ちょこっとイイブック (77) 発光する美少女に注目 - 「The MANZAI」(あさのあつこ)

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77 発光する美少女に注目 - 「The MANZAI」(あさのあつこ)

一井おん  [2006/11/09]

77/96

こんにちは。ポッキーのCMに釘づけになってしまうイチイです。最近新しく登場した「ポッキー極細」のCM。あのCMが流れるたび、電撃ショックを打たれたようになってしまうのです。

直径4mmの「ポッキー史上最も細いポッキー」という商品自体も相当のインパクトがあるのですが、そのCMも商品に似つかわしい破壊力を持っています。どんなものかというと、人気ドラマ「ドラゴン桜」「マイ☆ボス マイ☆ヒーロー」に出演していた新垣結衣ちゃんが、両手に1本ずつポッキーを持って踊りまくるというもの。バックミュージックは「とってもいいじゃん マゴギャル コギャル~(うろおぼえ)」というやたらに軽快だけど意味不明な歌(実はORANGE RANGEが歌っているらしい)。これを見ると、快とも不快ともいえない、妙な気分にさせられます。もちろん新垣結衣ちゃんはもんのすごくかわいいのでそれはそれで釘づけなのですが、ダンスの振り付けは客観的に見ると率直に「バカっぽい」のです。むしろこの振り付けは江頭2:50の動きにシンクロするのではないかと思うほど。そのバカっぽさとあまりに楽しそうな結衣ちゃんの表情に、ある人は逆に見るたびに腹が立つかもしれません。でも、ほとんどの人はかわいいと思ってるんだろうなあ。

バカっぽいけどかわいい。略すと「バカわいい」。エロなんとかに比べるとものすごく平和な感じがします。体調悪くてもポッキー食べると直りそうな気分にさえなる、新しい癒し系のジャンルの確立かっ!? と思うくらい。

つまるところ、美少女だからOKということなんです。

コミックにおいて美少女という記号は、何をやっても許される無敵のワイルドカードです。「タッチ」の南ちゃんしかり、「新世紀エヴァンゲリオン」の綾波レイしかり、「ガラスの仮面」のライバル役・亜弓さんしかり、主役だろうと脇役だろうと悪役だろうと関係なく一定した人気を得ます。たとえ絵がそんなにかわいくなかろうと、「美少女」という設定をするだけで簡単に美少女像が立ち上がります。

ところが小説における美少女といえばどうか? ビジュアルがない分、文章から想像しなければならないので、美少女の記号を読者に送信するだけでも難しくなります。そこにはどうしても、作中の他の登場人物をかませないといけない。そうなると書き手の主観が入ってしまうので、万人受けする美少女像を立ち上げるのが難しくなってしまうのです。

さて今回ご紹介する書籍は、新しい表現で立ち上げられた美少女が、脇役として登場する小説。あさのあつこさんの「The MANZAI」です。この小説は、まったくタイプの違う2人の中学生男子が漫才コンビを結成するというストーリーですが、ドラえもんにしずかちゃんが必須の存在であるように、美少女が物語の主要な軸を担っています。その美少女ったら、薄倖ならぬ「発光」美少女なのです。

目がうるむほどまぶしかった。それは、窓ガラスから九月の強い光がもろに射し込んでいたからでも、彼女の白いセーラー服が光をあびて、ハレーションをおこしていたからでもない。萩本恵菜が輝いていたのだ。肩の力ほんの少し下まで真っすぐにのびた髪だとか、ほおからあごにかけての、わずかな丸みだとか、すっと強く、でも柔らかく見える首の線だとか、彼女の全部がきらきら輝いていた。十四年間生きてきて、みずから発光する女の子に初めて会った。

(「The MANZAI」(あさのあつこ))

発光する美少女、すごい表現でしょう。発光するというとDHCのCMの叶美香さんとかそっち方面に想像がふくらんでしまいますが、中学生の淡い恋の相手の描写として、これほどまでに爆発力を持った美少女の表現はそうそうおめにかかれないなぁと思うのです。

