【コラム】

経済ニュースの"ここがツボ"

33 ギリシャ、ついにデフォルトか!?--7・1デフォルトの場合、国民投票はどうなる?

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連載『経済ニュースの"ここがツボ"』では、日本経済新聞記者、編集委員を経てテレビ東京経済部長、テレビ東京アメリカ社長などを歴任、「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーとして活躍、現在大阪経済大学客員教授の岡田 晃(おかだ あきら)氏が、旬の経済ニュースを解説しながら、「経済ニュースを見る視点」を皆さんとともに考えていきます。


チプラス首相が「国民投票」実施表明、ギリシャ問題は"想定外"の展開に

ギリシャがついにデフォルト(債務不履行)の瀬戸際に追い込まれました。前回のこのコラムで「ギリシャ危機はひとまず回避」と書いたばかりでしたが、全く予想もしない展開になってしまいました。しかし一番驚いたのは、当のEU首脳たちだったかもしれません。なぜこのようなことになったのか、現地からの報道をもとに経過を整理してみましょう。

まずギリシャが21日に新たな財政改革案を提示し、EU側では当初は比較的前向きに評価する意見が出ていました。これが「合意近し」との報道になったわけですが、しかしEU側がギリシャ案を精査したところ、年金改革などがまだ不十分、増税が法人税に偏っているのは問題などの批判が強まり、24日のEU財務相会合では合意が持ち越しとなりました。

これを受けて今度はEUの中心的立場にあるドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領が26日、ギリシャのチプラス首相に新提案を行いました。その内容は、ギリシャが構造改革を受け入れれば、支援期間を6月末から11月まで5か月延長し、その間に155億ユーロ(約2兆円)を4回に分けて融資するというものでした。6月30日の期限切れを目前に控え、チプラス首相への最後通告でした。

ところがチプラス首相はこの提案に反発し、その日の深夜(日付けは27日)に突然、テレビ演説で「EUの新提案、つまり財政再建策を受け入れるかどうかについて7月5日に国民投票を実施する」と表明したのです。そして国民投票の結果が出るまで、30日の返済について「数日の猶予を求める」との考えも表明しました。

ギリシャのこの国民投票表明はEUにとって寝耳に水だったようで、報道によりますと、EUの首脳や関係者がこれを知ったのは「チプラス首相からの連絡ではなく、ツイッターに流れたニュースだった」そうです(日本経済新聞電子版・6月28日)。このような交渉相手への非礼な対応は今回に始まったことではありませんが、そもそもこの段階になって国民投票というのは、自ら決断せずに国民に責任を丸投げしたと言われても仕方無いでしょう。

早ければ7月1日にもデフォルトとなる可能性

これに対しEUは27日に開いた財務相会合で、支援延長拒否と国民投票反対を決めました。しかも「ギリシャを除くすべてのユーロ圏」で。これは何事も全会一致を不文律にしてきたEUとしては異例のことです。以前なら、イタリア、スペインなど、ギリシャと似たように財政危機に陥った国々が味方になってくれたかもしれませんが、今回は完全にギリシャを突き放した格好です。それらの国はいずれも財政緊縮策を進めて財政再建に努力してきたのに、ギリシャは財政改革をしてこなかったわけですから、もはやEU全体を敵に回してしまったようなものです。これで、30日限りでギリシャへの支援は打ち切りとなるわけです。

一方、ギリシャ議会は28日、賛成多数で国民投票を承認しました。これで30日に迫っているIMFへの15億ユーロの返済はメドが立たなくなったと見てよいでしょう。早ければ、7月1日にもデフォルトとなる可能性が高まっています。

デフォルトは企業なら倒産、あるいは資産の差し押さえということですが、国の場合はどうなるのでしょうか。ギリシャ政府は新たな融資を受けられないので、年金や公務員給与の支払いもができなくなったり、予算も執行できなくなって通常の行政サービスにも支障が出る可能性があります。

またすでに銀行からの預金流出が増加しており、銀行の資金繰りにも大きな不安が高まっています。ギリシャの民間銀行はECB(欧州中央銀行)からギリシャ中央銀行を通してELA(緊急流動性支援)という枠組みで資金的な支援を受けていますが、このままでは同国の金融システム全体が崩壊の危機に陥る恐れがあります。

これは当然、欧州全体の金融システムと経済を揺るがすことになりますし、日本にも株安、円高などを通じて影響が波及します。

デフォルトとなる場合、"国民投票"に微妙な影響が出る可能性がある!?

