2月は、チョコレートの消費量が多いのだそうです。ふだんの倍くらいにはなるとか。まあ、冬は溶けてベタベタになることはないですからね~。で、このチョコレート「惚れ薬になる」というお話もあったりして、なかなかオモシロイのです。今回は、チョコレートのお話でございます。

チョコレート、大好きです。通勤帰りについ、粒チョコを買ってポリポリやっちゃいます。2月14日は「チョコレートの日」だそうでして、日本でのチョコレート消費がピークになるそうでございます。ま、スーパーに行っても山積みだものね。そりゃそうだ。

で、このチョコレートですが、ちょっと考えてみると、色々オモシロイ物質なんですね。歴史的な経緯とかは、ま、メーカーの日本チョコレート・ココア協会さんにお任せするとして、チョコレートをお題にいろいろお話いたします。

チョコレートはカカオ豆から作ります。カカオ豆はカカオの実の中に入っているタネなんですが、このカカオの実ってのがすごくって20センチ×10センチほどにもなるんですな。500mlのペットボトルより二回り大きいくらいです。デカイ実ですな~。

で、この中に数十個のカカオ豆(種)が入っております。その豆の4~5割が脂肪なんだそうです。脂肪分が多いとされる大豆でも2割くらいなので、こら、多いですなー。もちろんもっと多い豆もあって、クルミとかピスタチオなんかは5割以上ですな。ゴマも油をとれるくらいなので、5割程度です。それと変わらんものが原料なわけですね。

さて、チョコレートを作ろうと思うと、このカカオ豆をいろいろ処理せんとなりません。処理はいろいろありますが、まあ、なんというか用語がめんどうです。解説しているサイトを見ると「ココアバター」「カカオニブ」「カカオマス」「ココアケーキ」でこんがらがりそうです。ちなみに「カカオ」と「ココア」は読みが違うだけで同じものですな。統一してくれればいいのに。

さて、チョコレート関係者に怒られそうなほどカンタンにしちゃいますと、カカオ豆を乾燥させたり炒ったり絞ったりして「カカオ豆の中身」だけを取り出します。そしてこの「カカオ豆の中身」を「黒っぽい成分」と「油っぽい成分」にわけるんですな。

ホワイトチョコレートは、「油っぽい成分」だけで作ります。これはほとんど脂肪のかたまりで、まあココアバターといわれております。ココアってついているけど、脂肪なので白っぽいのです。このココアバターに牛乳、砂糖を混ぜ込んで(うわ、脂肪と砂糖ばっかり)作ったのが、ホワイトチョコレートです。

飲み物のココアは、「黒っぽい成分」だけで作ります。「油っぽい成分」がなくなっているので、ココアの脂肪分それほどは多くありません。まあ、砂糖とかいろいろ混ぜるので、カロリーは高くなるのですけどね。

さて肝心のチョコレートは「カカオ豆の中身」に、「油っぽい成分」をさらに足して作ります(昔はカカオ豆の中身だけ)。これに砂糖や乳製品を足して、味や風味を整えます。ということで、チョコレートはホワイトチョコレートほど脂肪のかたまりじゃないけど、ココアほど脂肪が減ってもいない感じになるわけですなー。

で、おわかりかと思いますが、ホットチョコレートは、ココアを温めたものじゃないんですね。でも、あまり区別なく使われているところもありますねー。

ところで、ホワイトチョコレート、ココア、チョコレートの中で一番古いものはといえば、チョコレートです。カカオ豆の中身を「黒っぽい」「油っぽい」に分離する装置が発明されたのは19世紀ですが、チョコレートは南米で4000年前から飲まれていたらしいのですな。もちろん、今のようなチョコレートを溶かしていたわけじゃなくて「カカオ豆の中身」をすりつぶして飲んでいたそうです。原始チョコレートとでも言っておきますね。

で、その原始チョコレートは、南米を侵略しにきたスペイン人に献上されるときに「これを飲むと、恋心が生まれる」みたいなことを言われたんですな。これがチョコレート=惚れ薬説の始まりのようでございます。そんな話があったので、尼僧はチョコレートを飲んじゃいけなかったそうです。彼女らは恋をしちゃいけないので。

その後、化学分析などができるようになると、チョコレートの成分から惚れ薬成分を分離する試みがはじまります。その中でも「フェネチルアミン」という物質が「黒っぽい成分」の中に入っていて「恋愛の化学物質」といわれていました。なんでかというと、恋愛をしている人のオシッコの中には「フェネチルアミン」が分解されたものが多く含まれていることがわかったからなんですね。

で、チョコレートを食べるとこの「フェネチルアミン」の血中濃度が高くなって、それで恋に落ちやすくなるんじゃ。と、まことしやかに言われていたこともあるわけでございます。じゃあ、バレンタインデーは科学的と思った少年少女よ! ちょっとまちなせえ。

あのチョコレートを食べたり飲んだりするでしょ。そうすると胃に入って腸に入ってこなされますわな。そうすると「フェネチルアミン」は処理されて出てしまい、血液を通して脳にたまったりはしないんですよ。つまり、これはガセってことです。

それに「フェネチルアミン」はチョコレートに入ってはいるのだけれど、むしろザワークラウト(キャベツのドイツ風漬物ですな)のほうが多いんですが、ドイツ人が恋愛の…いや、ちょっと違うでしょ、って感じですねー。

それでも、チョコレートの化学物質にこだわる人はいて、幸せな気分になる脳内麻薬「エンドルフィン」がたくさん出るよう仕向ける効果があるんじゃないかという説もあったのですな。というのは、エンドルフィンの生成を阻止する薬を投与された人が、チョコレートを食べると、おいしーと思わなかったからって研究があるからなんだそうです。

でも、やっぱりチョコレートのポイントは、クチの中でとろける食感なんでしょうね。実際チョコレートは33℃で溶けるのですな。体温でとろける、絶妙な物質なわけです。ただ、この33℃で溶けるようにするには、チョコレートが固まる6つの温度域のうちの1つになるような調整が必要なんですな。そのために、チョコレートを作るときに「カカオ豆の中身」などの材料を…

  1. いったん40℃以上まであげて、完全にとかし
  2. それを26℃まで下げて結晶にし
  3. さらにまぜながら32℃の手前まで上げて、それより低温で溶ける結晶を取り除く(33℃以上になると溶けてしまって意味がないので、そこのところは注意)

という作業が必要なんですな。これをテンパリング(焼きなまし)というのだそうです。ただ溶かせばいいんだと思っていたら、そうでもないのですね。奥が深いなー。

ちなみに、チョコレートは、お湯をつかって化学実験ができます。ちなみに、結晶は6タイプありI:17.3℃、II:23.3℃、III:25.5℃、IV:27.3℃、V:33.8℃、VI:36.3℃とあります。24℃で溶けるチョコレートとか 37℃で溶けるチョコレートも作れるのですが、「とろけないのでおいしくない」「すぐゆるくなって扱いにくい」ということでVが使われるのですね。

なお、チョコレートを科学しているサイトはたーくさんあるので、ググってみてくださいませ。

チョコレートを使ったカラフルガナッシュカップ(出所:明治Webサイト)

ハートのブラウニー(出所:森永製菓Webサイト)

ハートの生チョコケーキ(出所:ロッテWebサイト)

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。