【コラム】

経済ニュースの"ここがツボ"

45 中国やブラジルなど新興国はなぜ変調?--今や"世界経済最大のリスク"に

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連載『経済ニュースの"ここがツボ"』では、日本経済新聞記者、編集委員を経てテレビ東京経済部長、テレビ東京アメリカ社長などを歴任、「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーとして活躍、現在大阪経済大学客員教授の岡田 晃(おかだ あきら)氏が、旬の経済ニュースを解説しながら、「経済ニュースを見る視点」を皆さんとともに考えていきます。


新興国経済の変調が目立っています。中国の景気が急速に減速して行き詰まりを見せているのをはじめ、ブラジル、ロシア、インドネシアなど有力な新興国が軒並み経済不振に陥り、その影響が日米欧の先進国にも波及してきました。少し前までは世界経済の牽引車と言われた新興国経済は、今や世界経済にとって最大のリスク要因となっています。

一人っ子政策の撤廃も中国指導部の危機感の現れ

まず中国経済についてはこの連載でこれまで何度か書いてきましたが(第35回第38回など)、このほど発表された7-9月期の実質GDP(国内総生産)は前年同期比で6.9%の伸びにとどまり、リーマンショック直後の2009年1-3月期以来、6年半ぶりに7%を下回りました。

中国の実質GDP成長率

中国政府は今年の成長率目標を7%としており、そのラインを割り込んだインパクトは大きいものがあります。しかもこれは一時的な現象ではなく構造的なものです。高度成長によって膨らんだバブルが崩壊して金融機関や国営企業が膨大な不良債権を抱えていると言われているほか、所得格差拡大、環境問題なども深刻化していることが背景です。

7-9月期GDPの発表後、中国人民銀行は利下げを発表しました。利下げは、株価急落の始まった6月以降で3回目、金融緩和を開始した昨年11月以降では6回目です。これだけ矢継ぎ早に利下げを繰り返しても経済悪化を食い止めることができないでいるわけです。

報道によりますと、中国共産党は一人っ子政策を撤廃し、すべての夫婦に第2子の出産を認める方針を打ち出しました。これまで30年余り続けてきた一人っ子政策によって働き手の人口が減少し、それが経済成長低下の要因となっているからで、それほどに中国指導部の危機感は強いと言えるのです。

中国だけでなく、ロシア、ブラジルも

中国だけではありません。ロシアは原油価格の急落が響いて昨年末から経済が急速に悪化し、現在も不振が続いています。ロシアが経済成長を遂げたのは1990年代後半から原油生産が増加したことが大きく貢献しており、原油の輸出が同国の輸出全体の3割、天然ガスなども含むエネルギー輸出では7割も占めるほどになっていました。

ところが原油価格の急落がロシア経済を直撃したのです。ウクライナ情勢をめぐるEUとの関係悪化もロシア経済に影を落とし、今年4-6月の実質GDPは前年同期比でマイナス4.6%となりました。今年は年間でもマイナス成長になるのは確実な見通しで、これはプーチン大統領の在任期間で初めてのことです。

ブラジル経済の不振も深刻です。実質GDPは今年に入り1-3月期、4-6月期の2期連続でマイナスに陥り、年間でもマイナス成長となる公算が大きくなっています。失業率は悪化する一方、物価上昇率は10%近くに達しており、通貨レアルは今年に入ってから約28%も下落、史上最安値をつけています。

同国では経済低迷に加えて閣僚などの汚職疑惑が広がり、ルセフ大統領の支持率が8%台に急落しています。同大統領は2011年に初の女性大統領として就任しましたが、その頃の人気ぶりと様変わりです。こうした政治の混迷がさらに経済にも悪影響を及ぼしている状況で、来年のリオ五輪開催を控えて懸念が広がっています。

主な新興国・地域の実質GDP成長率(%)

新興国が世界経済最大のリスクとなった4つの理由とは!?