さて美少女は美少女でいいんですが、この物語の本当の主人公は、漫才を志す2人の少年です。1人は1人称「ぼく」である瀬田歩。もう1人は歩が転校して1カ月で「自分と漫才をやろう」と自主スカウトしてきた秋本貴史です。この本の表紙に描かれたなよなよとした小柄の男子と、大柄でいかにも体育会系の男子。その小柄な方が歩、大柄な方が秋本になります。オール阪神巨人の今風な感じでしょうか。

この小説、「MANZAI」がタイトルのわりには、電子書籍化されている第1巻を読む限り(文庫本では第3巻まで刊行済み)、肝心のネタの部分はほとんど出てきません。昨今のお笑いブームも何のその、ストーリーの主軸は頑として「タッチ」をほうふつとさせるような甘酸っぱい青春学園ドラマです。冒頭は、秋本から歩への「おつきあい」申し込みから始まります。てっきりボーイズラブ作品を間違えて購入したかと思い、イチイは「電子書店パピレス」をもう1度確認しに行ってしまいました。でも「おつきあい」とは歩の勘違い、2人は漫才コンビとして一方的な秋本の熱意からスタートする……という、25才の自分には読んでて気恥ずかしく、なるほど青春の味付けがなされています。そして、歩が一目惚れした「発光美少女」萩本恵菜は秋本のことが大好きで……。ああもう皆までいうな、もうきゅんとするよな青春ストーリーであることはわかったから。と自分で自分にケリを入れたい気分になってきました。

しかし読んでいて秀逸だと思ったのは、単なる三角関係つきティーンズドラマではない、あっけらかんさです。「発光美少女」のような特異な表現に見るように、各キャラクターの描き方がねちっこくなく、驚くほどまっすぐなのです。まるでそれは極細のポッキーのように。かつかつかつと前歯でかじれて、両手で持って遊べて、甘酸っぱいゲームまでできるポッキー。新垣結衣ちゃんのようなティーンにぴったりのお菓子なのかもしれないですね。

