【コラム】

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90 必然的に事件に遭遇する神様探偵 - 「魔探偵ロキ」(木下さくら)

    一井おん  [2007/03/30]

    こんにちは。通勤途中に職場の人に会いたくないイチイです。これには2つの理由があります。1つは通勤途中に職場の人に会ってしまうと、一言二言話さなくちゃならないから。歩きながらだと脳が活性化すると言われることもあり、通勤時間は独考するのに絶好の機会です。それを何の毒にも薬にもならない会話で埋めてしまうのが、もったいないと感じてしまうのです。もう1つは単に、自分ひとりだと思って油断している世界に、知り合いが入ってくるとびっくりしてしまうから。平たく言えばそっとしておいてほしいってことなのです。デリケートすぎ? ってかネクラすぎ? でも、そんな聖域ができる時間ってみんな持っているんじゃないでしょうか。だからイチイは極力、通勤途中で視界に知り合いらしき人が入ってきたら反射的に見なかったフリをしてしまうのです。後ろから声をかけるなんてことは絶対にしません。

    いつもより少し遅い時間帯の電車に乗ったときのこと。つり革の3個向こうに、職場のおじさまがいるのに気づいてしまったのです。ここで挨拶すべきかすまいか、悩みました。この距離はとても微妙。大きな声を出さないと聞こえなさそうだし、でも横を向いたらすぐに目に入ってしまうし。しかし1度挨拶してしまったら、電車を降りた後も会社までおじさまと一緒に歩かないといけないような雰囲気になってしまいます。でも、別にそのおじさまのことは嫌いじゃないのです。オトナなんだし、ほんの15分くらいの辛抱だし、まぁいいかなという感じです。

    しかし、その時はどうしても声をかけられない理由がありました。イチイは、マンガを読んでいたのです! 横目でおじさまの様子をうかがうと、しごくまっとうに日経新聞を折って読んでいる様子。一方の私はというとマンガ。こんなカジュアルな読み物を持っていたら、仕事にやる気のない社員だと思われてしまうかも。そう危惧して、どうしても声をかけることができなかったのでした。

    さて、生コミック装備状態はなかなか困る、ということを学んだイチイが電子書籍で購入してみたのは「魔探偵ロキ」という探偵モノです。

    この作品が他のミステリーコミックと一線を画するのは、主人公である探偵ロキが実は北欧神話の神様であるという設定です。大神オーディンにより神界から追放された邪神のロキが、神界に戻ることと引き換えに、探偵業によって人間に取りついた魔を落とすという大枠になっているのです。最初は大がかりなファンタジーものなのか? と思いましたが、内容はあくまで原則1話完結の探偵ものです。人間界では美少年の姿をしているロキが、持ち前の明晰な頭脳で殺人事件を解決していくという話。登場人物の設定としては北欧神話だけど、実際に関連するような内容はほとんどありません。ファンタジー(魔)部分のストーリー、ミステリー(探偵)部分のストーリーの棲み分けが明確にできています。

    ファンタジーがお得意の「ガンガン」に連載されていただけあって、「ロキ」の場合もファンタジー部分の面白さは折り紙つき。北欧の邪神であるロキの他にも、ロキを追って人間界で暮らしている神様達が何人かいるのですが、皆、キャラが立っているのです。神界では勇ましい闘神だったのに、人間界での見た目はサワヤカ男子高校生、しかも超貧乏でバイトしまくりという鳴神君。神様のくせに学習塾に通っているヘイムダル。肉屋のコロッケが大好きで買い占めてしまうフレイなどなど、意外と所帯じみていて親しみやすい神様達の存在が物語に厚みを持たせています。

    マンガでも小説でも、探偵ものって、主人公が「たまたま」殺人事件に遭遇することが多すぎだと思いませんか? 普通ならば一生に一度レベルの超レア体験です。でも作中の探偵はいつも都合よく事件に遭遇したり、謎が舞い込んできたりします。まあ、そうじゃないとお話にならないんですけどね。

    それが「魔探偵ロキ」の場合は「殺人事件=人間にとりついた魔のせい」ということになっています。そしてその魔は、ロキに嫌がらせするために他の神が操っていたりするのですから、ロキが遭遇する事件はいつも「偶然」でもないのです。ミステリーにファンタジー要素をそうやって組み込むとは! と目からウロコが落ちました。

    通勤途中ではなかったため安心して楽しめた「魔探偵ロキ」。ちょっと少女マンガっぽい絵柄ということもあり、大人の男性が堂々と人前で読むにはちょっと恥ずかしいかもしれませんが、電子書籍ならだいじょうぶ。一度、この「ミステリー×ファンタジー」のジョイントを体験してみてください。

    「魔探偵ロキ(新装版)」

    著者:木下さくら
    出版社:マッグガーデン
    価格:320円
    データ形式:Keyring PDF
    購入サイト:電子書店パピレス

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