【コラム】

経済ニュースの"ここがツボ"

15 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(3)--ドイツへの"敵意"の背景とは!?

岡田晃  [2015/02/17]

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連載『経済ニュースの"ここがツボ"』では、日本経済新聞記者、編集委員を経てテレビ東京経済部長、テレビ東京アメリカ社長などを歴任、「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーとして活躍、現在大阪経済大学客員教授の岡田 晃(おかだ あきら)氏が、旬の経済ニュースを解説しながら、「経済ニュースを見る視点」を皆さんとともに考えていきます。


ギリシャの「デフォルト(債務不履行)」、「ユーロ離脱」のリスク高まる

ギリシャ問題を話し合うため、先週のユーロ圏財務相会合とEU首脳会議に続いて、16日には再びユーロ圏財務相会合が開かれましたが、ギリシャとEU側との隔たりは依然大きく会合は決裂しました。EU側は2月末で終了する現行の金融支援の延長を主張しましたが、ギリシャは財政緊縮の継続を前提とした延長は受け入れられないと拒否したそうです。合意の見通しは今のところ立っておらず、このままでは期限切れに間に合わない可能性が高くなってきました。

ギリシャのデフォルト(債務不履行)、ユーロ離脱のリスクは従来より高まってきました。

特に気がかりなのが、ギリシャとEU側、特にドイツとの対立が以前より一段と大きくなっていることです。報道によると、ギリシャの新政権はかつてのナチスによる第2次世界大戦の戦時賠償として110億ユーロ(約1兆5000億円)を請求しているそうです。チプラス首相などの言動を見ていると、ドイツとの「対立」を通り越して「敵意」さえ感じます。「歴史認識」の問題を蒸し返して対立をあおるばかりで、まともに支援の合意を取り付けようとする姿勢には見えません。

「我々はメルケル(独首相)の植民地ではない!」

先日、テレビでギリシャのデモのニュースを放送していましたが、デモ隊の中に「我々はメルケル(独首相)の植民地ではない!」と英語で書いたプラカードがありました。一般国民の間にも反ドイツ感情が高まっていることがうかがえます。

これに対してドイツ側は「脅迫されてギリシャを救済することはない」(ショイブレ財務相)と反発を強めており、ギリシャを突き放すような発言も出始めています。今後の情勢はギリシャ自身は当然ですが、ドイツの対応がカギを握っていることは確かです。

実はもう一つ、隠れたカギを握っている国があります。それはロシアです。ギリシャ新政権がロシアに接近する姿勢を見せていることは以前に書きましたが、ドイツへの反発が高まっているのと入れ替わるような形です。当初は、ギリシャの新政権がロシアへの接近をにおわせてEUとの交渉を有利に進めようというねらいかと思ったのですが、その後の様子を見ていると必ずしも駆け引きだけとは言えなくなってきました。ロシアもその間隙をぬってギリシャへの接近を図っているようです。

NATOに加盟する西側の最前線の国でありながら、国内政治は左派が強い歴史

このような展開になってきたギリシャ情勢を理解するには、同国の政治的背景にも目を向ける必要があります。

この連載でこれまでも指摘してきましたが、ギリシャは欧州にとって地政学的に重要な位置にあります。そのため東西冷戦時代には、1952年にNATO(北大西洋条約機構)に加盟し、対ソ連戦略の最前線としての役割を担っていました。

しかしその後、軍事政権時代を経て、1980年代以降は社会主義政権が誕生しました。当時の首相は親ソ派で有名でした。以来、長年にわたって中道左派の全ギリシャ社会主義運動(PASOK)と中道右派の新民主主義党(ND)という2大政党のどちらか、またはその連立の政権が続きました。NATOに加盟する西側の最前線の国でありながら、国内政治は左派が強いという独特の政治的な風土が形成されてきたわけです。

このような政治的な経過と社会主義的な政策の中で、公的部門が膨れ上がり公務員が増え続けました。労働組合が強くなり、効率の悪い経済構造が出来上がりました。これがギリシャ危機の背景の一つでもあるのです。

