本連載で過去4回にわたり取り上げてきたように、自国だけで需要を確保できなければ輸出で穴埋めするにしても、いろいろと問題がある。だからといって「じゃあ、輸出は全面的に止めます」とはいかず、別の方策も必要という考え方が出てくる。

そして、「1ヵ国で支えきれないものは複数の国が組んで対応」はヨーロッパでよく見られるが、特に最近はその傾向が強まっているようだ。場合によっては、武器調達の保護主義化といわれかねない状況にもつながる。

国防支出削減と共通化・プール化の掛け声

「競争があれば品質が向上して価格が下がる」という考えが出てくるのはどこの業界でも似たようなものだが、それは競争状態を維持できている場合の話。往々にして、競争に耐えられずに脱落するプレーヤーが続発したり、あるいはプレーヤー同士の合併が進んだりして、いつの間にやら寡占状態になってしまうことがある。

かといって、意図的に複数のプレーヤーを維持しようとすれば競争にならない。そうした相反する要求の狭間で苦労させられるわけだが、殊に防衛産業の場合、顧客である国の懐事情も絡んでくる。ともあれ、国防支出は削減せざるを得ないが、それでもできるだけ能力や技術的優位、産業基盤は維持したい。その矛盾する要求をどう実現しようかと悩んでいるのが昨今の欧米諸国である。

そうした状況の中でここ数ヵ月ほど、ヨーロッパでは「共通化・プール化」という掛け声が頻発するようになった。これは、具体的にはどういう意味なのか。

共通化はわかりやすい。複数の国で同じものを調達してスケール・メリットを追求しましょう、という話である。しかし、その際に特定の国のメーカーばかりがいい思いをすると、他のメーカーがつぶれてしまう。そこで、関係各国のメーカーが集まって国際共同開発の体制を作り、できたものは皆で調達しましょう、となる可能性が高い。

もともとヨーロッパにはそういう傾向があるが、従来は戦闘機・輸送機・艦艇といった大型案件、あるいはミサイルのように複雑さの度合が高い案件が多かったのに対して、最近では、さらに対象を拡大する傾向が強まってきている。もう、新規開発案件すなわち国際共同案件というぐらいだ。

もちろん、共同開発しようとすれば要求仕様を持ち寄ってすり合わせるとか、ワークシェアの配分をどうするとか、途中で誰かが抜けると言い出して計画が空中分解するリスクがあるとかいった具合に、いろいろと問題もある。そして、前回に取り上げたように、技術情報の開示・共有によってライバルを増やしかねないという問題が起きるかもしれない。しかし、予算の制約と戦力の維持を両立させるには、背に腹は代えられない。

共同開発の話と引き替えに前言撤回

最近の具体例を挙げると、2010年11月に軍事協力条約を締結したイギリスとフランスが、中高度・長距離用無人機(MALE UAV : Medium Altitude Long Endurance Unmanned Air Vehicle)の共同開発に乗り出そうとしている件がある。担当メーカーはすでにイギリス側がBAEシステムズ、フランス側がダッソー・アビアシオンと決まっている。ただし、似たような機体の構想を持っているEADSが参入したがっているという話もある。

この話が決まった後で、仏国防省は「MALE UAVを急いで調達したい」としていた前言を撤回、「英仏共同開発のMALE UAVができるまで待てる」と言い出した。現時点で直ちに調達できる機体として、アメリカ製のMQ-9リーパーが有力視されていたが、それを「なかったこと」にした格好だ。

いうまでもなく、政治的にはヨーロッパ製の機体の方が好ましいわけで、特にイギリスとの間で協力条約に調印したばかりだから尚更だ。「ヨーロッパ域内では競争させることもあるが、他の地域からの参入は阻止する」という、ある種の保護主義的動きにも見える。

フランスで調達するのではないかという話が出ていたMQ-9リーパーだが、英仏共同開発の話が出た後で、その話は「なかったこと」にされてしまったようだ(Photo : USAF)

共通化と比較すると、プール化は目新しい概念だ。複数の国で任務・組織・装備・インフラなどが重複していて、自国だけで支えるのが経済的に辛くなってきている場合に複数の国で共同保有・共同運用しようという話だ。

大型輸送機を共同でチャーターするSALIS(Strategic Airlift Interim Solution)、機体の調達・保有・運用を複数の国で分担するSAC(Strategic Airlift Capability)が、プール化の先行事例と言える(第38回を参照)。

さらに英仏両国の間では、空母をプール化するという話まで出てきた。空母というのは造るにも維持するにもべらぼうな費用がかかるものだが、作戦面の有用性や国威の維持という見地からすると、簡単に放棄したくない。そこで、自国で実働任務用と訓練・検査予備の空母を両方抱え込む代わりに、2ヵ国で互いに手持ちの空母を差し出して、常に1隻は任務に就ける体制を維持してはどうか、というわけだ。

この話が順調に具体化して実行に移された場合、ある時はイギリスの空母が出てきてフランスの空母は乗員の訓練中、別の時はイギリスの空母はドック入りしていてフランスの空母が出てくることになるだろう。