【コラム】

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68 賞味期限のないワンコソバ - 「きまぐれロボット」(星新一)

一井おん  [2006/09/07]

こんにちは。生活感のなさをモットーとしているイチイです。部屋のインテリアも、食べ物も、仕事っぷりも、すべて「生活感がない」という価値観を基準にしていた! という事実に自分で気づいてしまったのです。

生活感がないってどういうことか。無機的な感じ、所帯じみていない感じ、てっとり早く言うと人間らしさに欠ける感じ。このポリシーをライフスタイル全般に採用しています。

部屋のインテリアの生活感のなさ。これは読者の皆様にも想像がつくと思います。無駄なものは極力置かない。色を使わない。本棚や洗濯機の上棚など、「生活感」がはみ出てしまう空間には布で目隠しをする。そういったことで、部屋を訪れるほとんどの人に「生活感がない」と言わしめることに成功しています(「殺風景」とも言われたことあります)。

続いて食べ物の生活感のなさって何か? まあ食べている時点ですでに生活感があるわけなのですが、そこですら極力生活感を出したくない。たとえば、カップラーメン(しかもビッグ)を勢いよくずるずるすすっているのと、カロリーメイトをかじっているのとでは、どちらに生活感があるのか明白です。そこまでいかないにしても、「もうカロリーを摂るのに必死なんです」のような様を見せたくないという思いが根底にあって、自然と生活感がない方を選択している気がします。

あとは会社生活。ここでもっとも気を遣っているのはトイレに行くときです。うちの会社の女子トイレ、個室が2つしかないのですが、どちらかにでも人が入っているときは絶対にトイレに入りません。排泄するという人間的な最たる時間を、他の人にさとられたくない。特に用を足してドアを開けたときに、先輩と鉢合わせしてしまったときのあの、穴にでも入りたくなるような羞恥心ときたら! そのために、どうしても我慢できない時は別の階に行きます。これってもはや潔癖? でも、男性でも個室の方しか使わない人がいるという例を聞いたことがあるし、そんなにおかしいことでもないと思うんですよね。

「生活感のなさ」を1つのキーワードにすると、星新一氏のショートショートほど、その言葉がぴったりくる作品はほかにないと思います。今回電子書籍で読んでみたのは「きまぐれロボット」という本です。

ショートショートは、立派な文学の1分野です。短編小説より短いもので、原稿用紙5枚~10枚程度のものが一般的なようです。アメリカが発祥の地といわれていますが、日本でショートショートの名を一般的にしたのは1,000編もの作品を世に生み出した星新一氏の功績といって過言ではないでしょう。それにしても、1,000ってすさまじい数ですよね。千羽鶴じゃないんだから。

星新一氏のショートショート作品群(まさに「群」)は、これでもかというほど人間くささを取り払っていることに特徴があります。ジャンルはSFですが、作品数は多くとも、ほとんどパターンが共通しています。

この「気まぐれロボット」の登場人物は、いつも「エヌ博士」か「エフ氏」、そうでなければ「男」という匿名の主人公と、ロボットです。表題作は、高性能ロボットを手に入れたお金持ちのエヌ氏の話。「ビールでも飲むか」とつぶやくだけで、ロボットが冷えたビールをグラスに入れて運んできてくれます。料理や掃除、ピアノの調律、面白い話さえしてくれる夢のようなロボット。それが2日ほどすると、様子がおかしくなってくるのです。言うことを聞かなかったり、突然腕を振り回して追いかけてきたり、役に立つどころか逆に迷惑な存在へと変わってしまいます。

で、オチはというと、それは人間を堕落させないためのロボット制作者の意図した仕様だったということなのですが、何とも教訓的です。「北風と太陽」のような、イソップの寓話を彷彿とさせます。以上、読み終わるまでにものの2、3分ほど。

このように、星新一氏のショートショートは、"遠距離感"が群を抜いています。まったくといっていいほど感情移入できない主人公、そしてのめりこむ前にオチを迎えてしまうボリュームの少なさ。「何かどっか遠いところの話しだな」。読者は決して現実感を得ることがありません。しかし、現実の生々しさがないからこそ、賞味期限が来ないのだというところがポイントです。だからいつまでもくさらず、ストーリーが同じパターンであっても、飽きることなく食べられる。まるでワンコソバのような作品群なのです。

話は変わりますが、イチイの先輩で、ロボットのように生活感なく働き、出世をした若きホープがいます。彼とたまたま同じタクシーに乗ったとき、密閉された車内でタバコの匂いがしました。「そっか、息もするんだ」と思いましたね。どんなに生活感がなくても、人間、みんな息はするんです。

「きまぐれロボット」

著者:星新一
出版社:角川書店
価格:420円
データ形式:.book
購入サイト:電子文庫パブリ

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