春はなにかとこよみに関する話題の多い時期でございます。そして、こよみ、カレンダーは人類最古のサイエンスのひとつでございます。ということで、今回のどこでもサイエンスは、節分、春節、イースターと、こよみネタでございますよ。

えー、第12回でもとりあげましたが、こよみ、カレンダーを作るもとになっているのは、地球の自転と公転、それに月の公転でございます。自然を測定して応用しているので、サイエンスの応用なんですな。

ただ、カレンダーを作るのは、人間です。日本では日本国政府が法律で定めることになっております。たとえば、1日のはじめを深夜0時にするなんてのは、当たり前……ではなく、法律(というか太政官達しですが)で決まっているのです。実際、日の入りを1日のはじめにするカレンダー(イスラム暦)も存在し、何億人という人が使っています。それに歴史や伝統が加味されるわけでございます。

で、そのカレンダーですが、この2~3月は何かと話題になりますな。いや、カレンダーが売れ残った……とかじゃなくて、節分に春節、2月29日にイースターと、日付が決まっているんだかいないんだか、よくわからない話題がでてくるからでございます。そうそう、春分の日も毎年同じとは限らないのですよね。そこに、自然に人間社会があわさざるをえないビミョーなからみがでているのでございます。

さきほど、カレンダーは地球の自転と公転、月の公転がもとになっていると書きました。これが、キレイに整数倍ならなんの問題もおこらないのです。しかし、そうじゃないのがややこしいのです。

地球の自転は、一日1回でこれはかなり安定しています。ま、原子時計で測定するとわずかにゆらぐのがわかっていて、たまに閏秒を出し入れするんですが、コンピュータのシステム屋さん以外には、あまり関係のないことです。

問題は一年と一月です。それぞれ、半端があるんですね。一年は365.24219日、月の満ち欠けだけを基準にすると一月は29.5306日でかなり変動がある。一年が何カ月か? というと12~13カ月になってしまうのです。カレンダーもそれにあわせないといけず、ややこしいルールを入れる必要がでてくるんですな。

で、ここで歴史がでてきます。一年というのは、たしかに重要で、季節がぐるりと一巡りするのに連動しているわけでございます。半端をほっておくと、そのうち8月が寒いとかいうことになってしまうので、閏年を入れて、適宜調整をしています。

で、この閏年のいれかたですが、4年に1度……にすると、一年が平均365.25日になり、まだ半端が残ります。そこで、さらに400年に3度、閏年にしないというルールがあるのですな。つまり100分の97に閏年を減らすのです。これで平均365.2425日となり365.24219日との誤差は1万分の3.1となります。まあ、3000年くらいは気にしなくていいってわけですな。

で、問題は月のほうになります。だいたい、なんで月なんか入れたんだって感じです。まあ、テレビやネットはおろか、紙の流通すらしていなかった時代には、みんなの共通のものは月の満ち欠けだったんだからしょうがない。一年の変化は毎日は感じませんが、月は毎日の変化がカンタンにわかりますからね。先に一月ができてから、一年の長さが意識されたのでございましょう。月末はすぐくるが、年末はなかなかこないってなもんです。

ということで、カレンダーに月はかかせないんですが、なにしろ29.53日。どうするよです。とりあえず、一月は29日か30日にしておくのがいいってことになりますな。

ところが、それだと354日くらいで12カ月になる。それを一年とすると、そのうち季節とずれるので、ときどき「閏月」を入れて、一年と月の関係があまりおかしくならないようにする。それが、いわゆる旧暦です。旧暦の1日は原則として新月の日です。三日月は旧暦の3日の月という意味なんですね。もともと。

一方、「もうええわ、一月なんか適当で」として、一月を28日~31日にして、なんかなごりがあるようなのが、現在我々が使っている、西暦というか、世界のほとんどの国が使っているグレゴリオ暦です。

なお、世の中には、一年というか季節の関係なんか知らん! という豪快なこよみもあり、それがイスラム暦ですな。有名な断食をするラマダンは、第9月なんですが、これが、夏になったり、冬になったりどんどんずれていきます。日中は食事をしてはいけないことになっていまして、夏で暑く日が長いときのラマダンだとみんなイライラしやすくなるなんて話もございます。また、ロンドンオリンピックはラマダンと重なったのですが、イスラム圏の選手は断食をしたんですな。もちろん。2016年は6月6日~7月5日ごろがラマダンになる見通しです(正式には長老が決定する)。

さて、ラマダンとならんで、話題となるのが、中華圏の春節です。一斉に帰省するとか、大挙して観光にでかける長期の休みになるのですが、これがいわゆる旧暦で決まっております。つまり旧暦の年末年始が春節の休みになるんですな。

中国では、正式なこよみは西暦なんですが、この春節や一部の誕生日の換算は、中国の旧暦で決まっています。で、閏月がどこに入るかで、最大一月の変動があるんですね。1月に春節がはじまるときもあれば、2月の下旬のこともあるってわけです。

ちなみに、日本では旧正月の近くに「立春」「節分」があります。節分は立春の1日前で、季節を分ける日なんですが、立春はなんじゃらほいですね。これは、24つある節気のひとつで、一年の太陽の仮想公転経路を24にわけ、太陽がそこを通過するように見える日のうちのひとつです。なんかむずかしーですな。で、24節気には、冬至とか春分などがあるのですが、立春は、冬至と春分の中間になります。で、立春の次の雨水という節気をふくむ月を、旧暦の1月とするように決めているんですね。平均的には立春が旧暦の元旦に近くなりますが、まあ、30年に1度くらいしか、旧暦元旦と一致することはありません。24節気そのものも、3日程度の範囲で変化します。閏年の関係ですな。さらに、中国と日本の旧暦は時差もありますし、ビミョーにルールも違うのでこれまたややこしいです。しかも、日本の旧暦は、国から面倒みないぞと宣言されておりますな。で、このままでは2033年に旧暦が破綻することがわかっています。

最後にイースターについてちょっと。日本ではイースター島のモアイでしか知られていなかったのですが、最近では商業的に知られてきましたね。キリスト教のイエス・キリストが十字架刑になり、そこから復活したのを記念した日なんですが、これの決め方がなんともなんです。

イースターは、イエス・キリストがよみがえったことを記念する日。画像はシモン・チェホヴィッチ(ポーランド語版、1758年)の『復活』。復活したイエス・キリストが弟子たちの前に現れている場面が描かれている

いわく、春分の次の、最初の満月の次の、日曜日。ってことになっています。イースターは必ず日曜日なんですが、その直前の金曜日と翌日も、休みになって、欧米の株式市場が閉場になったりします。日が固定されているクリスマスよりやっかいですな。

ちなみに2016年のイースターは3月27日なんですが、東方教会といわれるグループでは5月1日です。採用しているカレンダーが違うためにこんなことがおこります。どこでの満月にするんや? とか、どこでの春分なんや? ってのも問題ですね。両方ともその瞬間は世界で共通なんですが、時差で日付が変わることもあるんですよ。今年は、最も極端な例で、たいていは同じ日かせいぜい1週間の差になるんですが、で、統一しようって動きもあったはずなんですが、あれ、どうなっちゃってんだろう……まだみたいですね。

むー、やはりサイエンスと社会がからむと、いろいろややこしいですな。そこがカレンダーのおもしろいところで、しかしよく勘違いされちゃうところなんですけどね。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。