毒は、日本の法律では、成人が2グラム以下を飲んでしまうと、死に至る物質なのだそうでございます。毒物は法律で! 28種類がリストアップされており、このほかに政令でも数十種類があげられています。水銀、ヒ素、青酸カリなどはおなじみの!? 毒ですが、ニコチンも毒物指定されているんですねー。でも、なんだか聞いたことないような物質もいっぱいですな。今回は毒についてチョット調べてみました。

毒、それは「ある意味」ロマンです。体重70キログラムの人間が、わずか数ミリグラムの物質にかなわない。あたかもXウィング戦闘機が、たった2発の爆弾で巨大なデススターを破壊するような、その強烈な個性が毒の魅力でございます。アクション、スパイ、推理小説に、毒は欠かせません。一方で、日常に毒が入り込むと、これはもう悲劇としかいいようがない話です。毒の被害にあった当事者や関係者に「イヤー、ロマンですね」なんて、まちがっても言えやしないわけでございます。

とはいうものの、毒がそこにある限り、毒への探求はせんとなりません。危険なものに目をつぶったら、もっと危険なわけでございます。ということで、身近にある毒について、チョット調べてみました。長くなりそうなので、とりあえず3つばかり。またおいおいちょいちょいとりあげます。はい。

なお、お断りしておきますが、毒の取り扱いについては、法律・法令に従って専門家が行うべしで、シロウト判断は絶対いけません。ここでは「知識を楽しむ」ってことでよろしくお願いします。ぺこり。

1. アリルプロピルジスルフィド

この物質は、血に混じると、赤血球が破壊され、酸素を運ぶ機能をとめてしまいます。つまり、急性の貧血になって、死ぬのでございますな。死なないまでも肝臓に障害が残ります。まちがって口に入れたら、吐かせるか、利尿剤+水でおしっこを沢山させて身体から出させるしかないそうです。

アリルプロピルジスルフィドの構造式

で、この物質、どこが身近なんだというと、タマネギ、ニンニク、長ネギに!! ふくまれているんですね。しかも、毒になるわけですから、少量で症状が出るわけです。それにも関わらず、毒物には指定されていません。なぜか? 犬や猫、牛、ヒツジには毒なのですが、人間にはなんともないからです。くり返します。人間にはなんともありません(超大量に食べたらダメですが、そんな食べ方はそもそもできない)。そういうものっていろいろあります。蚊取り線香のもとになる除虫菊などもそうですな。

俗に犬などの「タマネギ中毒」といわれる症状の原因物質です。タマネギなどの成分は、カレールー、ドレッシング、ケチャップ、ハンバーグなどにも入っていますので、愛犬家、愛猫家はくれぐれも注意が必要であります。タマネギ切って床に落ちている台所にペットを入れてはいけません。

2. 青酸(シアン化)カリウム

スパイ小説でおなじみの毒物です。0.15~0.3グラムを口に入れると、死んでしまいます。こちらはもちろん、政令にも書かれていて、人間に毒なわけです。青酸カリはそのままでは、毒ではないそうなのです。飲み込んで胃酸と反応すると、シアン化水素のガスが発生し、それが肺を通じて血液のなかに入ると、血が酸素を運べなくなり死んでしまうそうです。調べるまで知らなかったよ。だから、青酸カリを飲んだ人にキスしたらあかんのですなー。息も危険ってわけですな。もっといえば、皮膚から入ることがあるので、これも危ないですな。もっといえば、このシアン化水素のガスはわりとカンタンに発生しちゃうので、青酸カリは飲まなくても危険な物質なのには変りません。

青酸(シアン化)カリウムの構造式

青酸カリがメジャーなのは、工業ではよく使うからのようです。金を鉱石から取り出すのにつかわれますが、より身近なのはメッキに使うことでしょうね。かつては写真プリントにもよく使われていたようです。

ところで、青酸カリ同様に危険なのが、青酸ナトリウム(青酸ソーダ)なのですが、こちらは国内だけでも何万トンという単位で生産されているそうです。メッキに使われるのが有名ですが、肥料の製造や化学薬品の合成にも広く使われています。メッキばかり白眼視しないでねー、と鍍金(メッキ)協会のみなさんが言っています。まあ、危険を知っている人が適切に扱えばいいわけで、シロウトの我々が「毒」って書いてあるものをわざわざ触らなければいいだけでございます。

3. テトロドトキシン(フグ毒)

いわゆるフグ毒です。俗に青酸カリの1000倍も強い毒を持つといわれる物質です。ってことは、0.0001グラムでも死ぬってことでしょうね。こわ! 食中毒の半分はフグ毒だといわれていまして、フグの調理には免許が必要なのはよく知られています。ただ、フグによっては毒がないものがあるし、部位によるんですね。そういうのを見分けて安全に調理するのが免許の要件ってことになるんでしょうな。

テトロドトキシンの構造式

フグ毒の研究は日本人がやっていまして、1907年に田原良純博士(日本初の薬学博士)が、テトロドトキシンの分離に成功しています。でも、その化学構造がわかったのは1964年だそうです。へー。熱にめっぽう強く、フグ毒を加熱しても分解しません。だから、危険なんですな。なるほど。

また、これもまだ反論もあるみたいですが、フグ毒はフグが生産するのではなく、プランクトンが生産し、それがフグの体内に最終的に蓄積されるとされています。なんでフグの体内にだけ蓄積されるのか? というと、毒に耐性のない生き物が食べると、死んじゃうからなんですね。生き物は、細胞と細胞が連携して活動しています。大規模なものだと、脳の司令が神経細胞を通じて電気信号を発して、身体を動かすわけですが、ここでナトリウムイオンが電気のやりとりをしているんですね。フグ毒はそれを止めちゃうのです。ただ、このしくみのなかで、それでも止められないものもあります。それを獲得できている生物が、フグというわけなんでございますな。ぐぐりたい人のために「ナトリウム・イオン・チャネル」という言葉をご紹介しておきます。フグ毒で、細胞通しの連携を止めてみる実験ってのは、大学レベルではよく行われているようでございます。やらなかったなー。やってみたかったなー。

なお、しつこくお断りしておきますが、毒の取り扱いについては、シロウト判断は絶対いけません。まして悪用は当然ダメでございます。各種法律で罰せられますし、とりかえしのつかないことになります。ここでは「知識を楽しむ」ってことでよろしくお願いします。話題にして楽しむときも、そのことはくれぐれも強調してください。ぺこり。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。