いまやエンタメの1ジャンルとして定着したSF。ファンでなくとも、スター・ウォーズが公開になれば、みんな見に行き、新製品が発表されると「まるでSF」とか言われます。まあ、すっかり日常です。このSFというジャンルは、19世紀に2人の作家によって定着しました。1人はイギリスのH.G.ウェルズ。そしてもう1人はフランスのジュール・ヴェルヌです。このSFは、スタート時点から未来の予言としての力を持っていました。今回は、予言者ともいえるジュール・ヴェルヌを紹介します。今回は「教養」でございますよー。ま、東明が書く「キョーヨー」なので気楽に読んで下さいませー。

ジュール・ヴェルヌ (出所:Wikipedia)

子供のころ「世界名作全集」ってのがありましたね。だいたい19~20世紀の文学を子供向けに翻訳したものが採録されており、採録作品には、三銃士、若草物語、赤毛のアン、トムソーヤーの冒険、ロビンソン・クルーソー、小公子、シャーロックホームズの冒険などがありました。最初はちょっととっつきにくくても、読んでみると結構おもしろかったりするのが名作なんですよね。

さて、そうした全集は、今でも何社からか刊行されています。そして、そのなかに変わらず入り続けているのが、十五少年漂流記と海底2万マイルの2作品です。共通するのは冒険物語であること。そして作者がジュール・ヴェルヌ(ベルヌ)であることです。

ジュール・ヴェルヌは、1828年にフランスで弁護士の息子として生まれました。当人もパリの法律学校に通うのですが、人気作家で三銃士の作者、デュマの息子(後にやはり人気作家)と知り合い、法律そっちのけで演劇やら作家業に首を突っ込みます。なかなか売れなかったのですが、その後、36歳のときに「気球に乗って五週間」という作品がヒットし、以降ベストセラー作家として多数の作品を残すことになります。十五少年漂流記も海底2万マイルもその中に入っています。

他に有名なのは、月世界旅行、八十日間世界一周、オクス博士の幻想、悪魔の発明、地底旅行などがございます。ヒット作品に気をよくした編集者が「驚異の旅」というシリーズを書かせたため、旅行っぽいものが多くなっています。で。それがまた売れたんですな。そして、それは今でも続いています。海底二万マイルは映画にもなっていますし、東京ディズニーシーのアトラクションにもなっています。また、地底旅行は、これまたアトラクションの名前のセンター・オブ・ジ・アースという方が通りがいいでしょうね。

さて、これらのヒット作品には、それぞれ当時にはない技術がちりばめられています。たとえば、海底2万マイルは、高性能潜水艦が登場し、世界の海を暴れ回ります。潜水艦が本格的に登場する前のことでした。潜水艦名はノーチラス号です。当時話題になった初期の潜水艇の名前をとっていますが、後に米軍が最初の原子力潜水艦の名前として採用しています。

また、月世界旅行は、月へ往復する方法を紹介しています。そのさいにロケットではなく巨大な大砲を考えていますが、実際に行われた20世紀のアポロ宇宙船の月旅行と同じスピードや時間を考えていますし、無重力状態も描かれています。

また、オクス博士の幻想では、ガスによって人間がおかしくなる様子を。悪魔の発明では、原子爆弾を彷彿させる超高性能爆弾をめぐる物語となっています。

ほかにも、当時は未達だった科学技術をネタにした小説が多数ありますし、また、八十日間世界一周では現在の飛行機をつかった高速移動だとすぐでてくる時差の知識がネタになっています。

ジュール・ヴェルヌは、それまで散発的にしか行われていなかった、どっちかというと小馬鹿にされていた科学的なネタをしかけにした小説群で人気になりました。当時は人間の愛憎劇がないと小説と認められなかったのですな。その特異な作品群のためSFの父と呼ばれるようになります。ただ、彼は法律家の卵であって、数学は好きだったようですが科学の勉強はソコソコしかしていません。もちろんSFというジャンルはなかったので、なぜこんなことができたのか、ちと不思議といえば不思議です。で、こっからは、東明の解釈でございます。研究結果とかじゃあないので、ご容赦くださいませ。

ヒントになるのは、最初に売れた、気球に乗って五週間にありそうです。これはアフリカ大陸を、高性能気球を使って探検するという話です。「未知の世界を」「他の人が持たない力」をもって「探検する」。このモチーフといえば…あーーー、中二病の世界ではありませんか。私は特殊な能力をもって、未知の困難と人知れず対決している的な。

で、さっきも書きましたが「ヒット作品に気をよくした編集者が『驚異の旅』というシリーズを書かせたため」、これらの作品は生まれました。つまり同じ構造の作品を量産するなかで、中二病的、SF的世界を広げていったのですね。そして、それが受けたのです。また、それが書けたのは、百科事典や各種の科学普及書が出回り、図書館が整備されたことが大きかったようです。専門家でなくても、SF的なことを描けるネタが入手できたわけですね。また、各種エンジンが利用されるようになり、身近に技術者も増えていました。職業的に技術計算をする人の助けも借りられたようです。

そもそもヴェルヌは、11歳の時に好きな女の子のために、密航して捕まるという中二病的行動をとったという逸話があります。そう、SFは中二病な作家ジュール・ヴェルヌが、これまた19世紀の豊かになりつつあったフランス社会の中二病な読者を獲得して、多数の作品群を生み出すことにより確立したと東明なぞは考えるわけです。

似たようなものに、推理小説というジャンルを確立した、コナン・ドイルのシャーロックホームズがあります。これまた、ドイルが手慰みに書いた、ちょっとパンクなスーパー探偵が、事件を解決するという話ですね。ヒットしちゃったので、死んだはずのシャーロックホームズを復活させるなんてことまで行われています。

ジュール・ヴェルヌはこうしたSFな作品を書き続けた結果、当時の技術を敷衍してあれこれ想像し、それが未来を予言することにつながったというのが実際のような気がします。ちなみに八十日間世界一周は、後に交通網の発達で実際にチャレンジする人が出てきたりしますが、すぐそこにある未来だったこそ、予言者という声もあがったのでしょう。そしてその当時の科学技術の進歩は人々の感覚よりかなり早く進展したのも後押ししたでしょう。20世紀にはX線がノーベル賞をとり、ロケットやコンピュータなどがどんどん登場します。昨日できなかったことが今日はできるようになる。そんな流れのなかで、未来をチョイ先取りした作品が魅力的に映ったのではないでしょうか。

ただ、ジュール・ヴェルヌは、科学が小説をほとんど追い抜いちゃった死後100年たったいまでも人気の作家です。毎年のように、彼の作品を原作にした映画が製作されていますし、先に述べたようにディズニーがアトラクションを作っています(海外にもあります)。科学的な内容はともかく、中二病的な要素はだいたいみんなもっちゃうものなので、そこをたたいた作品が人々を楽しませているのでしょうね。

なお、東明はジュール・ヴェルヌはもとより、文学研究家でもないので、これ、すべて、中二病的な妄想的解釈でございます。ネタ的に楽しんでいただきまして、まじめに研究するには、研究会などがあるようですので、そちらを訪ねてみてくださいませねー。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。