実は最短で7月1日にデフォルトとなる場合は、幸か不幸か、7月5日の国民投票より先に起きるということです。ギリシャ国民がその混乱を経験することによって国民投票に微妙な影響が出る可能性があるのではないかと、実は私はにらんでいます。

このような事態に至って、「やっぱりEUの支援なしには成り立たない」「ユーロを離脱すればもっとひどいことになる」と悟って、EUの財政再建案受け入れ賛成が増えるのではないかという推測が成り立ちます。前回に紹介した通り、6月上旬に実施された世論調査「ギリシャ政府はEUに譲歩すべき」との答えが70%との結果が出ていますので、国民投票では「EUの財政再建案受け入れ賛成」が多数になる可能性はありうると思います。

その場合は、EUの支援は再開され事態は解決に向かうでしょう。しかし「反対」を呼びかけたチプラス政権は退陣せざるを得なくなるでしょう。そうなるとまた政局が混乱し、新政権ができるまで時間がかかるという別の問題が起きる懸念があります。

今回の事態、ギリシャが"民主主義発祥の国"だということが皮肉に見える…

しかし逆のこともあり得ます。「ここまで追い込んだEUはけしからん」と感じる人が増えるかもしれません。国民投票で「拒否」との結論が出た場合は、さらに経済混乱が長引く恐れがあります。国民投票が終わって間もなくの7月20日には、ECBが保有しているギリシャ国債35億ユーロ(4700億円)、続いて8月20日には同じく32億ユーロ(4300億円)の償還、つまり借金返済の期限がやってきますが、これも返済できないことになります。

しかも国民投票で「NO」との答えを出すことは、ギリシャ国民が事実上ユーロ離脱を選択することを意味するわけで、そのことは一段と事態を混迷させることになるでしょう。EUが統合を進めてきた戦略そのものが根底から覆るわけですから、欧州全体の不安定化につながる恐れも出てくるでしょう。

それにしても今回の事態を見ていると、ギリシャが民主主義発祥の国だということが何とも皮肉に見えてきます。現政権は今年1月の総選挙で勝利したという点では民意によって選ばれたわけですが、その民意を盾に財政緊縮を頑なに拒否し、今度は土壇場で「国民投票」という形で民意を利用しようとしています。

しかしその実態はギリシャ国民の利益を損なう行動を繰り返しているのですから、本当に民意を代表していると言えるのでしょうか。今度の国民投票ではどのような民意が示されるのか、民主主義のあり方を考えるうえでも、今度の国民投票に注目したいと思います。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

