連載『経済ニュースの"ここがツボ"』では、日本経済新聞記者、編集委員を経てテレビ東京経済部長、テレビ東京アメリカ社長などを歴任、「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーとして活躍、現在大阪経済大学客員教授の岡田 晃(おかだ あきら)氏が、旬の経済ニュースを解説しながら、「経済ニュースを見る視点」を皆さんとともに考えていきます。


原因はオバマ大統領の不人気、2008年のあの熱狂的な人気はどこへ?

11月4日に行われた米国の中間選挙でオバマ大統領の与党、民主党は大敗を喫しました。米議会ではこれまで下院では野党の共和党、上院では与党の民主党が多数を占める「ねじれ」となっていましたが、今回の中間選挙では上院・下院ともに共和党が大きく議席を伸ばし、上院でも共和党が過半数を獲得しました。メディアは「民主党の"歴史的大敗"」と伝えています。

民主党敗北の最大の原因はオバマ大統領の不人気です。今回の選挙戦で、ほとんどの民主党候補はオバマ大統領に応援要請をしなかったどころか、「私はオバマとは違う」と強調していたそうです。

2008年の大統領選当時のあの熱狂的な人気はどこへ行ってしまったのでしょうか。それは最近のオバマ大統領がシリア情勢やエボラ出血熱への対応で優柔不断な態度をとったり方針がブレたりしたことが響いたようです。米国では外交・安全保障問題や危機管理などが重視されており、それが大統領の評価に直結します。

米国の景気は好調が続いており、それにはオバマ大統領の功績も多いはずなのですが、もはやだれもそんなことに見向きもしない様子です。しかし今回の中間選挙の結果は米国経済はもちろん世界経済、日本経済にもさまざまな形で影響が出てくることが考えられます。

大統領の2期目2年目の中間選挙後に景気が悪化したケースも多数

米国では大統領の任期は2期までと定められていますので、オバマ大統領の任期は2017年1月まで。その前年の2016年11月に新しい大統領が決まりますので、実質的には任期はあと2年です。そのため人々の関心は次の大統領選に移ってしまい、任期残り少ない大統領の指導力は低下するのが一般的な傾向です。米国のメディアはこれを「レイムダック」(足の不自由なくアヒル)と呼んでいます。

まして、そのタイミングで上下両院ともに野党が多数を占め、大統領は少数与党に転落してしまったのですから、政策決定が何事も前へ進まなくなるおそれがあります。もしそうなれば、せっかく好調を保っている米景気に悪影響が出ることも予想されます。

実はこれまでも大統領の2期目2年目の中間選挙後に景気が悪化したケースが多いのです。ブッシュ前大統領の場合、2006年の中間選挙で共和党が敗北した翌年の2007年にサブプライム問題が表面化し、その翌年の2008年にはリーマン・ショックが起きました。その際、ブッシュ大統領は金融危機に対処するための金融安定化法案を議会に提出しましたが、直後に中間選挙(同年11月)を控えていたため下院で法案が否決されました。これには野党の民主党だけではなく、与党の共和党議員の多くも反対に回り、ブッシュ離れの強烈さを見せつけました。その結果、金融危機が一段と深刻化したのでした。

またクリントン大統領の時代(1993年1月~2001年1月)は、1990年代を通して10年間に及ぶ史上最長の景気拡大が続いていましたが、2期目も終わりに近づいた2000年、ITバブルが崩壊して不況に突入していったという歴史があります。

景気や株価にとってはむしろプラスとなる可能性も!?

今回も、現在の景気が好調なだけに、いずれ景気はピークを打って下り坂になっていく可能性は頭に入れておく必要があります。それだけに米国の景気持続のためにもオバマ大統領の指導力は重要です。と同時に、大統領の指導力が低下して米国の景気に不安が出るとすれば、その分、日本がよけいに自力で頑張らなければならないことになります。日銀は追加緩和を決めたばかりですが、今後の展開によってはさらなる追加緩和の必要が出てくる可能性もあるかもしれません。アベノミクスの真価も問われることになるでしょう。

ただ一方で、逆の見方も成り立ちます。米国の政治はこれまでは、下院の共和党、上院の民主党、ホワイトハウスのオバマ政権という3すくみでしたが、中間選挙で上下両院ともに共和党が多数となったため、これからは議会vsホワイトハウスとなって、対立の構図はむしろ単純化されることになります。オバマ政権側は従来以上に共和党の主張を受け入れざるを得なくなるので、経済政策としては新ビジネス的な色彩が強まるのではないかとの見立てです。

そうなれば、景気や株価にとってはむしろプラスとなる可能性もあるわけです。事実、これまでもそのような傾向が出ています。第二次世界大戦後の米国の株価の推移を大統領選の4年ごとのサイクルで見ると、大統領選の前年は株価が下落したことが一度もないのです。株価上昇率の平均も約17%に達しています。

これは選挙が近づくことによって与党はもちろん野党も景気にやさしい政策を打ち出すケースが多いこと、あるいはそのような期待が市場に高まることなどが背景と考えられます。もしそうなれば、これはもちろん日本にとっては好材料となります。

また議会共和党に押されて安全保障問題や世界経済への関与などで積極的に動くようになれば、個別の問題では従来より動くようになるかもしれません。

まさに日本にとって吉と出るか凶と出るか。次期大統領候補としてヒラリー・クリントン氏が一段と注目の的になりそうですが、および共和党の候補は誰になるのか、情勢がはっきりするまでにはまだ紆余曲折がありそうです。私たちはそれぞれの政策をしっかり見ていくことが必要です。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。