【コラム】

経済ニュースの"ここがツボ"

29 日本の対外純資産が24年連続で世界一、もはや"貿易"で稼ぐ国ではない!?

 

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連載『経済ニュースの"ここがツボ"』では、日本経済新聞記者、編集委員を経てテレビ東京経済部長、テレビ東京アメリカ社長などを歴任、「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーとして活躍、現在大阪経済大学客員教授の岡田 晃(おかだ あきら)氏が、旬の経済ニュースを解説しながら、「経済ニュースを見る視点」を皆さんとともに考えていきます。


日本の対外純資産が3年連続で過去最高、その3つの特徴・要因

財務省がこのほど発表した日本の対外純資産は2014年末時点で366兆8560億円で、前年末より12.6%増加して3年連続で過去最高、24年連続で世界1位となりました。対外純資産は、日本の政府や企業、個人が海外に持つ資産から負債を差し引いたもので、いわば日本が海外にもっている「正味の資産」。このデータから、日本経済が元気を取り戻しつつある姿が浮かび上がってきます。

対外純資産は24年も連続して世界一の座を守っているわけですが、それでもその時々の日本経済を反映して増減を繰り返してきました。リーマン・ショックが起きた2008年にも減少し、その後も一進一退が続きました。しかしアベノミクスが始まった2012年以降は増加が大きくなっています。

最近の対外純資産の増加には、3つの特徴・要因があります。第1は、円安によって海外資産を円換算した金額が膨らんだことです。2014年末時点で日本が海外にもつ資産は前年末に比べて約147兆円増加しましたが、そのうちの約4割、64兆円は円安によるものです。つまり円安のおかげで資産の価値が64兆円も増加したことになります。こんなところにも、円安のプラス効果が表れていることがわかります。

第2は、その円安効果を差し引いても資産そのものが増えていることで、その中心となっているのが直接投資と証券投資の増加です。直接投資とは、企業などが海外に工場を建設したり海外企業を買収することを目的とする投資のことで、最近は日本企業が海外企業を買収するM&Aを活発化させていることが背景にあります。

また証券投資の増加は、日本の投資家が運用目的で海外の株式や債券への投資を増やしていることを示しています。最近の日本の株価上昇を背景に投資家の姿勢が積極的になっていることの反映でもあると言えるでしょう。

第3は、対外資産と対外負債の両方とも増加していることです。対外資産の増加は前述のように約147兆円ですが、対外負債の増加も約106兆円に達しています。対外負債の大幅増加の主な要因は、外国人投資家による日本株や債券への投資が増えたことです。これも日本の株価上昇によって外国人投資家が日本株への投資を増やしている姿を映し出しており、それがまた株価をさらに上昇させるという循環につながっています。

その結果、対外資産の増加の方が大きかったわけですが、資産、負債ともに大幅に増加したことは、日本経済が海外に向かって拡大軌道を歩んでいることを物語っています。

対外純資産の増加が日本経済にもたらす影響とは!?

それでは、対外純資産の増加は日本経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。対外純資産とは言葉を換えれば日本が世界中にもつ財産です。そこから生み出される利益が日本経済をさらに潤すことになるのです。

たとえば、多くの日本企業がM&Aによって海外企業を買収し傘下に収めた結果、その企業が稼いだ利益は親会社である日本企業の収益となります。海外株式への投資も、その株価が上昇すれば利益が日本の投資家の手元に入ってくることになりますし、配当による所得も期待できます。

そしてそれら海外からの収益が国内に還流することによって日本の経常収支を支える役割も果たします。日本はこの数年、輸出から輸入を差し引いた貿易収支で赤字に転落しましたが、この海外からの投資収益が増加していることによって、貿易収支の赤字分を埋める結果となっているのです。海外企業へのM&Aが今後も増えることが予想されますので、投資収益もますます拡大することが期待されます。日本と言えば貿易で稼ぐ国でしたが、いまや収益構造が変化してきたともいえるわけです。日本経済という"木"が世界中に根を張り、そこから得る栄養分でますます成長していく姿をイメージすることができます。

