国によって異なる国防費の定義

初めに、国防費(軍事費)の定義を明確にしておきたい。本来、こういう話は初回で取り上げるべきだったかもしれないが。

国防費とは、国家が軍隊を維持・運用するための支出だが、意外と幅が広い。大別すると、以下のようになる。

  • 人件糧食費→俸給、食事といった軍人の維持に直接関わる支出
  • 装備調達費→最もわかりやすいのがこれ。武器・弾薬などの調達費用
  • 研究開発費→各種装備に関する研究・開発のための費用
  • O&M(Operation and Maintenance)→運用・整備にかかる費用
  • 年金・恩給費→退役軍人に支払う費用

すべての国が同じ定義で国防費を計上していれば、比較は容易だ。実際には為替相場変動や貨幣価値変動の影響を受けるので、「○年△月時点での為替相場・貨幣価値に換算して」とする必要はあるが。

ところが現実には、国によって国防費の定義が違う。例えば、研究開発費を科学技術関連省庁の予算につけていたり、年金・恩給費を別枠にしていたりする。すると、意図的かどうかはともかく、その分だけ金額を小さく見せることになる。

ともあれ、国防関連の支出にはさまざまな分類があり、分類によって関わる企業や業態に違いが出てくる。そして、どの分類の支出が多いか、あるいは増減するかは、各国が置かれている状況によって異なる。一般的に、先進諸国ではハイテク装備が多いことから装備調達費の比率が高く、発展途上国では人件糧食費の比率が高い傾向がある。

負担軽減のためにC-17輸送機をプール運用

事情はどうあれ、国の歳出のすべてを国防費に注ぎ込むわけにはいかず、部門間で予算の争奪戦が展開されるのが普通だ。「国防費は青天井」というわけにはいかないし、そもそも自国の経済力を超える軍事力は維持できない。

だからといって、「軍隊をなくせば平和でいられる」というほど世界情勢はおめでたくない。そのため、支出を抑制できるところは抑制しようとして、さまざまな手法が考えられた。

その1つが、複数の国で装備の調達・保有・運用を共通化するというものだ。いわば、1国では維持しきれない力を連合によって実現するため、利害が近い国同士で同盟を結ぶ考え方の延長線上と言える。

こうすると、1ヵ国当たりの費用負担を減らすことができる。また、利用する側も複数の国にまたがるので、その分だけ装備を無駄なく活用できる。総じて、費用分担比率に応じて運用時間を "買う" 場合が多い。

こうした一例が「SAC(Strategic Airlift Capability)」だ。ブルガリア、エストニア、ハンガリー、リトアニア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ルーマニア、スロベニア、アメリカ、スウェーデン、フィンランドの12ヵ国が費用を分担して、3機のボーイングC-17A輸送機を共同運用している。こんな大型輸送機を保有できる国は限られるが、必要とされる場面は多い。そこで共同運用という話になった。

費用だけでなく搭乗員も各国で分担するため、同じ機体に異なる国の搭乗員が乗り組む編成になる。この多国籍部隊はHAW(Heavy Airlift Wing)といい、ハンガリーのPapa基地を本拠地としている。

SAC構想の下、12ヵ国で共同運用しているC-17A輸送機 Photo:USAF

このSAC構想が立ち上がる前の「つなぎ」として、カナダ、チェコ、ドイツ、デンマーク、フィンランド、フランス、ハンガリー、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スロベニア、イギリスの15ヵ国が参加する、SALIS(Strategic Airlift Interim Solution)があった。

これも費用を共同負担して大型輸送機を借り受けるもので、ロシアのヴォルガ-ドニエプル社からAn-124輸送機をチャーターした。NATOがロシア製の輸送機をチャーターして共同運用するのだから、正に「冷戦後」を象徴するような話だ。

An-124輸送機。この写真は、ハイチの震災救援のためにアメリカから仮設管制塔を空輸した時のもの Photo:USAF