"普段の何気ないことを140文字以内でつぶやく"。このシンプルさなどから、今一番注目されているSNSコミュニティ「Twitter」。このサービスに携帯電話からアクセスするために用いるのがTwitterアクセスサービスだ。そのなかで、2010年6月1日現在で累計登録者数が73万人を越えている日本の携帯電話に特化したTwitterアクセスサービスがある。それが藤川真一氏がひとりで立ち上げ、開発、運用を続けているTwitterアクセスサービス「モバツイ」だ。このサービスの開発秘話などを藤川氏に訊いた。

Twitterアクセスサービス「モバツイ」の開発者・藤川真一氏

――藤川さんの現在のお仕事を教えて下さい。

藤川真一(以下、藤川)「2007年4月から始めた『モバツイ』という携帯からTwitterにアクセスするためのサイトの開発、運営を行っています」

――このサービスを始めるきっかけはなんだったのですか。

藤川「私がTwitterを使い始めた2007年当時、このサービスを使ってみて自分自身面白いなと思ったのですが、その当時Twitterには日本語がうまく送れないという不具合があったんです。それを手助けする入力画面を作ってみたときに、このサービスを携帯電話から利用できるようにしたらもっと面白いのではないかと思ったのがきっかけでした」

――では、最初からビジネスとして「モバツイ」の開発を始めたのですか?

藤川「開発した当時は、ビジネスにしようという意識はなかったですね。AdSenseが止まっても気にしていませんでしたから(笑)。単純に『モバツイ』を作ってみたら面白かったんです。学生の時は、時間に余裕があったので、何時間でもチャットをすることができたのですが、社会人になるとそうはいきませんよね。でもやりたい気持ちはあって。ブログを書いたとしてもチャットほど反応は早くないですし、はてなブックマークはやや反応が早かったので、ハマっていましたね。そんなときに出会ったのが即時性のあるTwitterでした。自分がレスをしなければ、いつ止めてもいいですし、返事をしなくても良いという、いい意味での緩さも気に入りました。これなら時間のない社会人でもチャットのように使えるなと。しかも携帯電話から利用できれば、いつでもどこでもアクセスできるので自分のライフスタイルに合っていると思ったんです」

――ビジネスとしてではなく、"こういうサービスを作ってみたい"という藤川さんの純粋な想いから始まったサービスなんですね。現在、どれぐらいのユーザーが「モバツイ」を利用しているのですか。

藤川「サービスを開始した当初は、ひと月に平均して3,000名程度の割合でユーザーが増えていったのですが、日本でTwitterがブレイクし始めた2009年6月くらいからは、ひと月あたり何万人というペースで増えていきましたね。現在の登録ベースでいうと73万名のユーザーがいます」

――「モバツイ」の開発は、どのような環境で行っているのですか。

藤川「今は、オープンソースで開発されている統合開発環境の『Eclipse』ですね。そして、自分のPCで仮想のサーバーを立てて動かしています」

――「モバツイ」開発において一番の壁はなんでしたか。

藤川「2009年の6月~7月に『Amazon Elastic Compute Cloud』というクラウドのサーバー環境に移行したんです。それまでは自宅のサーバーだったので、運用にかかる費用は電気代の3万円くらいだったのですが、移行してからは月額で費用が発生してしまうので安定した収入がないと運用できません。なので、ここがひとつ大きな決断でしたね」

Twitterアクセスサービス「モバツイ」のiPad表示画面

――現在は仕事として「モバツイ」の運用を行っているわけですが、開発当時は他のお仕事をしながら開発を行っていたわけですよね。会社に勤めながら「モバツイ」の開発を行っていたときと現在とでは、何か気持ちの上での変化はありましたか。

藤川「『モバツイ』を開発した当時は、個人向けのネットサービスを主体で行っている企業『paperboy&co.』で、ネットショップ構築ASPサービス『Color Me Shop!pro』のショップを対象としたショッピングモール『カラメル』のプロデューサーをしていました。実際、仕事として『モバツイ』の運用を行うようになると、24時間働いている感覚になってしまいますね。家族と遊びに行ってもモバツイに不具合が発生するとそっちに気を取られてしまいますから」

――元々、こういったWebサービス関連の仕事に携わってきたということなんですね。

藤川「中学生の頃から趣味でパソコン通信をしていたので、いわゆる"ネットワーク"という意味ではずっとWebに携わっていました。ですが、私が大学生のときは、ネットビジネスがようやく出始めた頃だったので、まだネット関連企業に就職するという時代ではなかったですね。なので、最初に勤めた会社は、電気制御設計の新規開発などを行う製造業の会社だったのです」

――なるほど。ではどのようなきっかけでWeb関連の仕事に興味をもったのですか。

藤川「最初の会社で、Windowsを搭載した装置を開発するプロジェクトに携わっていたときに、開発中の装置にWebサーバーを組み込んで、機械のモニタリングをWebサーバーで管理できるようなシステムを作ったんです。この作業は本業ではなかったので、上司に特別に許可をもらって行っていました。そのときに、HTMLがわからなかったので、モニター画面の出来が良くなくて、そこでHTMLを勉強するために、デジタルハリウッドに通ったことがWeb関連の仕事に就くきっかけですかね」

――「モバツイ」は携帯電話用のTwitterアクセスサービスなわけですが、近年普及しつつある、iPhoneやAndroid携帯といったスマートフォンへのサービス提供は考えていますか。

藤川「それも構想にはありますね。一応現状でもパソコンやAndroid携帯から見ることはできます。ただ基本は携帯電話用なので、ネイティブのクライアントに比べたら、見劣りする部分がありますね。ですが、HTMLでネイティブのクライアントに対抗するのは厳しいので、別のところに価値を見出していくことが現状の課題です」

――こういったサービスを立ち上げるためには、他人よりも情報感度を高くもつことが必要だと思うのですが、どうのようにして情報を収集しているのですか。

藤川「私の場合、とにかくネットや、はてなブックマークで、情報収集に長けている人の話しを読むということに徹しています。どうしても、ネット上にある大量の情報を自分が能動的に見ようとすると、かなりの時間と体力が必要になってしまいますので」

――今、藤川さんがTwitter以外で注目しているWebサービスなどがあったら教えてください。

「凄いなと思うのは、イラストの投稿・閲覧が楽しめる、イラストコミュニケーションサービス『pixiv』ですね。時代が変わってきた感じがします。あと、セカイカメラなどのAR系などは注目しています」

――今後の目標などを教えて下さい。

藤川「当面は、モバツイをより多くの人にとって、欠かせないツールにすることですね。多くの人の生活をモバツイによって楽しくしたいですね」



個性豊かな仲間に出会えるデジタルハリウッド

今回お話を伺った藤川氏は、デジタルハリウッドの卒業生(Webプロデューサーコース)だ。藤川氏がデジタルハリウッドに通って良かったと実感するのはどのようなときだろうか。

「とにかく、同じ志の人に出会えたことですね。特に渋谷校の一期生だったということもあり、通っていた学生の個性が豊かで凄く面白かったんです。卒業後に、起業した人や当時できたてのAmazon.comに就職した人とかもいましたから。しかも、専門スクールなので、年齢はまちまちですし、同じようなことを目指す人が年齢関係なくひとつの場所に集まれるというのが良いところですよね。あと私自身、卒業後にデジタルハリウッドに特別講義で来ていた先生の会社に入社し、そこで初めてWebの制作を行いましたから。そのつながりも通って良かった点ですね」