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インデックス

連載目次
第91回 28日衆院解散 - 消費増税などが争点、一転して「自民vs小池新党」の構図に
第90回 米債務上限引き上げ・デフォルト回避で安心感 - しかしトランプ大統領と身内・共和党の溝広がる
第89回 トランプ政権は崩壊寸前!? 米政治不安で株安・円高か - バノン氏解任で政策修正の期待も
第88回 日本橋の高速道路を地下化が具体化 - 都市景観を改善、周辺の再開発と連携
第87回 選挙で明暗分かれたイギリスとフランス - イギリスのEU離脱の行方は混迷
第86回 G7で亀裂を呼んだトランプ大統領 - ロシアゲートで前途に暗雲
第85回 フランス大統領にマクロン氏、ポピュリズム拡大にひとまず歯止め - 新政権のカギは経済立て直し
第84回 フランス大統領選"3度目のまさか"は避けられた - 安堵感広がるが、なおリスクも
第83回 英国がEU離脱を通知 - 交渉は難航か、スコットランドなど国内にも火種
第82回 オランダ総選挙の次はフランス大統領選 - 欧州の政治リスクは続く
第81回 トランプ大統領に批判集中だが、NY株価は11日連続で史上最高値
第80回 “日本批判”を封印した日米首脳会談に安堵感
第79回 トランプ大統領の日本批判は事実誤認--だが日本経済は逆風に耐える力あり
第78回 トランプ次期大統領の矛先がトヨタへ - 2017年は保護主義、ポピュリズムの「懸念」が「現実」に?
第77回 トランプ新大統領を迎える米国を現地取材 - やはり根強い批判、しかし景気は予想以上に好調
第76回 Brexit、トランプの次はイタリア・ショック!?--欧州経済危機再燃の恐れも
第75回 "トランプ大統領"で株高・円安いつまで?--景気には期待、保護主義には警戒
第74回 トランプ大統領の衝撃--保護主義が最大の懸念だが国内経済政策には期待も
第73回 米大統領選の世論調査、トランプ氏が上回る - 株価下落・円高が現実に!?
第72回 米大統領選はどうなる!? 大詰めで波乱 - 市場は「トランプ大統領」を警戒
第71回 米大統領選が終盤戦 - 苦しくなったトランプ氏、浮かび上がった3つの問題点
第70回 現地で見た”Brexitショック”のその後(下) - スコットランド独立? 北アイルランドも!?
第69回 現地で見た"Brexitショック"のその後(上) - 予想外に活気があった英国
第68回 リオ五輪のメダル最多で、景気は本格回復!? 五輪と景気の意外な関係
第67回 28兆円の経済対策と内閣改造 - アベノミクス再強化でデフレ完全脱却めざす
第66回 トルコのクーデター未遂事件の影響は? 中東安定、難民問題、欧州経済の鍵
第65回 参院選の与党勝利はアベノミクスへの信任--脱デフレへ10兆規模の経済政策
第64回 英国EU離脱ショックはリーマン・ショック級--欧州統合は空中分解のおそれ
第63回 英国がEU離脱なら株安・円高進行のおそれ
第62回 消費増税を延期した本当の理由 - 経済成長なしに財政再建はあり得ない
第61回 伊勢志摩サミット、注目は"財政出動"--終了後に消費増税延期を正式決定か
第60回 急激な円高・株安はなぜ起きたか - 米大統領選も円高要因に?
第59回 セブン&アイ鈴木会長、突然の退任に波紋 - セブンは強さを維持できるか
第58回 公示地価は全国平均で8年ぶり上昇、地方圏も底上げ--資産デフレ脱却へ前進
第57回 自動車・電機など賃上げ低水準、景気浮揚には力不足 - 消費増税延期の後押し材料に?
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第55回 シャープが台湾・鴻海の傘下入りで再建の行方は? - 創業者・早川徳次の不屈の精神を取り戻せるか
第54回 株安・円高が加速 - 主な原因は海外だが……
第53回 マイナス金利の影響早くも広がる - 預金金利引き下げなど続々
第52回 マイナス金利を導入したのはなぜ? - 景気回復が期待できる4つの経路
第51回 原油安で"イランつぶし"を狙ったサウジの戦略は変化するか?--減産の兆しも
第50回 原油安はいつまで続くのか!?--サウジVSイランで減産どころかシェア争いも
第49回 2016年、日本経済はどうなる?--"景気回復続く"4つの理由、消費増税再延期も!?
第48回 2015年の世界経済、救ったのは"米国"--2016年はギリシャ、原油安など要注意
第47回 パリの同時テロ、低迷する欧州経済に追い討ちか--"移動の自由"はどうなる!?
第46回 幕末の「薩長土肥」に学ぶ地方創生のヒントとは!?--日本は今"第2の明治維新"
