【コラム】

経済ニュースの"ここがツボ"

17 なぜ日経平均が15年ぶりの高値をつけたのか!?--日本経済の"歴史的転換"背景

17/89

連載『経済ニュースの"ここがツボ"』では、日本経済新聞記者、編集委員を経てテレビ東京経済部長、テレビ東京アメリカ社長などを歴任、「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーとして活躍、現在大阪経済大学客員教授の岡田 晃(おかだ あきら)氏が、旬の経済ニュースを解説しながら、「経済ニュースを見る視点」を皆さんとともに考えていきます。


景気判断で最も重要な指標の一つ、「鉱工業生産指数」が上昇傾向を強める

日経平均株価が2月19日に15年ぶりの高値をつけましたが、その後も株価は上昇が続いています。普通なら目標達成感が出ていったん下げてもおかしくないところですが、利益確定の売りを吸収しながら着実に株価を切り上げており、地合いの強さを感じさせます。

前回のコラムで、今回の高値更新の4つの背景をあげましたが、そのうち「国内景気の持ち直し」について詳しく見てみましょう。実はその後、新しい経済データが発表されました。経済産業省が2月27日に発表した1月の鉱工業生産指数が前月比4.0%増という高い伸びを示したのです。鉱工業生産指数は全国の製造業など約2万社を対象に生産、出荷、在庫などのデータを集め、それをもとに生産の水準を指数化しているものです。生産の増減は景気を敏感に反映するとともに、生産の状況が景気に影響を与えるため、景気を判断するうえで最も重要な指標の一つです。

同指数の最近の動きを見ると、アベノミクスの始まりとともに2013年は上昇しましたが、昨年4月の消費増税を控えて同2月から下がり始め、秋ごろまで低下が続きました。しかし昨年秋以降は徐々に持ち直し、特にここへきて上昇傾向を強めているのが分かります。

輸出も増加傾向がはっきりしてきました。これまで「円安なのに輸出が増えない」と言われ、このことが消費増税の影響と並んで景気低迷の要因と言われてきましたが、そこから抜け出してきたようです。

株価のトレンドを見れば、必ず何らかの経済の実態が反映

しかし今回の株価上昇はそうした目先の動きを反映しているだけではありません。前回のコラムで「バブル崩壊後に長く続いた株価低迷に終わりを告げ、長期的な株価上昇に転換した」と書きましたが、このような歴史的な視点で見る必要があります。

そもそも「株価は経済を映す鏡」という言葉があります。その意味は、株価は経済活動のさまざまな要素を反映して変動するので、経済の実態が株価に映し出されているということです。各種の経済指標や企業の業績、金利動向や為替相場、海外経済から政策、時には政治や戦争など実にさまざまな要因によって株価は変動します。それらが集約されて株価が形成されるのです。ですから、株価の動きを見て、それがどのような経済の実態を反映しているかを判断することが大事になってきます。

よく「株価は投機で動くので、経済の実態とかけ離れている」と言われます。確かにそのような場面はよくあります。しかし個々のある局面の瞬間だけを切り取って見るのではなく、あるいは個別の銘柄だけを見るのではなく、相場全体の動き、ある一定期間を通した株価のトレンドを見れば、そこには必ず何らかの経済の実態が反映されているものです。今回の「15年ぶりの高値更新」という"鏡の中の姿"は、日本経済が長期的な低迷から脱却しつつあるという歴史的な転換を、まさに映し出していると言えます。

株価という鏡は、現在の姿だけではなく先行きの姿も映し出す

「株価は経済を映す鏡」という言葉には、もう一つ重要な要素があります。株価という鏡は、現在の姿だけではなく先行きの姿も映し出しているということです。投資家は株式を売買する際、現在の状況だけでなく今後の見通しを判断して取引を行います。たとえばある経済指標が良かったとの発表があった場合、普通なら日経平均株価は上昇しますが、常にそうとは限りません。先行きは悪化するとの予想から株価が下落するケースもよくあります。つまりこの場合の株価は「良い」という現在の姿よりも「今後は悪化する」という将来の姿を映し出しているわけです。

