今年のノーベル物理学賞は、重力波の観測ができるようになったことについて授与されることになりました。100年前にアインシュタインが予言していた重力波、努力を続けてようやくの観測成功。そして、これによって新しい科学研究が拓けるというわけでございますな。あ、ちなみに重力波そのものの証拠は、1993年のノーベル賞になっています。1979年にアメリカのハルスとテイラーという二人の天文学者が、二つの中性子星という、桁違いに小さくかつ重い天体を観測していて、重力波が出ていないと説明できない現象を発見したのでございます。

ところで400年前に、この重力波の観測よりも、はるかに、はるかに、画期的な! 発見がありました。それは…

月のクレーターと海の発見でございます。

あの、大切なことなのでもう一度言います。

400年前にあった、世紀の発見は、月にクレーターがある、海があるという発見でございました。

ガリレオの月のスケッチと、現代の月の写真 (出典:イタリア版ウィキペディア)

発見者はイタリアのガリレオ・ガリレイ。そう、天才科学者の代名詞みたいにいわれる人ですな。

発見できたのは、当時のオーバーテクノロジー、望遠鏡でございます。望遠鏡は発見者不詳とされていますが、オランダでリッペルスハイなどが製造し、すぐにヨーロッパ各地で評判になったらしいのです。

さて、望遠鏡によって、月は女神ダイアナの光り輝く存在ではなく、デコボコした山やクレーターが多数ある世界であることがわかってしまいました。これ、双眼鏡くらいでもわかります。誰でもわかってしまうので、もう、隠しようがないことなのでございます。最近ではカメラのズームレンズくらいで楽しんでいる人も大勢いるのでございます。天文リフレクションズさんが特集するのはわかるとして、旅雑誌のサライでも記事があるくらいでございますー。また、海といわれる暗い部分であれば、肉眼でもなんとなくわかります。うさぎの模様が見えるというアレでございます。

ちなみにクレーターも海も、隕石の衝突によってできた地形だということがわかっております。が、1960年くらいまでは、クレーターは火山の噴火によるという説が有力だったのですな。実際、火山の噴火口は、クレーターのようなお椀のような地形をしていますし、ハワイにある有名なダイヤモンドヘッドという火山のあともクレーターと呼ばれておりますな。月のクレーターが隕石の衝突あとと思われなかったのは、それがみんな、ほとんどまん丸だからでございます。何かが落ちてまん丸になるには真上からモノが落下しないといけないと思われていたからですね。そんな偶然ばかりなんてありえないだろーってなわけです。実際は非常に高速度で落下すると、かなりナナメから落下しても丸いクレーターになることが実験などで確かめられています。

ところで、そんな月ですが、こうした地形には、名前がつけられています。ガリレオが月のクレーターを発見し、発表したのは、1610年ですが、1645年に発行されたオランダ出身の天文学者ラングレヌス(ラングレン)の月面図には早くも地名がついています。ほとんどはスポンサーのスペイン王と一族の名前でしたが、現在は当人の名前のついているラングレン(Langrem)以外は使われていません。

ラングレンの月面図 (出典:ウィキペディア)

名前のつけかたが、現在につながるのは、1651年にイタリアのリッチオリとグリマルディによる月面地図でございます。

リッチオリの月面図 (出典:ウィキペディア)

この月面図には、コペルニクス(Copemicus)、ティコ(Tycho)、プラトン(Plato)など、クレーターの名前に著名な科学者・哲学者の名前がついております。これらのかなりが、現在でもつかわれています。まあ、しっくりきたんでしょうね。また、海の名前も、雨の海(Mare Imbrium)とか晴れの海(Mare Serenitatis)など、天候などをつけた名前がつけられ、これもおおむね現在も踏襲されています。

その後、1850年ころに月の写真が撮影されるようになり、さらに細かなクレーターにも名前がつけられます。また1959年には、月の裏側の写真が初めてロシア(旧ソ連)のルナ探査機で撮影されて地名がつけられました。

ルナ3号探査機による写真 (出典:ウィキペディア)

このときは「モスクワの海」なんて名前をつけています。SF作家のジュール・ヴェルヌやロケット工学者のツィオルコフスキといった20世紀にかかる時代の人の名前も付けられています。

さて、その後もクレーターに(限りませんが)こまごまと名前がつけられ、これはウィキペディアにまとめられています。

その中に、日本人の名前もいくつか入っていますので紹介しますねー。

  • ヒラヤマ:日本の天文学者平山清次と平山信にちなむ。ちなみに二人は親戚同士ではない。
  • ナオノブ:日本の和算家(数学者)、安島直円にちなむ。
  • アサダ:日本の江戸時代の天文学者、麻田剛立にちなむ。

以下は、最近名前がつけられたものです。月の裏側にあり、地球からは見えません。

  • ナガオカ:日本の物理学者、長岡半太郎にちなむ。
  • ムラカミ:日本の物理学者、村上春太郎にちなむ。
  • ヤマモト:日本の天文学者、山本一清にちなむ。
  • ハタナカ:日本の電波天文学者 畑中武夫にちなむ。
  • ニシナ:日本の物理学者、仁科芳雄にちなむ。
  • キムラ:日本の天文学者、木村栄にちなむ。

木村さんは、天皇陛下もお言葉で例示されたこともある偉人科学者なのでございますな

と、ここでちょっと調べたら 月探査ステーションという、月の研究者がやっている有名なサイトにバッチリ一覧と解説がありますね。なんだ、最初からこれを紹介すればよかったかな。

もっとも、湯川秀樹とかないのか? という感じですが、これは地名がつけられた時代が、湯川さんが存命中だったのでしょうがないですな(存命中の科学者には名前がつかない)。身近な月の名前、時代だねという感じもございますが、まー、将来は、こうした地名が実際の居住地名として意味を持つようになるのですかね? あるいはもっともっと小さな地形にあらたに名前が付けられるようになるのでしょうね。精密観測で新しい名前というのもあると思いますが、月に住むようになると裏山に名前をつけたりとか、大きめの岩に名前をつけたりとか、そんな感じになるでしょうな。たぶん。今の月の研究者の名前や著名科学者の名前もつくといいですね。楽しみはつきませんな。では。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。