え? なんで? と大学教授もなやんじゃう、謎な、しかも誰でもカンタンにやれる実験が、世界を席巻しています。その名も「ニュートンビーズ」。いま知れば、一歩先んじられますよー。そしてやってみれば、受けることまちがいなし。さあ知ろう、やってみよう「ニュートンビーズ」。

まずは、このYoutubeの動画を見てください。

2013年6月に公開され、半年で200万回近く再生されているこの映像は科学実験です。しかも、すごくカンタンな。実験の名前は「Newton's Beads(ニュートンビーズ)」。皮肉なことに、ニュートンの万有引力や慣性の法則に従わないように見えることから、こんな名前がつけられました。

実験では、チェーンがかってに飛び出しているように見えます。チェーンに働くのは下向きの重力だけ。上向きにはいっさい力をかけていないのにです。

この実験の再現はいたってかんたん。(1)コップ、(2)わずかなスペースと、そしてこれが肝心なのですが、(3)流しのセンについている金属製のチェーン、そうあの小さな数珠(ビーズ)みたいな、が10mばかしあればできます。ま、チェーンは長いほうがおもしろいんですけれどねー。

実験の手順もカンタンです。チェーンをからまらないように、コップにいれます。とぐろをまかせるようにするのがいいでしょう。そして、コップを顔のたかさくらいにかかげ、チェーンのはしっこをコップからたらして、下向きにチェーンが落ちていくようにします。まあ、コップから水をちょろちょろそそぐように、コップからチェーンをそそぐようなイメージですね。

するとあーら不思議、下向きの重力しかかかっていないはずのチェーンが、コップよりも高く持ち上がるのです。もしかしたら物理が苦手になった、ベクトルだの合力だの無視、リンゴで万有引力の法則やら見つけ、動いたものは停まらないとかいったイギリスの大科学者、アイザック・ニュートンが苦笑いするような現象がおこるんですね。

そんなことで、アンチ・ニュートンなビーズ、縮まってニュートンビーズといわれるような実験なのでございます。"Newton Beads"で検索をかけると200万件もヒットします。日本ではいまのところ、10万件ほどですな。しかも20件目で関係ないのがバンバンヒットするという程度でございます。

さて、なーんでこんなことが起こるのでしょうか? ニュートンさんが苦笑いなら、大学の先生でもわからなくなるようなお話です。まあ、だいたいこんな説明がされているようです。

ビーズがずるずると落ちるのですが、落ちる前はコップのふちを乗り越えるようにあがっていくわけです。つまり、ビーズはあがってから落ちるのですが、そのとき180度方向転換しなければいけません。でも、グキっと速度を180度変えられるかというと、そうはいかないのですな。

方向転換には、頂点ではいったん上昇速度がゼロにならなければならない。しかし、それだとビーズは動かない。ビーズが動くためには、どうしたって上下方向のほか、横向きの移動が必要になるわけです。そして、ビーズは方向転換のときに変形のための力がかかり、そのエネルギーの一部がビーズ全体を押し上げる、つまりコップのふちよりさらに飛び上がるようになる。

まあ、そんな感じです。さらにビーズが地面に落ちるときに、その反動の力もビーズにかかるというわけです。これらをきちっと理論式にして証明したものは、あることはあるのですが、まだこの原稿を執筆している時点では確立していないらしいです。こんな単純な現象なのに。科学者が頭をひねっている状態なのですね。いや~「なぜかあんな有名科学者と知り合い」の「あんな科学者」から聞いたお話でございますが。

ところで、このニュートンビーズですが、イギリスのBBCで、オタク科学芸人のスティーブ・モールドさんが発表して話題になったようです。この人は芸人(=コメディアン)なんですが、オックスフォード大学の大学院で科学を学んだ人でもあり、科学ネタとオタクネタをやれる人なんですな。それで、地味にいろいろやってきていたのですが、このニュートンビーズで一気に人気になったようでございます。

イギリスには、こういう科学ネタで勝負する人がいろいろいるんですが、ブライアン・コックスなんてのはもうスターですよ。え? 知らない。これから日本でも有名になりまするぞ! たぶんね。

実験のコツなど

チェーンというかビーズというかは、長いほどおもしろいです。30mとか50mで実験している人が多いようですね。その分、観察できる時間が増えますからね。できるだけ重くて柔軟なのがいいです。

チェーンは東急ハンズなどでも入手できますが、ちょっと高い。ググってみると「ボールチェーン」というのがいいようです。10mで2000円とかいう価格ですな。もうちょっと安いのもありそうです。

また、チェーンが絡まないように丁寧にコップに仕込むのも大切ですね。

さらに、できるだけ高低差があったほうが実験はおもしろいですな。

なにしろ、カンタンにできますので、お試しあれ。

著者プロフィール

東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。