「航空自衛隊のF-XとしてF-35の採用を決定」というニュースが流れた後で、カナダ国防省とノルウェー国防省が相次いで、歓迎の声明を出した。米国防総省やロッキード・マーティン社が歓迎の声明を出すのは容易に理解できるが、「なぜカナダやノルウェーが?」と疑問に思われたかもしれない。しかし、F-35計画の仕組みを考えれば当然の話なのである。

採用国が増えればパイも大きくなる

本連載の第2回で解説したように、F-35計画はレベル1~3の3段階に分けてパートナー国を参画させる仕組みをとっている。基本的には、開発に際して発生する費用とリスクを分担する代わりに、分担の度合に応じて口を出すメリットも与えるというものである。ただし、米国以外の諸国は、単に口を出すメリットだけでパートナーとして参画しているわけではない。自国のメーカーがF-35の製造に参画する機会を得るという狙いがある。

カナダの例を示すと、マゼラン・エアロスペース社傘下のブリストル・エアロスペース社がF-35の水平尾翼で使用する部品の製造に参画している。ノルウェーはどうかというと、コングスベルク社が垂直尾翼や方向舵の生産に関わっている。ちなみに、垂直尾翼の製造ではオーストラリアのメーカーも関わっている。本来、F-35の尾翼はBAEシステムズ社の担当だが、そこから下請けという形で他国のメーカーに仕事が回っているわけだ。

カナダが採用した「F-35」 Photo:Lockheed Martin Corporation

いずれにしても、カナダ・ノルウェー・オーストラリア向けの機体だけでなく、基本的には米国も含めたパートナー諸国すべてが対象となるので、今後も継続的に契約を得られれば3,000機超の需要を見込めることになる。日本のF-Xでは42機を調達するとしているが、業界ではその後のF-15J初期型の代替まで視野に入れて、もっと需要が増えるとソロバンを弾いていてもおかしくない。

要約すると、自国向けなら数十機程度の需要で終わってしまうところ、国際共同開発プログラムに参画して開発費を負担する代わりに他国向けの製造まで関われれば、はるかに大規模かつ長期の仕事を確保できる。それだからこそ、費用やリスクの負担を承知の上で、パートナーとして計画に参画するわけである。

似たような話は、ずいぶん昔からある。オランダ・ベルギー・デンマーク・ノルウェーがF-16の採用を決めた際は、これら4ヵ国向けだけでなくその他の国に納入するF-16もこれら4ヵ国のメーカーが生産に参画するという約束を取り付けた。F-16を4ヵ国で合計524機も調達することに対するオフセットという位置付けである。しかもこの時に、4ヵ国がバラバラに調達交渉を行うのではなく合同することで、発言力を強めるという手も打った。

これ以外でも、「採用の見返りとして、自国のみならず他国向けの機体まで製造に参画する」という形のオフセットを実現した例はいくつもある。そういう枠組みを作っておけば、あとはカスタマーが増えるほど仕事も増えるという理屈である。

それだからこそ、カナダ国防省やノルウェー国防省が「自国のメーカーに回る仕事が増えるのではないか」という期待感を持って、日本のF-35採用決定を歓迎したのだ。もっとも日本向けについては、(パートナー国ではないにもかかわらず)日本国内での最終組み立て・主要コンポーネントの生産参画など破格の好条件を出してきているので、思惑通りにカナダやノルウェーのメーカーまで仕事が回るかどうかは分からないが。

虎穴に入らずんば虎児を得ず!?

もちろん、国際共同開発・製造の枠組みに参入することにリスク要因があることは論を待たないが、要はリスクとメリットを天秤にかけて、どっちが得かをよーく考えるという話である。自国向けの機体を自国内で製造する場合、得られるパイはあくまで自国向けの分に限定される。それに対して、国際共同開発・製造であれば、リスクを伴う代わりに、パイが大きくなる期待感もある。

もっとも、F-Xにおけるユーロファイター・タイフーンのように「国産化比率90%台」なんていう条件を出してきた場合、パートナー4ヵ国(イギリス・ドイツ・イタリア・スペイン)のメーカーに回る仕事はほとんどなくなってしまうが、ライセンス生産を行えばライセンス・フィーの支払いは発生するから、インカムはゼロにはならない。それに、F-Xで採用されたことをきっかけにして今後の協力関係を構築して利益につなげる、というソロバンを弾いているからこそ、最初の「つかみ」としてライセンス生産率を高くできる。

これは、反対に日本のメーカーが国際共同開発計画に乗り出した場合も、同様に適用できる理屈である。ただし、数多の海外メーカーを押しのけて日本のメーカーがコンポーネント製造の契約を勝ち取ろうとするならば、なにせ武器製造の話だけに、相応の武器が要る。その辺の話は、次回以降に展開していくことにしよう。