実はギリシャはかつては海運・造船が基幹産業でした。余談ですが、あのケネディ米大統領の未亡人となったジャクリーン・ケネディーの再婚相手、オナシスはギリシャの海運王と呼ばれた大富豪でした。それほどギリシャの海運業は隆盛をきわめていたわけです。ギリシャはちょうどアジア方面からスエズ運河を通って地中海を経て欧州各国に向かう中継点に当たり、多くの貨物船でギリシャの港はにぎわっていました。

ところが港湾労働者のスト頻発や港湾業務の効率の悪さなどのため、船主がギリシャへの寄稿を敬遠するようになり、海運は衰退していきました。その結果、今では有力な基幹産業が見当たらず、これが経済再建をより一層難しくしているのです。

「反ユーロ」「親ロシア」にはギリシャの歴史的な"伝統"

このような歴史を振り返ると、現在のギリシャにもその歴史的な"伝統"が表れていると言えます。正真正銘の左派政権の下で、EUとユーロの一員でありながら「反ユーロ」の動きを見せ、その一方でロシアに接近する構えも見せているわけです。

そのロシアもギリシャ左派政権に接近しようとしています。ウクライナでは停戦で合意しましたが、「強いロシア復活」をめざすプーチン大統領にとってウクライナを影響下に置き続けたいところでしょう。そんな中でギリシャとよしみを通じることができれば欧州戦略を有利に展開できることになるでしょう。

西欧側としてはなんとしてもそれは阻止しなければなりません。そしてその中心となるのは、やはりドイツです。ギリシャ問題でも知恵を出して解決への糸口を見つけられるかどうか、2月末まで正念場が続きそうです。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