このように、対外純資産のデータはアベノミクスによって日本経済が海外に打って出て元気を取り戻しつつある現状を如実に表しています。対外純資産はまさに日本経済成長の重要な基盤なのです。

財政赤字の問題を考えるうえで、一つの安心材料を提供

さらにこれだけ膨大な対外純資産があることは、実は財政赤字の問題を考えるうえで、一つの安心材料を提供してくれています。日本の財政赤字の残高は約1000兆円にのぼっていますが、対外純資産残高は367兆円。極論すれば、いざとなればそれら対外純資産で財政赤字の約3分の1は穴埋め可能という計算になります。もちろん現実には、対外純資産を全て売却することなど不可能ですが、財政赤字問題で過度な悲観論に陥ることなく冷静に議論するための材料にはなりうるでしょう。

このように日本経済にとって意味の大きい対外純資産ですが、問題がないわけではありません。その一つが海外リスクです。海外企業を買収してもすべてがうまくいくわけではありません。買収先企業の経営が思わしくなく、かえって親会社である日本企業の足を引っ張るケースもあります。最近、LIXILグループの海外子会社が経営破綻しましたが、まさにその代表例と言えます。海外でのビジネスや投資はこうしたリスクを抜きには考えられません。海外資産が増えれば増えるほどリスク管理もまた重要になってくるのです。それもまた日本経済が元気を取り戻すために通らなければならない道でもあると言えるでしょう。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

