【コラム】

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27 ブクロ系からエビス系へなれる本 - 「世界の終わりには君と一緒に」(桜沢エリカ)

    一井おん  [2005/08/24]

    こんにちは。ナンパには屈しないイチイです。この前、ひさしぶりにナンパにあいました。会社帰り、地元で遅くまで開いている本屋に寄ってから家に向かうところでした。

    「おっ、ひさしぶり!」チャリンコに乗ったその人に声をかけられ、不意をつかれたイチイは「えっ、ああ」と声をあげてしまいました。こうなったら相手の思うツボ。その人は満面の笑顔を浮かべながら「ひさしぶり! ひさしぶりやんか!」と繰り返します。事態をようやく飲み込んだ私は、「初めてだと思うんですけど……」と答えてしまいました。あーナンパかよやんなっちゃうな、話すなら何か面白いことを話してよと思っていると、関西男は「髪の毛が乱れてるんですけど、直してくれへん?」と言いました。そうきたか。思わずぷっ、とふきだしそうになりましたがそこはこらえ、「それはちょっと」と涼しい顔をしてクリアしておきました。

    今の家に引っ越してきて1年以上たつのですが、会社帰りにナンパにあったのはこれで5回目ぐらいです。なぜかいつも会社帰り、最寄り駅付近であうのです。「引越しの手伝いに来て道に迷っちゃいました」と泣きつかれたり、深夜、チャリンコに乗りながら「美容院のカットモデル探してるんですけど」とケータイの電話番号を聞かれたり、「電車の中で気になってました」と思いつめたように攻められたり、何とか釣ろうという言い訳にも似た話術が面白い。最近はナンパも進化してきたな、と思うのです。

    今の話で言いたかったことは「ナンパされるほどモテて困っちゃうわ」ということではなくて(こんなんで一応女として見られているってことはうれしいけれど)、それまで住んでいた場所では1度たりともされなかったナンパが、ところ変われば続出したという点につきます。

    イチイがそれまで住んでいたのは、池袋の少し郊外寄りの豊島区長崎という、九州みたいな地名のところでした。池袋に自転車で行ける距離のわりに、ボタン式の横断歩道があったりするのどかな土地。重い荷物を持っていると手伝ってくれるような親切なおいちゃんはいますが、ナンパなどは到底考えられません。

    そこで思い当たるのは、「土地が人間を作るんじゃないか?」という仮説。九州男児、大阪人、どさんこなど、日本の土地によってプロトタイプのイメージがあるように、東京の中でもどういう雰囲気のエリアに住んでいるかによって、違う人間が作られていくのではないか? と思うのです。

    イチイの場合はブクロ系から、世田谷・目黒区付近のちょっとセレブっぽいエリア(もちろん自分はセレブなんかじゃないですが)に引っ越したことによって、明らかに生活スタイル、ひいては性格にまで影響が出ました。

    今回、桜沢エリカさんの作品を選んだのは、彼女がどこかの記事のインタビューで、イチイと同じように池袋の方のエリアから恵比寿へ引っ越してきて、以来ずっと気に入っている、と言っていたような気がしたからでした。

    そう思ってネットで調べたのですが、なかなか情報源が見当たりません。もしかしたら思い込みだったのかも? しかし、それはそれでかまいません。桜沢マンガの「ちょっと洗練されたお姉さんが読んでそう」な雰囲気って、恵比寿に住んでいるお姉さんのイメージにぴったり重なる、ということを強調したいのです。

    そりゃあ、イチイだって長崎に住んでいるときから「魁! クロマティ高校」や「美味しんぼ」などが好きですよ。でも、それじゃあ「エビス系」になれない。「桜沢エリカを読んでいる」、それこそが真のエビス系になるためのステータスだと信じて購入に踏み切ったのでした。

    「桜沢エリカ選集 (8) 世界の終わりには君と一緒に」は、長編の同名タイトルが、この1冊に収められています。まさに、即席でエビス系になりたいニーズにぴったりマッチしているわけ。でも、内容を読んでみて驚かされました。これは、競馬の話ではないですか……。

    競馬っていえば、赤鉛筆を耳にはさんだおいちゃん、競馬新聞、ワンカップ……といったイメージです。「エビス系」になるにはワンカップじゃ困ります、カクテルグラスでないと。そう一瞬焦ったイチイでしたが、読み進めるとやはり期待は裏切られないことがわかりました。

    ストーリーは、バーの店員の主人公と、その同棲相手となる女の子の出会いから始まって、ドラッグ、ケンカ、パーティーにやたらセレブな雰囲気を放つ女などが登場し、今の若者達の生態を描きます。そこへ全編を通して挿入される競馬のシーン。若者達のはかなさと、馬が駆け抜けていく爽やかさがかけ合わされ、独特の世界を形成しています。1冊のボリュームとは思えない、奥行きを持った作品だと思いました……が、イチイが馴染めなかったのはいったいなぜ? いつか、銀座で値段のない(つまりバカ高い)バーでカウンターに座ってしまい、やたらと脚を組みかえてみた時のようにそわそわしてしまうし、読んだ後も「なんだかよかったような気がいたしマフ」という感じ。……これがエビスの桜沢マンガ。

    住むところが変わっても相変わらず牛角が好き。そんなイチイは、やはりエビス系になるには程遠いみたい。

    「桜沢エリカ選集 (8) 世界の終わりには君と一緒に」

    著者:桜沢エリカ
    出版社:飛鳥新社
    価格:315円
    データ形式:独自形式(専用ソフトウェア使用)
    購入サイト:eBookJapan

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