以上の3カ国にインドを加えた4か国が「BRICs」と呼ばれていたことを皆さんは覚えているでしょうか。この4か国のアルファベットの頭文字をとって名づけられたBRICsは、台頭する新興国のリーダー格として2000年代後半ごろからもてはやされるようになりました。そして、新興国は先進国に頼らなくても自力で経済発展を遂げ、先進国の景気が悪化してもそれに影響されないという「デカップリング(非連動)論」が一世を風靡したものでした。

しかし現実は、先進国の米国や日本などは景気回復が続いているのと対照的に、新興国経済が大きく落ち込んでいます。BRICsという言葉もほとんど聞かれなくなりました。新興国経済の低迷にはそれぞれの国によって固有の背景もありますが、共通する理由が4つあります。

第1は、もともと新興国経済は脆弱性を抱えていたことです。各国とも短期間に急速に経済成長を遂げたことから、経済が過熱しやすくインフレになりやすい傾向があります。また国民の生活水準が向上したことは確かですが、それでもなお全体として所得水準が低く格差も拡大しています。このように経済基盤がまだ弱いまま、外的な要因によって影響を受けると振幅が大きくなりがちな特徴をもっています。

第2は、原油価格の下落による影響です。ロシアがその典型例ですが、他にも中東などの産油国も影響を受けています。また原油下落と並行して、金や鉱物資源の価格下落も進行しており、それらを多く産出する新興国経済に打撃を与えています。

第3は、中国経済の減速が他の新興国に影響を与えていることです。たとえばブラジルは実は、皆さんの想像以上に中国との経済関係が深いのです。中国の経済成長に伴ってブラジルの食糧や鉱物資源などが中国に多く輸出されるようになりました。ブラジルなど中南米はかつては「米国の裏庭」と言われていましたが、今ではブラジルの貿易相手国の1位は米国ではなく中国です。その中国の経済が鈍化しているため、ブラジルの輸出が減り景気悪化を加速する結果になっているのです。

ブラジルの貿易相手国(2014年)

これは中国との経済関係が深い新興国に共通する現象です。ブラジルだけでなく、原油や鉱物資源を中国に輸出するオーストラリア、中東などがそれに該当します。また中国を製品の輸出先として依存している韓国、マレーシア、シンガポール、台湾などのアジア各国も影響を受けやすい国々と言えるでしょう。

第4は、米国の利上げの動きです。FRB(米連邦準備理事会)は米国の景気回復が進んだことから2013年に、それまで実施していた量的金融緩和を終了する考えを示唆し、2014年10月に実際に終了しました。そして次のステップとして、近いうちに利上げするものと見込まれています。これが世界のマネーの流れを変えたのです。

米国が量的緩和を実施していた時期は、量的緩和によってあふれ出した大量のマネーが新興国に流入し、それが新興国経済を潤していました。ところが量的緩和が終了し、次は利上げとなると、そのマネーの供給が従来より絞られることになり、新興国からマネ-が流出する結果となるわけです。あるいはそれを見越して新興国の株価と通貨が下落するという現象が続いています。

新興国経済の変調が日米欧の先進国にも影響

こうして苦境に立つ新興国経済ですが、その影響は日米欧の先進国にも及んできています。ここ2~3カ月、日本や米国の株価下落が続いていましたが、その一因となったのが新興国経済への懸念でした。欧州では景気低迷の長期化に対応して、ECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁は10月、「金融緩和について議論した」と語り、12月頃の利下げの可能性を示唆しました。またFRBが10月の利上げを見送ったのも、中国など新興国経済への懸念があったからです。

ただ、欧米のこうした姿勢が市場に安心感が与えたのも事実で、その後、日米欧の株価は世界的に上昇に転じています。一部の新興国の株価も下げ止まり感が出てきており、今後は一段の悪化には歯止めがかかる可能性も出てきました。

日本にとっても中国をはじめ新興国の動向は気がかりなところです。日銀は10月末に発表した展望レポートで「リスク要因は中国をはじめとする新興国経済の減速の影響」と指摘し、新興国経済を注視する姿勢を示しています。私たちも引き続き新興国経済から目が離せない毎日が続きそうです。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

