ヨーロッパ諸国の軍縮の真偽のほどは?

時々「ヨーロッパ諸国は国防費を減らして軍縮しているのに日本は云々」という趣旨の発言をする人がいるが、それは1990年代の話。実は2000年以降、ヨーロッパの国々では国防費が増額傾向に転じているケースが多い。

その背景には、「対テロ戦争」との絡みでアフガニスタンに部隊を派遣したことに加え、「冷戦期に調達した装備が更新の時期を迎えている」、「冷戦期に予算を削減しすぎて装備の稼働率がガタ落ちになってしまったことを反省している」といった理由がある。

こうした国ごとの国防支出の推移や対GDPはストックホルム国際平和研究所(SIPRI)のWebサイトのSIPRI's databasesで調べることができるので、興味があればアクセスしてみてほしい。ただし前回も触れたように、国によって国防費の定義が異なる点には注意が必要である。

SIPRI's databasesで日本の防衛関連の支出について調べてみた。2002年以降、軍縮傾向にあることがわかる

ともあれ、2000年代に入ってから増加に転じることが増えていたヨーロッパ諸国の国防費だが、昨今の景気後退、さらにギリシアの財政危機が契機となり、状況が変わってきた。当のギリシアだけでなくその他の諸国でも、国防費の引き締めを図る動きが出てきたからだ。英国のように総選挙と政権交代があると、これも政策を転換する一因になる。

また、世界の公式な国防費のうち半分近くを占めている米国でも国防費は頭打ちになってきている。だからこそ、ロバート・ゲーツ国防長官が装備調達プログラムや組織・ポストに大ナタを振るう構想を表明して、「ムダな支出を減らしつつ、即応体制の維持を図る」と言い出す事態になっている。

そこで問題となるのは「どの分野が削られるか」である。どの分野の支出が削られるかで、防衛産業界でも影響を受ける業種が違ってくるからだ。当然ながら、影響が生じる分野は国によって異なる。そして防衛産業界としては、そうした政府の動きに対してどのように適応していくかという経営上の課題を抱えることになる。

自国がダメなら他国に売るしかない

前回取り上げたように、昨今は大型の正面装備よりも、対テロ戦向きの装備の新規調達が増える傾向にある。そうした装備の支出をケチると、「不十分な装備を持たせて兵士をアフガニスタンに送るのか!」と議会で非難されたドイツや英国のようなことが起きるので、手を抜きにくい。結果として、目先の出番が少なそうな分野が削られることになる。

だから、欧米の戦闘機・艦艇メーカーの多くが、新興諸国や中東諸国に向けた売り込みに血道を上げている。特に注目を集めているのが、インド空軍の新型戦闘機調達案件「MMRCA(Medium Multi-Role Combat Aircraft)」だ。何しろ、調達機数が確定した分だけで126機もある(さらに増える可能性もある)。

そこに、ボーイング(F/A-18E/F)、ロッキード・マーティン(F-16I)、RAC MiG(MiG-35)、ダッソー(ラファール)、ユーロファイター(タイフーン)、サーブ(JAS39グリペン)と、6社が売り込みをかけている。もちろん、オフセットや技術移転などの「飴玉」をぶら下げてだ。本稿執筆の時点では、まだ結論は出ていない。

このほか、ブラジルではボーイング(F/A-18E/F)、ダッソー(ラファール)、サーブ(JAS39グリペン)が三つ巴の売り込みを展開中だが、こちらはラファールが有力視されている。フランスはすでに、ブラジルで潜水艦やヘリコプターの商談を得ているからだ。

英国などでの調達減少が取り沙汰されるなか、インド・日本・スイスなどに売り込まれているユーロファイター・タイフーン(Eurofighter GmbH )

航空自衛隊のF-4EJ代替機計画(F-X)においてBAEシステムズが積極的にタイフーンを売り込んできているのも、計画を立ち上げた英国・ドイツ・スペイン・イタリアの4ヵ国で調達機数削減の可能性があり、新たな需要を獲得したいという思惑が絡んでのことだろう。タイフーンは先の4ヵ国に加えてサウジアラビアとオーストリアで採用が決まっている。また、日本とインド以外に、スイスとオマーンでも売り込み中だ。

ただし、これには落とし穴がある。単に自国向けの新規調達が減るだけでなく、自国の予算削減で余剰になった中古機を放出する可能性もあり、一種の "内輪の食い合い" を生起する可能性があるのだ。