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インデックス

連載目次
第65回 参院選の与党勝利はアベノミクスへの信任--脱デフレへ10兆規模の経済政策
第64回 英国EU離脱ショックはリーマン・ショック級--欧州統合は空中分解のおそれ
第63回 英国がEU離脱なら株安・円高進行のおそれ
第62回 消費増税を延期した本当の理由 - 経済成長なしに財政再建はあり得ない
第61回 伊勢志摩サミット、注目は"財政出動"--終了後に消費増税延期を正式決定か
第60回 急激な円高・株安はなぜ起きたか - 米大統領選も円高要因に?
第59回 セブン&アイ鈴木会長、突然の退任に波紋 - セブンは強さを維持できるか
第58回 公示地価は全国平均で8年ぶり上昇、地方圏も底上げ--資産デフレ脱却へ前進
第57回 自動車・電機など賃上げ低水準、景気浮揚には力不足 - 消費増税延期の後押し材料に?
第56回 "トランプ旋風"いつまで続くか - 世界経済にマイナスの影響のおそれ
第55回 シャープが台湾・鴻海の傘下入りで再建の行方は? - 創業者・早川徳次の不屈の精神を取り戻せるか
第54回 株安・円高が加速 - 主な原因は海外だが……
第53回 マイナス金利の影響早くも広がる - 預金金利引き下げなど続々
第52回 マイナス金利を導入したのはなぜ? - 景気回復が期待できる4つの経路
第51回 原油安で"イランつぶし"を狙ったサウジの戦略は変化するか?--減産の兆しも
第50回 原油安はいつまで続くのか!?--サウジVSイランで減産どころかシェア争いも
第49回 2016年、日本経済はどうなる?--"景気回復続く"4つの理由、消費増税再延期も!?
第48回 2015年の世界経済、救ったのは"米国"--2016年はギリシャ、原油安など要注意
第47回 パリの同時テロ、低迷する欧州経済に追い討ちか--"移動の自由"はどうなる!?
第46回 幕末の「薩長土肥」に学ぶ地方創生のヒントとは!?--日本は今"第2の明治維新"
第45回 中国やブラジルなど新興国はなぜ変調?--今や"世界経済最大のリスク"に
第44回 消費税の軽減税率、安倍首相は財務省に不信感--再増税自体の先送りも?
第43回 ノーベル賞日本人2人受賞の快挙が示す日本の底力
第42回 VWは不祥事の"典型"パターンの一つ--トップの指示? 黙認?
第41回 VWの排ガス不正、"史上最悪"の企業不祥事 - 自動車業界全体に影響広がる
第40回 欧州への難民流入、EU統合の理念揺るがす--受け入れめぐり"東西対立"
第39回 日経平均下落の原因は"中国"だけではない--"安倍景気"息切れ、追加緩和も
第38回 中国はなぜ人民元を切り下げた? - 「経済安定」こそ習近平政権の生命線
第37回 優等生・東芝はなぜ「利益水増し」を行ったのか!?--日立への対抗意識も動機
第36回 ギリシャ・チプラス首相はなぜ"豹変"したのか!?--EU支援決定の舞台裏
第35回 中国株はなぜ急落したのか!?--EUと深い関係、ギリシャ危機の影響に注意
第34回 ギリシャ「緊縮反対」が"勝利"、デフォルト・ユーロ離脱に突き進むのか!?
第33回 ギリシャ、ついにデフォルトか!?--7・1デフォルトの場合、国民投票はどうなる?
第32回 ギリシャ危機はひとまず回避、しかし険しい道続く--ロシア・中国の影も…
第31回 米国の利上げはいつ? - イエレン議長のバックグラウンドを考慮すると…
第30回 円安はどこまで進むのか?--米国はいつまで円安を"容認"する!?
第29回 日本の対外純資産が24年連続で世界一、もはや"貿易"で稼ぐ国ではない!?
第28回 "どん底"からの復活 - シャープは創業者・早川徳次氏の精神を取り戻せ
第27回 トヨタが3期連続最高益へ、好決算の陰で"死角"はないのか!?
第26回 安倍首相訪米の隠れた"もう一つの成果"--なぜ米国は「円安」を容認するのか?
第25回 「TPP交渉」加速の陰に「AIIB」の存在あり--日本を巡り米国と中国が綱引き
第24回 セブンが独走し明暗分かれるコンビニ業界--セブン好調はマック低迷と関係!?
第23回 「株価回復は2万円で終わりではない」 - 長期的な上昇相場の"通過点"
第22回 日銀短観、「景況感は横ばい」の"謎"--デフレの"トラウマ"いまだ
第21回 サウジはなぜイエメン内戦に介入!?--原油価格や世界経済に新たな波乱要因か?
第20回 貿易赤字が縮小傾向、何が起きているのか? - その原因と影響を探る
第19回 3月中にも「日経平均2万円」達成か--"賃上げ・原油安"が強烈な追い風に
第18回 賃上げ機運高まる - "実質賃金"はプラスに転換できるか?
第17回 なぜ日経平均が15年ぶりの高値をつけたのか!?--日本経済の"歴史的転換"背景
第16回 「日経平均」が15年ぶりの高値、過去3回の上昇局面と何が違うのか!?
第15回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(3)--ドイツへの"敵意"の背景とは!?
第14回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(2)--ユーロ発足時から危機の"タネ"
第13回 EUはけしからん!? - ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?
第12回 ECBがついに「量的金融緩和」、原油価格の下落で"最終決断"
第11回 フランスのテロ事件、経済への影響は? - 世界を揺るがす「地政学リスク」
第10回 なぜ原油価格が下落している?(2) - ヘッジファンドなどの資金が一斉に"逃げ"
第9回 2015年の米国経済、注目点は!? - 3つの構造変化で景気持続の可能性
第8回 2015年の日本経済はこうなる - 「日経平均2万円」へ"4つの追い風"
第7回 原油安でルーブル暴落、ロシアは一体どうなるのか?--欧米による"経済制裁"!?
第6回 総選挙で自民・公明の与党が勝利、でも株価が下落したのはなぜ?
第5回 なぜ原油価格が下落している? - OPECと米国が"我慢比べ"、日本への影響は?
第4回 "訪日外国人数"が過去最高 - 「観光」は"経済成長"の柱になりうるのか?
第3回 "GDPショック"走る - 消費再増税延期・衆院解散でアベノミクスの行方は?
第2回 「米中間選挙」でオバマ民主党が"歴史的大敗"、日本経済への影響は?
第1回 "電撃的"だった日銀の「追加緩和」~その背景と効果は?

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