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インデックス

連載目次
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第88回 日本橋の高速道路を地下化が具体化 - 都市景観を改善、周辺の再開発と連携
第87回 選挙で明暗分かれたイギリスとフランス - イギリスのEU離脱の行方は混迷
第86回 G7で亀裂を呼んだトランプ大統領 - ロシアゲートで前途に暗雲
第85回 フランス大統領にマクロン氏、ポピュリズム拡大にひとまず歯止め - 新政権のカギは経済立て直し
第84回 フランス大統領選"3度目のまさか"は避けられた - 安堵感広がるが、なおリスクも
第83回 英国がEU離脱を通知 - 交渉は難航か、スコットランドなど国内にも火種
第82回 オランダ総選挙の次はフランス大統領選 - 欧州の政治リスクは続く
第81回 トランプ大統領に批判集中だが、NY株価は11日連続で史上最高値
第80回 “日本批判”を封印した日米首脳会談に安堵感
第79回 トランプ大統領の日本批判は事実誤認--だが日本経済は逆風に耐える力あり
第78回 トランプ次期大統領の矛先がトヨタへ - 2017年は保護主義、ポピュリズムの「懸念」が「現実」に?
第77回 トランプ新大統領を迎える米国を現地取材 - やはり根強い批判、しかし景気は予想以上に好調
第76回 Brexit、トランプの次はイタリア・ショック!?--欧州経済危機再燃の恐れも
第75回 "トランプ大統領"で株高・円安いつまで?--景気には期待、保護主義には警戒
第74回 トランプ大統領の衝撃--保護主義が最大の懸念だが国内経済政策には期待も
第73回 米大統領選の世論調査、トランプ氏が上回る - 株価下落・円高が現実に!?
第72回 米大統領選はどうなる!? 大詰めで波乱 - 市場は「トランプ大統領」を警戒
第71回 米大統領選が終盤戦 - 苦しくなったトランプ氏、浮かび上がった3つの問題点
第70回 現地で見た”Brexitショック”のその後(下) - スコットランド独立? 北アイルランドも!?
第69回 現地で見た"Brexitショック"のその後(上) - 予想外に活気があった英国
第68回 リオ五輪のメダル最多で、景気は本格回復!? 五輪と景気の意外な関係
第67回 28兆円の経済対策と内閣改造 - アベノミクス再強化でデフレ完全脱却めざす
第66回 トルコのクーデター未遂事件の影響は? 中東安定、難民問題、欧州経済の鍵
第65回 参院選の与党勝利はアベノミクスへの信任--脱デフレへ10兆規模の経済政策
第64回 英国EU離脱ショックはリーマン・ショック級--欧州統合は空中分解のおそれ
第63回 英国がEU離脱なら株安・円高進行のおそれ
第62回 消費増税を延期した本当の理由 - 経済成長なしに財政再建はあり得ない
第61回 伊勢志摩サミット、注目は"財政出動"--終了後に消費増税延期を正式決定か
第60回 急激な円高・株安はなぜ起きたか - 米大統領選も円高要因に?
第59回 セブン&アイ鈴木会長、突然の退任に波紋 - セブンは強さを維持できるか
第58回 公示地価は全国平均で8年ぶり上昇、地方圏も底上げ--資産デフレ脱却へ前進
第57回 自動車・電機など賃上げ低水準、景気浮揚には力不足 - 消費増税延期の後押し材料に?
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第53回 マイナス金利の影響早くも広がる - 預金金利引き下げなど続々
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第51回 原油安で"イランつぶし"を狙ったサウジの戦略は変化するか?--減産の兆しも
第50回 原油安はいつまで続くのか!?--サウジVSイランで減産どころかシェア争いも
第49回 2016年、日本経済はどうなる?--"景気回復続く"4つの理由、消費増税再延期も!?
第48回 2015年の世界経済、救ったのは"米国"--2016年はギリシャ、原油安など要注意
第47回 パリの同時テロ、低迷する欧州経済に追い討ちか--"移動の自由"はどうなる!?
第46回 幕末の「薩長土肥」に学ぶ地方創生のヒントとは!?--日本は今"第2の明治維新"