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インデックス

連載目次
第60回 急激な円高・株安はなぜ起きたか - 米大統領選も円高要因に?
第59回 セブン&アイ鈴木会長、突然の退任に波紋 - セブンは強さを維持できるか
第58回 公示地価は全国平均で8年ぶり上昇、地方圏も底上げ--資産デフレ脱却へ前進
第57回 自動車・電機など賃上げ低水準、景気浮揚には力不足 - 消費増税延期の後押し材料に?
第56回 "トランプ旋風"いつまで続くか - 世界経済にマイナスの影響のおそれ
第55回 シャープが台湾・鴻海の傘下入りで再建の行方は? - 創業者・早川徳次の不屈の精神を取り戻せるか
第54回 株安・円高が加速 - 主な原因は海外だが……
第53回 マイナス金利の影響早くも広がる - 預金金利引き下げなど続々
第52回 マイナス金利を導入したのはなぜ? - 景気回復が期待できる4つの経路
第51回 原油安で"イランつぶし"を狙ったサウジの戦略は変化するか?--減産の兆しも
第50回 原油安はいつまで続くのか!?--サウジVSイランで減産どころかシェア争いも
第49回 2016年、日本経済はどうなる?--"景気回復続く"4つの理由、消費増税再延期も!?
第48回 2015年の世界経済、救ったのは"米国"--2016年はギリシャ、原油安など要注意
第47回 パリの同時テロ、低迷する欧州経済に追い討ちか--"移動の自由"はどうなる!?
第46回 幕末の「薩長土肥」に学ぶ地方創生のヒントとは!?--日本は今"第2の明治維新"
第45回 中国やブラジルなど新興国はなぜ変調?--今や"世界経済最大のリスク"に
第44回 消費税の軽減税率、安倍首相は財務省に不信感--再増税自体の先送りも?
第43回 ノーベル賞日本人2人受賞の快挙が示す日本の底力
第42回 VWは不祥事の"典型"パターンの一つ--トップの指示? 黙認?
第41回 VWの排ガス不正、"史上最悪"の企業不祥事 - 自動車業界全体に影響広がる
第40回 欧州への難民流入、EU統合の理念揺るがす--受け入れめぐり"東西対立"
第39回 日経平均下落の原因は"中国"だけではない--"安倍景気"息切れ、追加緩和も
第38回 中国はなぜ人民元を切り下げた? - 「経済安定」こそ習近平政権の生命線
第37回 優等生・東芝はなぜ「利益水増し」を行ったのか!?--日立への対抗意識も動機
第36回 ギリシャ・チプラス首相はなぜ"豹変"したのか!?--EU支援決定の舞台裏
第35回 中国株はなぜ急落したのか!?--EUと深い関係、ギリシャ危機の影響に注意
第34回 ギリシャ「緊縮反対」が"勝利"、デフォルト・ユーロ離脱に突き進むのか!?
第33回 ギリシャ、ついにデフォルトか!?--7・1デフォルトの場合、国民投票はどうなる?
第32回 ギリシャ危機はひとまず回避、しかし険しい道続く--ロシア・中国の影も…
第31回 米国の利上げはいつ? - イエレン議長のバックグラウンドを考慮すると…
第30回 円安はどこまで進むのか?--米国はいつまで円安を"容認"する!?
第29回 日本の対外純資産が24年連続で世界一、もはや"貿易"で稼ぐ国ではない!?
第28回 "どん底"からの復活 - シャープは創業者・早川徳次氏の精神を取り戻せ
第27回 トヨタが3期連続最高益へ、好決算の陰で"死角"はないのか!?
第26回 安倍首相訪米の隠れた"もう一つの成果"--なぜ米国は「円安」を容認するのか?
第25回 「TPP交渉」加速の陰に「AIIB」の存在あり--日本を巡り米国と中国が綱引き
第24回 セブンが独走し明暗分かれるコンビニ業界--セブン好調はマック低迷と関係!?
第23回 「株価回復は2万円で終わりではない」 - 長期的な上昇相場の"通過点"
第22回 日銀短観、「景況感は横ばい」の"謎"--デフレの"トラウマ"いまだ
第21回 サウジはなぜイエメン内戦に介入!?--原油価格や世界経済に新たな波乱要因か?
第20回 貿易赤字が縮小傾向、何が起きているのか? - その原因と影響を探る
第19回 3月中にも「日経平均2万円」達成か--"賃上げ・原油安"が強烈な追い風に
第18回 賃上げ機運高まる - "実質賃金"はプラスに転換できるか?
第17回 なぜ日経平均が15年ぶりの高値をつけたのか!?--日本経済の"歴史的転換"背景
第16回 「日経平均」が15年ぶりの高値、過去3回の上昇局面と何が違うのか!?
第15回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(3)--ドイツへの"敵意"の背景とは!?
第14回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(2)--ユーロ発足時から危機の"タネ"
第13回 EUはけしからん!? - ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?
第12回 ECBがついに「量的金融緩和」、原油価格の下落で"最終決断"
第11回 フランスのテロ事件、経済への影響は? - 世界を揺るがす「地政学リスク」
第10回 なぜ原油価格が下落している?(2) - ヘッジファンドなどの資金が一斉に"逃げ"
第9回 2015年の米国経済、注目点は!? - 3つの構造変化で景気持続の可能性
第8回 2015年の日本経済はこうなる - 「日経平均2万円」へ"4つの追い風"
第7回 原油安でルーブル暴落、ロシアは一体どうなるのか?--欧米による"経済制裁"!?
第6回 総選挙で自民・公明の与党が勝利、でも株価が下落したのはなぜ?
第5回 なぜ原油価格が下落している? - OPECと米国が"我慢比べ"、日本への影響は?
第4回 "訪日外国人数"が過去最高 - 「観光」は"経済成長"の柱になりうるのか?
第3回 "GDPショック"走る - 消費再増税延期・衆院解散でアベノミクスの行方は?
第2回 「米中間選挙」でオバマ民主党が"歴史的大敗"、日本経済への影響は?
第1回 "電撃的"だった日銀の「追加緩和」~その背景と効果は?

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