飛行機で欧米旅行をすると、行きと帰りで飛行時間が変わるのをご存じでしょーか? さらに、冬はハワイまでの行きの所要時間が短縮されます。これはジェットストリームが原因です。安心してください。ボールペンじゃないですよ。

正月をハワイで過ごす。いいですなー。なかなかできるこっちゃないですが。で、その日本~ハワイ路線の旅客機は、行き帰りで時間が違うのでございます。全日空の2015年12~1月の時刻表によると、最大で行きは6時間30分、帰り9時間25分(成田・ホノルル便)となっております。行きと帰りでなんと3時間! も差がでているんですなー。これは一番極端な例ですが、いろいろ見てみると、かならず行きが速く、帰りが遅くなることがわかります。一体ナゼかというと、これは風のせいです。行きは追い風、帰りは向かい風……というか向かい風にならないように迂回しながら飛ぶため、この差が出るんですねー。

長距離の国際線の旅客機というと、ボーイング777とか、エアバスA330とかで、まあ時速900kmで巡航するわけです。その飛行機の速度を3割くらいねじ曲げる力がある風。それがジェットストリームでございます。ま、ジェット気流ともいいますな。日本航空が、倒産しても半世紀近くも提供を続けてきている名物FM番組「JET STREAM(ジェットストリーム)」は、もちろんこの風がいわれになっているわけでございます。

ジェットストリームは、北緯30度、40度、60度などいくつかの場所で発生します。一番有名なのは北緯30度のもので、上空8~13kmに、幅100km、長さ数千kmに渡って吹きます。平均風速は時速200~300km、毎秒にして30とか50mという……暴風ですな。なるほど、飛行時間に影響を及ぼすわけでございます。追い風参考記録なんてもんじゃないですな(ちなみに陸上競技だと毎秒2.0mの風で公式記録じゃなくなっちゃうそうです)。

ジェットストリーム イメージ(画像提供:NASA)

このジェットストリーム、地上だと台風以上のクラスですが、エベレストの山頂並みの高空を吹くので、高々度を飛ぶ飛行機が一般的になるまでは、あまり知られていませんでした。1920年代に日本の気象学者の大石和三郎が気球による観測で、その存在をレポートしているんですが、あまり広まりませんでした。残念ですなー。その後、高度1万mに飛行機を飛ばすようになると、気がつかれることになります。アメリカなどは、日本を爆撃する高々度爆撃機B29(巡航速度350km/時)を運用する際に、これに悩まされたそうですな。

さて、ここで、ジェットストリームがナゼ吹くのか? なんでこんな暴風になるんじゃらほい。という疑問がでてまいりますな。でしょ。ねー。これを理解するには、ちょっとばかり専門知識が必要です。おぼえてくださいね。こればかりは。

  1. 地球は丸く、自転している
  2. 空気は、熱いところから寒いところへ移動する

地球は24時間で自転をしていますな。その自転の速度は、北極や南極ではゼロですが、周囲4万kmの赤道では、時速1666kmに達します。日本付近では、cos(緯度)倍なので、鹿児島あたりにあたる、北緯30度で時速1400kmとなります。時速300kmの差がある。これを覚えておいてくださいませ。

さて、赤道は暑いですね。そこでは盛んに上昇気流が発生します。赤道は猛スピードで移動しているわけですが、まあ地上も上空も同じように移動しているので、上昇気流は、地上からおいていかれたりせず、まっすぐあがっていきます。宇宙からみると、1700kmで東に移動しながら空気があがっているんですけどね、地上からはまっすぐに見えるわけです。

ただ、まっすぐあがるだけではなく、暑い気流は、寒い方。北半球では北の方へ移動します。あがりながら移動する。そして、移動していくと冷めて、下降します。それが北緯15~30度くらいでございます。常に下降するので、ここは高気圧になります。で、砂漠ができるんですね。晴れっぱなしになるので。そのとき、上空の空気は、赤道で得た時速1700kmで移動しようとし続けます。でも、下降する北端の速度は時速1400km。ということで、上空の空気だけ、地上より時速300kmも速くなる。これが、おおざっぱなジェットストリームの発生する理由でございます。

この上昇→寒いところへ移動→下降は、もうひとつ北側でも起こっています。さらに地上の寒さ熱さや地形やら、いろいろな要素がからまって、もうひとつ北側にできるジェットストリームは南北に蛇行したりします。さらに、季節によって、場所が変動し、冬などは2つのジェットストリームがひとつになり、スピードが上がったりします。

で、どうなるか? 冬のハワイ便の方が、夏のそれより速くなったりしちゃうのでございます。ま、その逆に帰りは時間がかかっちゃうので、冬は行きと帰りの差が激しくなるわけでございます。あと、昼と夜とでも当然風の速度が変わったりしますな。

冬の便(2015年12月~2016年1月分参照)

成田発・ハワイのホノルル行き 所要時間は、6時間30分か7時間ですな。

夏の便(2015年7月~2015年9月月分参照)

成田発・ハワイのホノルル行き 所要時間は、7時間30分か7時間35分です。

なんと最大で1時間も違うのでございます。全便遅くなっているので、飛行場の都合とかじゃございません。実際に、冬の方が速くハワイに行けるのでございます。

ほかもチェックしてみましょー。起点は成田、参照時刻表はハワイ便と同じでございます。わかりやすくするために、同一コードの最速の便で比較しますねー。

行き先 冬の所要時間 夏の所要時間 夏と冬の差
ホノルル 6:30 7:30 1:00
ニューヨーク 12:30 12:45 0:15
シカゴ 11:30 11:35 0:05
ロサンゼルス 9:45 10:20 0:35
シアトル 9:05 9:20 0:15

ちなみに、欧州便だと逆に冬が遅いです。飛ぶ向きが反対だからですね。

行き先 冬の所要時間 夏の所要時間 夏と冬の差
パリ(羽田) 12:40 12:30 ▲0:10
ロンドン(羽田) 12:40 12:30 ▲0:10
ウィーン 12:00 12:00 0:00
イスタンブール 12:55 12:10 ▲0:45

北の方は影響が少ないのがわかりますね。これらをうまく組み合わせると、最適な航空路ができそうですが、実際には政治的な問題とか、飛行場の都合(ラッシュになりやすい時期)とか、巨大な山脈があるからとか、いろんな理由でベストにはなりません。でも、あらかたは、自然が決めちゃっているのがおもしろいところでございます。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。