 「観光」は"経済成長"の柱になりうるのか?
第3回 "GDPショック"走る - 消費再増税延期・衆院解散でアベノミクスの行方は?
第2回 「米中間選挙」でオバマ民主党が"歴史的大敗"、日本経済への影響は?
第1回 "電撃的"だった日銀の「追加緩和」~その背景と効果は?

もっと見る

関連したタグ

特別企画 PR

人気記事

一覧

イチオシ記事

新着記事

【試写会】ドラマ『火花』完成披露試写会【5組10名様】
[23:09 5/27] 読者プレゼント
犬マンガを電子書籍で!いぬまみれVol.2に「30秒で泣ける」の吉谷光平ら
[22:44 5/27] ホビー
[栗山千明]きょう“裏切りのバーベキュー” 不倫ドラマで市原隼人と求め合う…
[22:34 5/27] エンタメ
荒井チェリーの妖怪4コマ新装版と、家族コメディなど収録の傑作集が発売
[22:32 5/27] ホビー
[モー娘。鈴木香音]Mステで最後のテレビ出演 タモリから花束手渡され満面の笑み
[22:20 5/27] エンタメ

特別企画 PR