世の中、トホーもない数字がたくさんでてまいります。で、そんなん、どうやって出したのかわからないわけでございますなー。今回は、そんなお話でございます。あ、理系の人にはたぶんジョーシキなので、そうでない方々にお話する時の「思い出しネタ」にでもしてくださいませー。

エンリコ・フェルミ氏 (出典:Nobelprize.org)

20世紀最初の年に、イタリアでエンリコ・フェルミって男の子が生まれました。この人、25歳くらいで、量子物理の世界でとてつもない研究成果を次々とあげ、37歳でノーベル賞を受賞した天才でございます。で、奧さんがユダヤ人だったために、ナチスドイツの同盟国だったイタリアでの迫害をおそれ、ノーベル賞の受賞式典で出国して、そのまま亡命。アメリカの大学に迎えられるのでございますな。原子炉を発明し、その後は原爆の開発をすることになるんですけど(水爆には反対していたらしいですがね)。

さて、このフェルミさん、数字のケントーをつける。概算の達人として知られております。いっけん、無理だろうという問題を、だいたい解いてしまう。それを「フェルミ問題」といっているのでございますな。原爆の開発のときも、ティッシュペーパーの飛び方で、爆風の威力を概算したそうでございます。

いうならば、「ざっくりいうと」の元祖でございます。

有名な問題としては「シカゴ市のピアノ調律師の数は何人か?」ってのがあります。これは、関係する要素のかけ算と割り算で解けるのです。やってみましょう。

A:シカゴ市の人口 ~ 200万人としましょう
B:家族の人数 ~ 1家族で4人くらいが平均でしょうか
C:ピアノを持っている家族 ~ 1/10くらいかな
D:調律する回数 ~ 1回年としましょう

ここまでで、シカゴ市でピアノが調律される総回数は、1年あたり

A÷B×C×D = 200万÷4×1/10×1

で 5万回ということになります。

E:1人の調律師が1年で調律できるピアノは、まあ500台としましょう。1日2台弱ですな。

ということは、

5万回÷500=100

ということになります。

まあ、ざっくり、100人くらい調律師がいる。ということになります。

ちょっと調べてみたら、就職活動の際の問題で、出されるようですね。アドバイスをすると、面倒くさい数字は、計算がカンタンになるように、数字をそろえるとよいです。どうせ精密な数字が必要なわけじゃないのですから、楽にやりましょう。電卓使えるなら、もっと面倒な数字でもいいけど…

ただ、フェルミさんに限らず、科学者は、もっとざっくりやるんですな。桁、というかゼロの数、つまり指数でやるんです。真ん中へんは四捨五入して、4人は1人、500台は1000台としてみましょう。

A:100万、B:1、C:1/10、D:1、E:1/1000台

桁の数をいうと、6、0、-1、0、-3、これを足しあわせると、6-4で2、ゼロが2つということは100ということで、見事にあいました。これをやると、1桁くらいずれることはよくありますが、まあ、そこは気にしないのが概算の大事なところです。

逆に、大きな数を数えるときはどうでしょうか? たとえば、大きな道路がぎゅうぎゅう詰めになっていて、そこの人数は? なんていう問題です。

A:道路のはば × B:道路の長さ × C:1人あたりが占める面積

で出せますな。

で、AとかBとかは、地図をみて測ればわかるんですが、わからんことってありますよね。浅草寺の前の通りとか、国会議事堂の前の通りとかいわれて、写真くらいしかないとか、それすらないとかですな。

こういうときも、常識を駆使すればいいんですな。たとえば、浅草寺の前なら、両側にお店があって、そのお店があまりに遠いと不便だよなー。とか、何キロも参道をあることはないよなあ。とか、そういうことです。

常識から、うちの近所の商店街は、車の行き違いやっとで6m道路くらいだから、浅草寺なら10mはばくらいなんじゃね? となりますな。長さも、まあ200mくらいかな。ってなもんです。さらに、人の肩幅はまあ50cm、厚みも30cmくらいかな、として、ちょっと余裕もたせて1m×0.5mに一人ひとがいるとしましょう。するってえと、10×200×1/0.5=4000人ということになります。もうちょい混んでいそうなので、5000人とかかな? で、いま浅草寺のグーグルマップを見たら、はばはそんなもんですが、長さ50mくらいですね。じゅあ、1000人とか1500人程度ですな。

ちなみに、面積を測る方法はほかにもいろいろあって、地図を切って調べる方法もあるんですな。しらべたい面積の部分を切り取り、同じ縮尺で、キリのいい、たとえば10m×10mのパーツを切り取って、はかりではかり、重さを比べるという手もあるのでございます。これだと、複雑な面積でもかなり精度よく出せます。もし、軽すぎてということならば、拡大コピーをするとか、同じものを沢山コピーして重ねるとか、重いゴムシートと重ねてあわせて切ればいいいんですな。

星の数であろうが、砂の数であろうが、なにしろ、意外となんとかケントーがつけられるものなのでございます。

で、その時に、できるだけカンタンになるように、0の数だけにするとか、2×5とか、4÷8×2みたいな組み合わせにして、暗算しやすくするのも吉なんでございます。

あ、そうそう、世の中には、スゴイ数字が結構でてくるんですが、ホンマかいなと思って、計算すると、納得できたり、全然違ったり、いろいろおもしろいですよー。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。