そのようにして形成された株価それ自体が景気に影響を与えるという側面も重要です。株価の上昇が続けば、株を保有している人はもちろんのこと、保有していない人々の心理も前向きになり消費行動が積極的になる傾向があります。こうした現象を「資産効果」と言います。アベノミクスが始まった2012年末からまず株価が急上昇し、それにつれて消費増税前の2014年3月まで消費が増加したのは、その典型例です。

株価が上昇しても一般庶民には関係ない!?

これもよく「株価が上昇しても一般庶民には関係ない」という人がいます。しかし一定の期間、株価上昇が持続すれば、やがてその経済的効果は表れるものです。「そんなことを言われても実感できない」と思う人は多いかもしれませんが、逆に株価が下落した場合のことを考えてみれば、納得されるのではないでしょうか。バブル崩壊時も株価の急落がまず始まり、その後に不況が長期化したわけですから。

過去を振り返っても、株価のトレンドが下落から上昇へ、あるいは上昇から下落へと転換してから、数か月~1年程度で景気の好不況が転換しています。たとえば、2008年9月に起きたリーマン・ショックで大不況になったわけですが、日経平均株価はその1年余り前の2007年7月をピークに下落し始めていました。またリーマン・ショック後は、株価が2009年3月10日に安値をつけた後は徐々に回復し始め、景気はその翌月の4月から回復が始まっています。

今回の高値更新、日本経済が長期的に上昇波動に乗っていく姿を映し出す

このようにして見ると、実は株価は景気の先行指標という性格を持っていることがわかります。その観点から言えば、今回の高値更新は最近の景気回復を反映したものであると同時に、この株高がさらに先行きの景気拡大をもたらす効果があることを示しています。大きな流れでとらえるなら、日本経済が長期的に上昇波動に乗っていく姿を映し出しているとも言えるのです。

世の中には株価についての軽視や誤解が多くあります。特に株価が上昇すると、すぐに「バブルだ」とか「投機だ」といった論調が一部メディアからも聞こえてきます。しかし先ほどから強調しているように、株価の持つ意味と影響は大きいものがあります。株価は「経済を映す鏡」であり「景気の先行指標」という基本に立ち返って、株価が示している経済実態の現状と先行きについてのサインを読み取ることが重要なのです。しかもそれは目先の短期的な動きではなく、長期的な視点で、ということを付け加えておきたいと思います。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

