【コラム】

ちょこっとイイブック

1 私が映画嫌いな理由 - 「蹴りたい背中」(綿矢りさ)

    一井おん  [2005/02/02]

    こんにちは。一井おんです。今日は「ちょこっとイイブック」の第1回目。この連載は「イイブック」のタイトル通り、最近増えてきた電子書籍サイトの中から毎回一冊(以上)取り上げてご紹介します。一応「書評」ということになっているんですが、関係ない話題にやや強引にもっていってしまう力ワザをたびたびお見せてしてしまうかも。ともあれご愛顧よろしくお願いします!

    で、いきなり関係ない話題なんですけど、イチイには大きな悩みがあります。それは、「映画嫌い」。ラーメン嫌い、犬嫌いと並んで「映画嫌い」というものはカミングアウトしづらいものがあります。それが知れた途端、「どうして?」「何の映画だったらいいの?」の質問攻めです。なぜ、世の中の大半の人は映画が好き、もしくは2時間耐えることが可能なんでしょう?

    イチイは映画館という「ヘイサ(=閉鎖)」空間の中で耐えることができないのです。よっぽど面白そうと予測できなければ、「ヘイサ」の中へ身を投じるなんて怖くてできません(だから映画館デートとかできないんだよなぁ……)。

    でも、前向きに映画嫌いを直そうとしたんですよ。2か月前、社会人1年目のなけなしの給料をはたいて我が家に導入されたのがプロジェクター(11万円)。家で映画を見れば、ごはんを食べたり、途中でトイレに立ったりできて気楽なので、いくぶん「ヘイサ」への恐怖症がやわらぐかと思ったのです。しかし、プロジェクターで映しているのは結局TV番組。大画面で天気予報見たりして。

    本来の役目を果たしてなかったプロジェクターだったんですが、つい最近、ご近所さんの男友達が遊びに来て、彼が買ったばかりのDVDを上映しようということになりました。その映画はブラッド・ピットも出演するいわば「ハリウッド超大作」。ハリウッドキター! と身構えるイチイだったのですが、ここはリハビリとぐっとこらえて、豆乳鍋つつきながら再生スタートしたわけです。

    うん、映像は素晴らしいし、ブラピはかっこいい。アクションも随所に入っているし、これは2時間イケるかも! と思っていた矢先、映画には欠かせない「ラブシーン」が! こっこれは……。まるで子供の頃、お父さんと2人でテレビを観てたらHなシーンが出てきたとき並みの気まずさ。ただでさえ2人きりの「ヘイサ」な空間、映画館よりもいろんな意味で耐えられません。永遠とも思える数秒間が終わった後、「鍋、直火かけた方が早いから」と、思わず席を立ってしまうヘタレなイチイなのでした。

    さて今回ご紹介する本は、綿矢りささんの「蹴りたい背中」。いわずと知れた史上最年少芥川賞受賞の話題作です。綿矢さん、女のイチイの目から見てもカワイイです。写真を見たとき、「蹴りたい背中」が映画化されて、その女優さんが写ってるんだとカン違いしてしまいました(実際映画化されたのは、文藝賞受賞の「インストール」でした)。ただ、カワイイという認識しかなかったので、今回PDFでダウンロードして初めて通読してみたのです。

    所感。綿矢さんの見た目とは裏腹に、とてもクールな文章だと思います。恐れを知らない、的確な表現。もっと文学乙女チックで感傷的な感じかと思ってたので、読後感もサッパリスッキリ気持ちよかったです。きっと意外に「男前」な部分もある作家さんなのではと思いました。

    この作品の全体を通して感じたのは、さっきの映画の話じゃないですが「ヘイサ」な空間、「ヘイサ」な人間関係。主人公のハツはクラスの余り物になるのは嫌だけど、レベルの低い(と思っている)グループの一員に組み込まれるのはもっと嫌。「ヘイサ」の殻にこもっているのです。そこで気になる存在が同じクラスの余り物のにな川。ハツは、にな川が熱狂的に崇拝しているモデル、オリチャンに会ったことがあったため、にな川の部屋に招かれるわけですが、そのにな川の部屋もこれまた「ヘイサ」の極みです。

    『なんか怖くなってきた。ここは完全なる独り用のお部屋だ。空気が部屋の持ち主一人分しかなくて息苦しい。』

    にな川の部屋に対するハツの感想です。ただし、その「ヘイサ」の中にいて、ハツからにな川に対し、特殊な感情が生まれます。にな川は客観的に見ればただのオタクですが、ハツはそういった短絡的な言葉で彼がくくられるのを嫌います。えてして、一対一の「ヘイサ」の中では、世界は客観的な基準を失うもの。ちょうどサシで飲んでいるときは、相手の言い分がもっともらしく聞こえてくるみたいな感じですね。

    じゃ、そんな2人の間にいて、遠い存在でもあるオリチャンって何?

    それは、「ヘイサ」の要でもあり、バランスを取る第三者。2人で観ているときの目の前の映画のような存在です。ただ、この場合オリチャンは生身の存在であるというのが面白いところ。オリチャンは小説の最後の方でついに2人に近いところに実際に現れますが、それが今まで保っていた「ヘイサ」のバランスが崩れるところなのです。ハツは、にな川といる「ヘイサ」が不均衡になるのに耐えられなくなった瞬間、衝動的に彼の背中を蹴りたくなるのだと思います。そっか、映画に耐えられなくなったら、蹴っちゃえばいいんですね。まあ、プロジェクターを蹴ったりはしないですけどね。

    「蹴りたい背中」

    著者:綿矢りさ
    出版社:河出書房新社
    価格:704円
    データ形式:PDF
    購入サイト:電子書店パピレス

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