第45回 中国やブラジルなど新興国はなぜ変調?--今や"世界経済最大のリスク"に
第44回 消費税の軽減税率、安倍首相は財務省に不信感--再増税自体の先送りも?
第43回 ノーベル賞日本人2人受賞の快挙が示す日本の底力
第42回 VWは不祥事の"典型"パターンの一つ--トップの指示? 黙認?
第41回 VWの排ガス不正、"史上最悪"の企業不祥事 - 自動車業界全体に影響広がる
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第36回 ギリシャ・チプラス首相はなぜ"豹変"したのか!?--EU支援決定の舞台裏
第35回 中国株はなぜ急落したのか!?--EUと深い関係、ギリシャ危機の影響に注意
第34回 ギリシャ「緊縮反対」が"勝利"、デフォルト・ユーロ離脱に突き進むのか!?
第33回 ギリシャ、ついにデフォルトか!?--7・1デフォルトの場合、国民投票はどうなる?
第32回 ギリシャ危機はひとまず回避、しかし険しい道続く--ロシア・中国の影も…
第31回 米国の利上げはいつ? - イエレン議長のバックグラウンドを考慮すると…
第30回 円安はどこまで進むのか?--米国はいつまで円安を"容認"する!?
第29回 日本の対外純資産が24年連続で世界一、もはや"貿易"で稼ぐ国ではない!?
第28回 "どん底"からの復活 - シャープは創業者・早川徳次氏の精神を取り戻せ
第27回 トヨタが3期連続最高益へ、好決算の陰で"死角"はないのか!?
第26回 安倍首相訪米の隠れた"もう一つの成果"--なぜ米国は「円安」を容認するのか?
第25回 「TPP交渉」加速の陰に「AIIB」の存在あり--日本を巡り米国と中国が綱引き
第24回 セブンが独走し明暗分かれるコンビニ業界--セブン好調はマック低迷と関係!?
第23回 「株価回復は2万円で終わりではない」 - 長期的な上昇相場の"通過点"
第22回 日銀短観、「景況感は横ばい」の"謎"--デフレの"トラウマ"いまだ
第21回 サウジはなぜイエメン内戦に介入!?--原油価格や世界経済に新たな波乱要因か?
第20回 貿易赤字が縮小傾向、何が起きているのか? - その原因と影響を探る
第19回 3月中にも「日経平均2万円」達成か--"賃上げ・原油安"が強烈な追い風に
第18回 賃上げ機運高まる - "実質賃金"はプラスに転換できるか?
第17回 なぜ日経平均が15年ぶりの高値をつけたのか!?--日本経済の"歴史的転換"背景
第16回 「日経平均」が15年ぶりの高値、過去3回の上昇局面と何が違うのか!?
第15回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(3)--ドイツへの"敵意"の背景とは!?
第14回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(2)--ユーロ発足時から危機の"タネ"
第13回 EUはけしからん!? - ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?
第12回 ECBがついに「量的金融緩和」、原油価格の下落で"最終決断"
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第10回 なぜ原油価格が下落している?(2) - ヘッジファンドなどの資金が一斉に"逃げ"
第9回 2015年の米国経済、注目点は!? - 3つの構造変化で景気持続の可能性
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第7回 原油安でルーブル暴落、ロシアは一体どうなるのか?--欧米による"経済制裁"!?
第6回 総選挙で自民・公明の与党が勝利、でも株価が下落したのはなぜ?
第5回 なぜ原油価格が下落している? - OPECと米国が"我慢比べ"、日本への影響は?
第4回 "訪日外国人数"が過去最高 - 「観光」は"経済成長"の柱になりうるのか?
第3回 "GDPショック"走る - 消費再増税延期・衆院解散でアベノミクスの行方は?
第2回 「米中間選挙」でオバマ民主党が"歴史的大敗"、日本経済への影響は?
第1回 "電撃的"だった日銀の「追加緩和」~その背景と効果は?

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