17/89

インデックス

連載目次
第89回 トランプ政権は崩壊寸前!? 米政治不安で株安・円高か - バノン氏解任で政策修正の期待も
第88回 日本橋の高速道路を地下化が具体化 - 都市景観を改善、周辺の再開発と連携
第87回 選挙で明暗分かれたイギリスとフランス - イギリスのEU離脱の行方は混迷
第86回 G7で亀裂を呼んだトランプ大統領 - ロシアゲートで前途に暗雲
第85回 フランス大統領にマクロン氏、ポピュリズム拡大にひとまず歯止め - 新政権のカギは経済立て直し
第84回 フランス大統領選"3度目のまさか"は避けられた - 安堵感広がるが、なおリスクも
第83回 英国がEU離脱を通知 - 交渉は難航か、スコットランドなど国内にも火種
第82回 オランダ総選挙の次はフランス大統領選 - 欧州の政治リスクは続く
第81回 トランプ大統領に批判集中だが、NY株価は11日連続で史上最高値
第80回 “日本批判”を封印した日米首脳会談に安堵感
第79回 トランプ大統領の日本批判は事実誤認--だが日本経済は逆風に耐える力あり
第78回 トランプ次期大統領の矛先がトヨタへ - 2017年は保護主義、ポピュリズムの「懸念」が「現実」に?
第77回 トランプ新大統領を迎える米国を現地取材 - やはり根強い批判、しかし景気は予想以上に好調
第76回 Brexit、トランプの次はイタリア・ショック!?--欧州経済危機再燃の恐れも
第75回 "トランプ大統領"で株高・円安いつまで?--景気には期待、保護主義には警戒
第74回 トランプ大統領の衝撃--保護主義が最大の懸念だが国内経済政策には期待も
第73回 米大統領選の世論調査、トランプ氏が上回る - 株価下落・円高が現実に!?
第72回 米大統領選はどうなる!? 大詰めで波乱 - 市場は「トランプ大統領」を警戒
第71回 米大統領選が終盤戦 - 苦しくなったトランプ氏、浮かび上がった3つの問題点
第70回 現地で見た”Brexitショック”のその後(下) - スコットランド独立? 北アイルランドも!?
第69回 現地で見た"Brexitショック"のその後(上) - 予想外に活気があった英国
第68回 リオ五輪のメダル最多で、景気は本格回復!? 五輪と景気の意外な関係
第67回 28兆円の経済対策と内閣改造 - アベノミクス再強化でデフレ完全脱却めざす
第66回 トルコのクーデター未遂事件の影響は? 中東安定、難民問題、欧州経済の鍵
第65回 参院選の与党勝利はアベノミクスへの信任--脱デフレへ10兆規模の経済政策
第64回 英国EU離脱ショックはリーマン・ショック級--欧州統合は空中分解のおそれ
第63回 英国がEU離脱なら株安・円高進行のおそれ
第62回 消費増税を延期した本当の理由 - 経済成長なしに財政再建はあり得ない
第61回 伊勢志摩サミット、注目は"財政出動"--終了後に消費増税延期を正式決定か
第60回 急激な円高・株安はなぜ起きたか - 米大統領選も円高要因に?
第59回 セブン&アイ鈴木会長、突然の退任に波紋 - セブンは強さを維持できるか
第58回 公示地価は全国平均で8年ぶり上昇、地方圏も底上げ--資産デフレ脱却へ前進
第57回 自動車・電機など賃上げ低水準、景気浮揚には力不足 - 消費増税延期の後押し材料に?
第56回 "トランプ旋風"いつまで続くか - 世界経済にマイナスの影響のおそれ
第55回 シャープが台湾・鴻海の傘下入りで再建の行方は? - 創業者・早川徳次の不屈の精神を取り戻せるか
第54回 株安・円高が加速 - 主な原因は海外だが……
第53回 マイナス金利の影響早くも広がる - 預金金利引き下げなど続々
第52回 マイナス金利を導入したのはなぜ? - 景気回復が期待できる4つの経路
第51回 原油安で"イランつぶし"を狙ったサウジの戦略は変化するか?--減産の兆しも
第50回 原油安はいつまで続くのか!?--サウジVSイランで減産どころかシェア争いも
第49回 2016年、日本経済はどうなる?--"景気回復続く"4つの理由、消費増税再延期も!?
第48回 2015年の世界経済、救ったのは"米国"--2016年はギリシャ、原油安など要注意
第47回 パリの同時テロ、低迷する欧州経済に追い討ちか--"移動の自由"はどうなる!?
第46回 幕末の「薩長土肥」に学ぶ地方創生のヒントとは!?--日本は今"第2の明治維新"
第45回 中国やブラジルなど新興国はなぜ変調?--今や"世界経済最大のリスク"に
