【コラム】

ちょこっとイイブック

70 胸のすくよなアキバ・ストーリー - 「アキハバラ@DEEP」(石田衣良)

一井おん  [2006/09/21]

こんにちは。秋物の服に困るイチイです。いつのまにか夜6時でもとっぷりと日が暮れて、肌に秋の空気を感じる時期になりました。同時にイチイにとっては、毎朝の服選びにヒッジョーに難儀する時期でもあります。どうして、秋になると服が見あたらなくなっているんだろう? 毎年服を買っているはずなのに。クールビズに甘えて軽装ですませていたオフィス服も、寒けりゃ長袖羽織ればいいというわけにはいかないので、組み合わせにとても困ります。専属のデザイナーが「これとこれとこれ着て」と毎朝命令してくれればいいのに、とすら思います。

逆に、真のおしゃれさんは、自ら服を選ぶことこそが快楽であるらしい。「秋の服は重ね着が楽しめるから好き」なんて余裕の発言、信じられん。

根っから服のセンスの感覚神経が、1本欠如しているのではないかというイチイは、この間ついに上司に「おいおまえ、もっとおしゃれしろよ」と言われてしまいました。他の女性社員にはそんなこと言わないのに、ひょっとして私、相当イケてない? え、もしかしてみんな普段から「こいつイケてない」と思ってた!? お酒の席とはいえ、少なからずショックを受けました。

そこで「おしゃれ」を意識し始めたわけですが、いきなり「CanCam」を読んでエビちゃんOLになろうなんて無理があるので、とりあえず身の回りのファッショナブルな女性達をお手本にしてみます。なるほど、シャツの襟は立てるのか。ベージュの服にはゴールドのネックレスか。そういえば最近どでかいネックレスが流行っているなぁ。いっちょ真似してみようと思い、できあがった自分の格好は、久しぶりに会った同期に「何それ、OLのコスプレ?」と言われました。

よくよく自分の服装を確認してみると、上下ベージュのボックススカートのスーツにリボンのついた靴、コーチのポーチにバーバリーのタオルハンカチを持っていた私。コントか何かに出てきそうなインスタントの「いかにもOL」だったのです。本気だったのに、メイド服やナース服を着ている感じと変わらないなんて……。おしゃれって難しい。とかなんとか言いながら、今日も気楽な服装でバリバリ開発とかしちゃってる自分がいます。そういえばOLじゃないし、エンジニアだし。

今回は、アキハバラでの物語「アキハバラ@DEEP」をご紹介します。「池袋ウェストゲートパーク」の石田衣良氏の著書です。秋葉原でベンチャー企業を起こした1980年代生まれの若者達6人の、成功や挫折、連帯感、とにかくいろいろ頑張っているところを描いた青春劇です。

ITベンチャー企業「アキハバラ@DEEP」のリーダーは、頭脳明晰だけど吃音症をコンプレックスにしているページ。デザイナーは潔癖症で女嫌いのボックス、音楽担当はフリーズしてしまう発作の持ち主タイコ。そのほか、10年間引きこもっていた反動で出ずっぱりになってしまったダルマ、天才ハッカーで色素欠乏症のイズム、女ターザンのような格闘マニアの美少女アキラなど、里見八犬伝顔負けの個性豊かなキャラクター達が脇を固めます。彼らが何カ月もの間、連日の徹夜生活を繰り返し発明した、AI(人工知能)付き検索エンジンは、瞬く間にネットの世界を席巻し、成功を収めますが、やがてそれは、より大規模な有名IT企業の陰謀の標的となります。

成功と挫折のグラフ曲線が、やがて団結によりまた上昇し始める……というお決まりだけれど安心できる流れがテンポよく展開し、読者を飽きさせません。また、それぞれにコンプレックスを抱えている主人公達が、コンプレックスを乗り越えて自分の能力に目覚めていく様子など、まあ物語作りのセオリー通りと言ってしまえばそれまでですが、胸がスッとするんですよね。

それにしても、「池袋ウェストゲートパーク」で、東京の若者の街・池袋の名を全国区にした石田衣良氏ですが、この人はとにかく土地を題材にしたドラマを作るのが実に巧いなと思います。秋葉原名物のおでん缶の描写や、「じゃんぱら」「俺コン」に代表される秋葉原特有のパーツショップ店の名前、蔵前通りのジョナサンなど、行った人にしかわからない言葉がポンポンと登場し、しかもそれらの設定がちぐはぐすることなく、登場人物をシースルーの衣のように包むのです。石田氏って本当はA系なんじゃないの? と思わせるそのリアルさは、綿密な取材に基づいているのだろうと思います(あんな格好いい人が……そう信じたい)。

確かにいわゆる根っからA系の登場人物達ですが、物語にのめりこむとカッコ悪いなどと思わなくなるのは、何も実写化の俳優が、成宮寛貴クンやジャニーズ.Jrだと知っているからだけでもあるまい。目標を見つけ、それに向かって一生懸命に打ち込む若者の姿は、あだち充氏のマンガでも秋葉原の物語でも、かかわらず最高にクールなのです。

アキバであること、もっと胸をはっていこう。丸の内OLよりは、秋葉原エンジニアの血が確実に流れているであろうイチイは、少なからず励まされたのでした。

「アキハバラ@DEEP」

著者:石田衣良
出版社:文藝春秋
価格:525円
データ形式:.book
購入サイト:電子文庫パブリ

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