「The MANZAI」

著者:あさのあつこ
出版社:ジャイブ
価格:578円
データ形式:Keyring PDF / XMDF
購入サイト:電子書店パピレス

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インデックス

連載目次
第96回 「内臓ドライブ」でゲンメツさせないで - 「一日一本!漢検十本勝負 巻之十【二級】」(漢検問題研究会)
第95回 方言ってズルい! - 「ぼっけぇ、きょうてぇ」(岩井志麻子)
第94回 非鉄から鉄へのツンデレ - 「鉄子の旅」(菊池直恵/横見浩彦)
第93回 "KY"と呼ばれないために - 「場の空気を読む技術」(内藤誼人)
第92回 ホームドラマの大原則とは - 「夏休み」(中村航)
第91回 約束にルーズだとお金も逃げていく? - 「お金の貯まる人はここが違う」(邱永漢)
第90回 必然的に事件に遭遇する神様探偵 - 「魔探偵ロキ」(木下さくら)
第89回 1リットルの鼻水 - 「大雑学1 数字で知る人体」(日本雑学研究会)
第88回 たまには一句詠んでみますか - 「添削例に学ぶ俳句上達法【1】」(鷹羽狩行・片山由美子)
第87回 脱・紋切り型英会話 - 「英語即答トレーニング 自然なひとことがさっと口に出る!」(デイビット・セイン)
第86回 封印された秘密をネットで公開 - 「姉ちゃんの詩集」(サマー)
第85回 テキストオンリーで勝負する硬派な料理本 - 「読むレシピ」(日本放送出版協会)
第84回 もし朝起きて虫になってたら - 「変身」(カフカ)
第83回 一話完結ものの異端児 - 「蟲師」(漆原友紀)
第82回 たまったキャッシュを捨てたいときに「ミカ!」(伊藤たかみ)
第81回 おしかけ女房のパイオニア - 「The かぼちゃワイン」(三浦みつる)
第80回 衝撃の結末は読んでのお楽しみ - 「大統領のクリスマスツリー」(鷺沢萠)
第79回 キラーネタの目白押し - 「杉田」(杉田かおる)
第78回 そろそろ、リタイヤ後のこと - 「美術館アンソロジーシリーズ I ルーヴル美術館」(藤ひさし)
第77回 発光する美少女に注目 - 「The MANZAI」(あさのあつこ)
第76回 私、ポータビリティ - 「元刑務官が明かす死刑のすべて」(坂本敏夫)
第75回 かいま見たオヤジグルメ - 「超こだわりの店乱れ食い」(伊丹由宇)
第74回 ため息つくと幸せ逃げるって本当? - 「幸福論」(アラン)
第73回 万葉はハニー・ダーリンの関係 - 「恋愛名歌集」(萩原朔太郎)
第72回 目薬の差し方から昼寝のススメまで - 「疲れをとる365日のヒント」(ライフエキスパート)
第71回 ベタつかない女の友情 - 「下妻物語」(嶽本野ばら)
第70回 胸のすくよなアキバ・ストーリー - 「アキハバラ@DEEP」(石田衣良)
第69回 エラそうで偉い - 「フランス人の贅沢な節約生活」(佐藤絵子)
第68回 賞味期限のないワンコソバ - 「きまぐれロボット」(星新一)
第67回 意外にあなどれない"デブ"の癒し効果 - 「空中ブランコ」(奥田英朗)
第66回 癒し系スプラッタ・ホラー - 「栞と紙魚子 殺戮詩集」
第65回 ケーキバイキングでどれだけ食べられるか - 『ナンシー関「テレビ消灯時間」リミックス』(ナンシー関)
第64回 アツく濃い100円 - 「100円モバイル文庫」シリーズ
第63回 夏は恋の季節ですから - 「マーフィーの恋愛成功法則」(植西聰)
第62回 スバラしき非生産 - 「頭の体操」(多湖輝)
第61回 できすぎたパロディ - 「日本以外全部沈没」(筒井康隆)
第60回 モテワンピなんて着てないで - 「日本沈没」(小松左京)
第59回 最年少何とかに憧れる - 「女子大生会計士の事件簿」(山田真哉)
第58回 ドラマ化するマンガの草分け - 「闇のパープル・アイ」(篠原千絵)
第57回 ミットモナイは反面教師 - 「頭がいい人、悪い人の話し方」(樋口裕一)
第56回 その若々しさは50マジで~ - 「新しい単位 ディレクターズカット」(世界単位認定協会)
第55回 恋愛テンプレート - 「年下オトコ×年上オンナ」(吉井春樹/内藤みか)
第54回 もそもそメシを喰う - 「ぼのぼの」(いがらしみきお)
第53回 アウェーの人に - 「ウェブ進化論 --本当の大変化はこれから始まる」(梅田望夫)
第52回 仕事とプライベートの切り替え上手 - 「生協の白石さん」(白石昌則)