第44回 消費税の軽減税率、安倍首相は財務省に不信感--再増税自体の先送りも?
第43回 ノーベル賞日本人2人受賞の快挙が示す日本の底力
第42回 VWは不祥事の"典型"パターンの一つ--トップの指示? 黙認?
第41回 VWの排ガス不正、"史上最悪"の企業不祥事 - 自動車業界全体に影響広がる
第40回 欧州への難民流入、EU統合の理念揺るがす--受け入れめぐり"東西対立"
第39回 日経平均下落の原因は"中国"だけではない--"安倍景気"息切れ、追加緩和も
第38回 中国はなぜ人民元を切り下げた? - 「経済安定」こそ習近平政権の生命線
第37回 優等生・東芝はなぜ「利益水増し」を行ったのか!?--日立への対抗意識も動機
第36回 ギリシャ・チプラス首相はなぜ"豹変"したのか!?--EU支援決定の舞台裏
第35回 中国株はなぜ急落したのか!?--EUと深い関係、ギリシャ危機の影響に注意
第34回 ギリシャ「緊縮反対」が"勝利"、デフォルト・ユーロ離脱に突き進むのか!?
第33回 ギリシャ、ついにデフォルトか!?--7・1デフォルトの場合、国民投票はどうなる?
第32回 ギリシャ危機はひとまず回避、しかし険しい道続く--ロシア・中国の影も…
第31回 米国の利上げはいつ? - イエレン議長のバックグラウンドを考慮すると…
第30回 円安はどこまで進むのか?--米国はいつまで円安を"容認"する!?
第29回 日本の対外純資産が24年連続で世界一、もはや"貿易"で稼ぐ国ではない!?
第28回 "どん底"からの復活 - シャープは創業者・早川徳次氏の精神を取り戻せ
第27回 トヨタが3期連続最高益へ、好決算の陰で"死角"はないのか!?
第26回 安倍首相訪米の隠れた"もう一つの成果"--なぜ米国は「円安」を容認するのか?
第25回 「TPP交渉」加速の陰に「AIIB」の存在あり--日本を巡り米国と中国が綱引き
第24回 セブンが独走し明暗分かれるコンビニ業界--セブン好調はマック低迷と関係!?
第23回 「株価回復は2万円で終わりではない」 - 長期的な上昇相場の"通過点"
第22回 日銀短観、「景況感は横ばい」の"謎"--デフレの"トラウマ"いまだ
第21回 サウジはなぜイエメン内戦に介入!?--原油価格や世界経済に新たな波乱要因か?
第20回 貿易赤字が縮小傾向、何が起きているのか? - その原因と影響を探る
第19回 3月中にも「日経平均2万円」達成か--"賃上げ・原油安"が強烈な追い風に
第18回 賃上げ機運高まる - "実質賃金"はプラスに転換できるか?
第17回 なぜ日経平均が15年ぶりの高値をつけたのか!?--日本経済の"歴史的転換"背景
第16回 「日経平均」が15年ぶりの高値、過去3回の上昇局面と何が違うのか!?
第15回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(3)--ドイツへの"敵意"の背景とは!?
第14回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(2)--ユーロ発足時から危機の"タネ"
第13回 EUはけしからん!? - ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?
第12回 ECBがついに「量的金融緩和」、原油価格の下落で"最終決断"
第11回 フランスのテロ事件、経済への影響は? - 世界を揺るがす「地政学リスク」
第10回 なぜ原油価格が下落している?(2) - ヘッジファンドなどの資金が一斉に"逃げ"
第9回 2015年の米国経済、注目点は!? - 3つの構造変化で景気持続の可能性
第8回 2015年の日本経済はこうなる - 「日経平均2万円」へ"4つの追い風"
第7回 原油安でルーブル暴落、ロシアは一体どうなるのか?--欧米による"経済制裁"!?
第6回 総選挙で自民・公明の与党が勝利、でも株価が下落したのはなぜ?
第5回 なぜ原油価格が下落している? - OPECと米国が"我慢比べ"、日本への影響は?
第4回 "訪日外国人数"が過去最高 - 「観光」は"経済成長"の柱になりうるのか?
第3回 "GDPショック"走る - 消費再増税延期・衆院解散でアベノミクスの行方は?
第2回 「米中間選挙」でオバマ民主党が"歴史的大敗"、日本経済への影響は?
第1回 "電撃的"だった日銀の「追加緩和」~その背景と効果は?

もっと見る

人気記事

一覧

イチオシ記事

新着記事