日本初の金星探査機「あかつき」は、2015年12月に金星に到達すると、いきなり大発見をしました。それは、金星の直径近く、10000kmにわたる、巨大な雲の模様でございます。そしてその10000kmの雲の模様は、高さが3km、富士山よりチョイ低いくらいの高原がもたらしているという研究発表が2017年になってありました。金星直径10000kmを支配する高さ3km。山はそんなに高くないが、惑星のみかけに影響する。今回はそんなお話でございます。

グローバル(global)の時代だ。なんて申します。グローブ(globe)的にということでございますが、これはラテン語の球体(globe)=地球ということから来ているそうです。地球という惑星単位でものを考えようという意味でございますな。ワールドとかアースとかいわないで、グローブというあたりが、なーんかエラそうな感じもありますが、地球儀のことをグローブといっていたのがまあ、元です。「地球儀で考えよう」というと、とたんに小学生の学習机くらいな身近な世界になってまいります。

さて、惑星はいずれもグローブ、球体です。こういうと「宇宙のどこかには、球体でない惑星があるんじゃないの? ☆型とか?」「ジャガイモみたいな小惑星のデカイやつがあるんじゃないの?」という人がいるわけですが、2004年以来、惑星の定義に球体ってのが入っちゃった(国立天文台のWebサイトを見てね)ので、惑星といったら球体なんですね。これが。まあ、細かいこというと「太陽系の」惑星についての定義ですけどね。

ただ、私たちの地球、っていうか、その辺を見渡してみると、結構凹凸があるわけです。山あり谷ありってなわけですな。山でいうとエベレストなどは8848m、まあざっと10kmも出っ張っているわですし、エベレストの近くにはヒマラヤの同じくらいの山々があるわけですな。K2とか、カンチェンジェンガとか、マナスルとかですね。ほかにもアフリカのキリマンジャロが5895m、北米のマッキンリー(デナリ)が6168m、南米のアンデスには6959mのアコンカグアほか5000~6000mクラスの山々が連なっているわけです。また、深い方は海水におおわれていますが、10000mもの海淵や海溝がそこここにあるわけですな。

ということで、地球は±10kmずつの凹凸がある。といっても、まあいいわけですね。これを正直に地球儀に表すと、結構ゴツゴツしてるんじゃないの? と思いたくもなるわけです。そこで、どのくらいになるか、ランダムに±10kmの凹凸を考慮して地球を描いてみました。

±10kmの凹凸を考慮して筆者が書いてみた地球 (クリックすると拡大します)

えー、この図はわりとマジメに描いておりますよ。たとえば、地球は、南北より東西の方がちょっと長い、わずかに横につぶれた楕円形です。これは地球が自転している遠心力のためでございます。扁平率、まあつぶれ方は300分の1ですが、地球の直径は13000kmなので、なんと40kmも東西(横)が長いのですな。それもちゃあんと考慮しております。が、わかんないでしょ? 実は40kmというのは、図の横が1300ピクセルなら、4ピクセル分にしかならんのです。この図は、1000ピクセルの直径(クリック後の元画像を参照)に対して、2ピクセルの線でフチ取っていますが、そのはばに完全におさまってしまうくらいなのでございます。

まして、山や海底は、±10kmですから、その半分。線のはばの中に山も谷も海底もぜーんぶおさまります。まあ、なんというか、地球はツルツルのボールといってかまわないくらいなんですな。

で、その事情は金星も変わりません。金星はだいたい、地球と同じくらいの大きさなのですが、最高峰のマクスウェル山が11000m、11kmです。これはエベレストより高いですけど、金星には海がありませんので、低い方がマイナス3000m、3kmくらいと、凹凸でいうと地球より金星の方がマイルドでございます。

ところがですね。この地球以上に「グローバルには」ツルツルの金星の地形が、65kmも上空の雲に、はば10000kmにも渡って悪さをしていることがわかったのでございます。

発端は、2015年12月に、日本で初めて金星の人工衛星になることに成功した「あかつき」の写真でした。赤外線カメラで見ると、雲の中にタテに模様があったのでございます。そのびっくり具合は当時の大塚実さんの記事にございますな。金星は、スッポリと雲に覆われ、地上が暑すぎて雨が降れない「天気予報が楽な惑星」です。で、その雲は、グローバルにはもともと、金星全体を吹く高速の風による模様が見られます。が、このタテ模様は風のながれとか関係なく、金星上空に貼り付いていたのですな。これが山のてっぺんなら、まあわかるのですが、高さ65kmで、その下の山の20倍も上まであったのですな。しかも、地形とは関係のない形になっていたのです。その場では、研究者は「なんじゃこりゃ?」と言いながら「とりあえず考えマース」ということになっていたのです。ちなみにこの模様は4日くらいで消滅しました。でも、その後もまた現れたりもしたのですな。

その宿題の答えが発表されたのが、この変な雲の模様が発見されて1年ほどたった2017年1月17日です。立教大学の福原哲哉先生ほかの研究グループが論文として発表しました。その概要は立教大学のプレスリリースでも読めます。ようは、地上の数kmのふくらみに風が当たり、それが上空に波となって、ひろがりながら伝わっていって、65kmもある雲の表面に、巨大な模様となって現れた。現象としては、石が池にポチャンと当たって、波紋がひろがり、岸に波となって現れた。というのとよく似たような話でございます。ちなみにプレスリリースでも新聞の記事でも「重力波」となっていますが、これは一昨年発見されたブラックホールからでてきた重力波とは違い、持ち上がった波が重力で引き戻される、まあ水面とかに見られる波のようなものでございます。

さて、研究では、金星の他の場所でも同じような現象が起こるってなことが発表されていますし、実は地球でもアンデス山脈による同じような現象が発見されていたりするのだそうです。

そして、なによりもっとすごいのは、この地上の地形が、その地形の大きさを大きく超える、広い範囲に影響を与えるということが、ほかにもあるということなのですな。たとえば、ヒマラヤ山脈の存在で、地域を吹く風が2つに大きく屈曲し、合流したところで高気圧が発生しやすくなったりします。

そして、こうした地形は変化をいたします。ヒマラヤは100万年くらいずんずんと高くなり、それによって氷河期とそうでない時期の周期が、大きく、差も激しくなって、地球の陸地面積が大きく変化するキッカケになった、なんて研究があったりするのですな。

山の高まりは、確かに惑星全体からしたらたいしたことはないのですが、惑星の表面の模様を形作る雲や雪、陸地の分布などには大きな影響があるというわけでございますなー。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。