第51回 ツブシききたい下心に - 「機動戦士ガンダムC.D.A. 若き彗星の肖像」(北爪宏幸)
第50回 忘れられない最終便のトラウマ - 「最終便に間に合えば」(林真理子)
第49回 当たり前という名の盲点 - 「逆説の日本史」(井沢元彦)
第48回 R25を読んでなくても - 「大人失格」(松尾スズキ)
第47回 芸術はなぜ爆発か - 「今日の芸術」(岡本太郎)
第46回 世にも新しい読むダイエット - 「妊娠カレンダー」(小川洋子)
第45回 ロハスブームにのせられて - 「超絶ハワイ術 もっとアロハ編」(野田貢次)
第44回 シューカツのちょっぴり苦い思い出 - 「蝉しぐれ」(藤沢周平)
第43回 髪を切ったらまずほめろ - 「大人の女養成講座1 大人の女のお仕事」(石原壮一郎/ひさうちみちお)
第42回 メソッドを噛み砕こう - 「段取り力」(齋藤孝)
第41回 絶望したらハーレクイン - 「憂鬱なクリスマス」(キャロル・モーティマー)
第40回 いい意味の規格外 - 「伝染るんです。」(吉田戦車)
第39回 ヨン様靴下で聞いた話 - 「銀河鉄道の夜」(宮沢賢治)
第38回 萌えと甘酸っぱさと - 「タッチ もうひとつのラストシーン」(青木ひかる)
第37回 「東京流」小説スタバ風味 - 「パーク・ライフ」(吉田修一)
第36回 日本一"端麗"な文章を書いた作家 - 「今夜、すべてのバーで」(中島らも)
第35回 小顔グッズを買う気持ち - 「ショッピングの女王」(中村うさぎ)
第34回 心のアミノサプリ - 「月のしずく」(浅田次郎)
第33回 男運の悪さとは違う - 「だめんず・うぉ~か~」(倉田真由美)
第32回 こってりとしていてそれでいてしつこくない - 「あ・うん」(向田邦子)
第31回 ちょこっと、おかわり! - 「空中庭園」(角田光代)
第30回 しょうゆ風味にローカライズ - 「冬のソナタ」(星合操)
第29回 「Aガール」って言われたい - 「ドグラ・マグラ」(夢野久作)
第28回 タイトルで1本釣りの顛末は - 「面白すぎる釣りの本」(博学こだわり倶楽部)
第27回 ブクロ系からエビス系へなれる本 - 「世界の終わりには君と一緒に」(桜沢エリカ)
第26回 ビールが泡盛になりました - 「プチ断食ダイエット」(いしはらゆうみ)
第25回 音のセンスが支配する - 「骨音 池袋ウエストゲートパーク3」(石田衣良)
第24回 ゲイが気になるお年頃 - 「中原中也詩集」(中原中也 編:大岡昇平)
第23回 みやげスキルを磨く - 「東京 五つ星の手みやげ」(岸朝子)
第22回 MPEGって何の略? - 「SEのためのIT英語入門」(小坂貴志/板垣政樹)
第21回 電話を止められても読みたい - 「三国志」(横山光輝)
第20回 キモカワ、キモオモ - 「元祖 スバラ式世界」(原田宗典)
第19回 ブームの秘密を探る - 「電車男、重松清と語る」(電車男/重松清)
第18回 3,000円のウナ重に似たり - 「沖縄の島へ全部行ってみたサー」(カベルナリア吉田)
第17回 生々しいより"生" - 「あたしの女に手を出すな」(南Q太)
第16回 文豪の夢は乙女チック - 「夢十夜」(夏目漱石)
第15回 SF界のモーニング娘。 - 「グリーン・レクイエム」(新井素子)
第14回 ブログの原型ここにあり - 「ポケットに名言を」(寺山修司)
第13回 美人のヒゲはマゾヒズム - 「ヒゲのOL薮内笹子」(しりあがり寿)
第12回 人生は選択の連続 - 「ハムレット」(シェイクスピア)
第11回 何かと何かを取り違えるプチ失敗 - 「伊賀忍法帖」(山田風太郎)
第10回 ノーリーズンの世界観 - 「デビルマン」(永井豪)
第9回 女の株もちょこっと上げて - 「e(良い)投資家になる本入門編」(長良川昌久)
第8回 毒にも薬にもならないトリビア的元祖SF - 「星の神話伝説集」(草下英明)
第7回 なんてイカした鼻マスク - 「包丁人味平 カレー戦争編」(牛次郎/ビッグ錠)
第6回 女同士のラブホテル - 「対岸の彼女」(角田光代)
第5回 平安朝のシティハンター - 「陰陽師」(夢枕獏)
第4回 元カレと血便 - 「時事通信社『家庭の医学』」 (時事通信社)
第3回 しょっぱいバレンタインに - 「たのしい・わるくち」(酒井順子)
第2回 溜まっているボス・ポセイドン - 「海のトリトン」(手塚治虫)
第1回 私が映画嫌いな理由 - 「蹴りたい背中」(綿矢りさ)

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