第45回 中国やブラジルなど新興国はなぜ変調?--今や"世界経済最大のリスク"に
第44回 消費税の軽減税率、安倍首相は財務省に不信感--再増税自体の先送りも?
第43回 ノーベル賞日本人2人受賞の快挙が示す日本の底力
第42回 VWは不祥事の"典型"パターンの一つ--トップの指示? 黙認?
第41回 VWの排ガス不正、"史上最悪"の企業不祥事 - 自動車業界全体に影響広がる
第40回 欧州への難民流入、EU統合の理念揺るがす--受け入れめぐり"東西対立"
第39回 日経平均下落の原因は"中国"だけではない--"安倍景気"息切れ、追加緩和も
第38回 中国はなぜ人民元を切り下げた? - 「経済安定」こそ習近平政権の生命線
第37回 優等生・東芝はなぜ「利益水増し」を行ったのか!?--日立への対抗意識も動機
第36回 ギリシャ・チプラス首相はなぜ"豹変"したのか!?--EU支援決定の舞台裏
第35回 中国株はなぜ急落したのか!?--EUと深い関係、ギリシャ危機の影響に注意
第34回 ギリシャ「緊縮反対」が"勝利"、デフォルト・ユーロ離脱に突き進むのか!?
第33回 ギリシャ、ついにデフォルトか!?--7・1デフォルトの場合、国民投票はどうなる?
第32回 ギリシャ危機はひとまず回避、しかし険しい道続く--ロシア・中国の影も…
第31回 米国の利上げはいつ? - イエレン議長のバックグラウンドを考慮すると…
第30回 円安はどこまで進むのか?--米国はいつまで円安を"容認"する!?
第29回 日本の対外純資産が24年連続で世界一、もはや"貿易"で稼ぐ国ではない!?
第28回 "どん底"からの復活 - シャープは創業者・早川徳次氏の精神を取り戻せ
第27回 トヨタが3期連続最高益へ、好決算の陰で"死角"はないのか!?
第26回 安倍首相訪米の隠れた"もう一つの成果"--なぜ米国は「円安」を容認するのか?
第25回 「TPP交渉」加速の陰に「AIIB」の存在あり--日本を巡り米国と中国が綱引き
第24回 セブンが独走し明暗分かれるコンビニ業界--セブン好調はマック低迷と関係!?
第23回 「株価回復は2万円で終わりではない」 - 長期的な上昇相場の"通過点"
第22回 日銀短観、「景況感は横ばい」の"謎"--デフレの"トラウマ"いまだ
第21回 サウジはなぜイエメン内戦に介入!?--原油価格や世界経済に新たな波乱要因か?
第20回 貿易赤字が縮小傾向、何が起きているのか? - その原因と影響を探る
第19回 3月中にも「日経平均2万円」達成か--"賃上げ・原油安"が強烈な追い風に
第18回 賃上げ機運高まる - "実質賃金"はプラスに転換できるか?
第17回 なぜ日経平均が15年ぶりの高値をつけたのか!?--日本経済の"歴史的転換"背景
第16回 「日経平均」が15年ぶりの高値、過去3回の上昇局面と何が違うのか!?
第15回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(3)--ドイツへの"敵意"の背景とは!?
第14回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(2)--ユーロ発足時から危機の"タネ"
第13回 EUはけしからん!? - ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?
第12回 ECBがついに「量的金融緩和」、原油価格の下落で"最終決断"
第11回 フランスのテロ事件、経済への影響は? - 世界を揺るがす「地政学リスク」
第10回 なぜ原油価格が下落している?(2) - ヘッジファンドなどの資金が一斉に"逃げ"
第9回 2015年の米国経済、注目点は!? - 3つの構造変化で景気持続の可能性
第8回 2015年の日本経済はこうなる - 「日経平均2万円」へ"4つの追い風"
第7回 原油安でルーブル暴落、ロシアは一体どうなるのか?--欧米による"経済制裁"!?
第6回 総選挙で自民・公明の与党が勝利、でも株価が下落したのはなぜ?
第5回 なぜ原油価格が下落している? - OPECと米国が"我慢比べ"、日本への影響は?
第4回 "訪日外国人数"が過去最高 - 「観光」は"経済成長"の柱になりうるのか?
第3回 "GDPショック"走る - 消費再増税延期・衆院解散でアベノミクスの行方は?
第2回 「米中間選挙」でオバマ民主党が"歴史的大敗"、日本経済への影響は?
第1回 "電撃的"だった日銀の「追加緩和」~その背景と効果は?

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