地球のお隣の惑星、火星。フィクションのうえでは「何度となく地球と戦争」をし、「植民地に」なり、「ゴキブリが繁殖した」うえに、「地球人の先祖がいたり」しますが……。実際は、火星には人間は一人も行っていません。それどころか、無人の探査機を送り込むのも苦労しています。なーんと半分以上が失敗しているのですな。小惑星探査機はやぶさを成功させた日本でも、火星探査機は失敗しています。人呼んで「火星の呪い」。先日もこれが発動? してヨーロッパのエクソマーズの着陸機スキャパレリが火星に墜落しました。この「火星の呪い」がどれほどのものか、ちょっとご紹介しましょー。

2016年は、火星がよく見える年でした。はい、火星については、よく見える年と、そうでない年が交互にやってくるのでございます。次回は2018年夏、そして2020年秋が、火星がよく見える時期にあたっています。2年ごとですな。

火星がよく見えるというのは、図1のように、地球が火星をならんで、追い抜くときです。図2のようだと、太陽の方向、つまり昼間の空にあってよく見えません。

図1 火星がよく「見える」時期

図2 火星がよく「見えない」時期

また、図1のような、よく見える時期は、火星が地球に近いことがわかります。近ければ明るく見えるわけで、なおのこと見やすいというわけですね。なにしろ近いときと遠いときで、火星までの距離は5倍も違うのです。明るさは距離の2乗で変化しますので20倍以上も変わってしまいます。明るいときの火星は「あれなに!?」という感じの星ですが、暗いときの火星は本当に地味で、大都会だとなんとか見えるかな? くらいになります。

ところで、今年は図1パターンだったわけですが、これは火星が近いということですな。近いということは、宇宙探査機が送りやすいということになります。ということで、火星がよく見える=近くになる2年ごとに、宇宙探査機を送るチャンスとなるわけです。

そんなわけで、今年は3機の火星探査機が予定されていました。ひとつはアメリカのInSight、ただこれは、一部不具合が発見されて、打ち上げが2年後に(次のチャンス)に延期になりました。そして、もう2機が、ヨーロッパとロシアが共同で行うエクソマーズのTGO(人工衛星)とEDM(スキャパレリ着陸機)です。打ち上げは2機相乗りで行われ、火星に近づいて分離をしました。で、スキャパレリ着陸機が失敗して火星に激突して爆発したようですなんですな。

また、次の2年後は、延長されたInsightのほか、ロシアの着陸機、エクソマーズのローバー(火星探査車)が予定されています。過去についても、2014年にアメリカのMAVEN、インドのマンガルヤーンの火星探査が行われています。

ということで、おおむね2年ごとに火星探査は行われております。一番最初は人工衛星があがった1957年からたった3年後の1960年に行われていますね。旧ソ連がです。失敗してますけど。初の成功はアメリカのマリナー4号で1964年のことでした。このとき、火星に巨大な都市はない! ということがわかっちゃいました。とうことで、まあ火星探査機は50年以上も送られ続けているのです。

ところがですね。成功率が、低いのですね。たとえば、木星探査だと、アメリカが6機を打ち上げて全部成功。土星はアメリカの3機がいずれも成功です。水星はいままで2機で両方成功していますし、金星は失敗をリカバリーした日本のあかつきをはじめ、ヨーロッパのビーナスエクスプレスなど、最近の探査はおおむね順調です。

が、火星はというとですね。これが、なんというか、死屍累々なのでございます。この手のまとめは、Wikipediaが便利なのでのぞいてみると……まず、ソ連・ロシアですが、19機中、成功したのがたった2機! 打ち上げ失敗8機は、1960年ごろに立て続けにうまくいっていないのはしかたないですね。ロケットや誘導の技術を確立するための実験なんですから。ただ、まあ、それを割り引いても、航行中に通信途絶4機、火星軌道に入れなかったり着陸失敗2機、着陸したもののまともに観測できなかったものなど3機……もう、ソ連・ロシアの火星研究者に同情しか。

アメリカはまだましですが、21機中15機が成功、でも6機を失っています。そのうち、1998年に打ち上げられたマーズ・クライメイト・オービターについては、単位換算をあやまって(重量ポンドとニュートン)、計算より4倍以上のパワーで姿勢制御ロケットを噴射したあげく、火星の大気につっこませて、探査機を墜落させてしまったという、もうなんだかね、な、お話があります。

ただ、日本はもっとも笑えなくて、1機中1機が失敗しています。全損ですな。この探査機「のぞみ」は、不運なことに太陽からの強力な放射線の直撃をうけ、機器が損傷、姿勢制御の信頼性が不十分で、火星周回軌道に投入をあきらめたのでございます。

ヨーロッパは、このたびのエクソマーズをふくめ、いままで2組4機をおくっています。あとはロシアのものに一部協力もありますから5機かしらね。で、1機が通信途絶、2機の着陸機は両方ともアウト。直近のエクソマーズについては、マイナビニュースに鳥嶋真也さんが、詳報を書いていますね。

あとは、中国がロシアと相乗りで、1機中1機が失敗ですね。そんななかで、インドは初挑戦のマンガルヤーンが成功。唯一の勝率100%です。

さて、まとめますと、火星にはこれまで47機がむかっていますが。

  • 打ち上げ失敗が、10機
  • 火星にむかう途中で通信途絶が、6機
  • 火星周回・着陸失敗が、7機
  • 火星に到達したものの、ロクに観測できなかったのが、4機
  • まあ、成功といっていいのが20機

なお、この数字、えっと、いちおうマジメに数えたのですが、いろいろややこしくて、まちがいあるかもです。というかたぶん2~3くらいまちがってます。なので、事典とかにそのまま転載やーよ。そもそもソースWikipediaだけだし。昔のソ連の計画なんて、よくわからんし。といいわけしつつ、まあ大勢はかわりません。「火星の呪い」といたくなるでしょー? あー、やだやだ。まあ、でも最近、アメリカはたてつづけに成功してますけどね。

なお、日本は最近、火星の衛星への探査計画を発表しましたし(鳥嶋さんの記事がやはりいいですね)、アラブやフィンランドなども計画を持っているようです。ヨーロッパ、アメリカもですな。さらには、火星に人間送るぞといっている、NASAの仕事も請け負っているSpaceX社代表で、実業家のイーロン・マスクさんもいてますな。

いずれにせよ「呪い」なんて払拭して、着実に探査が進むことを望んでやみません。あ、マジメにまとめてしまった……。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。