おとなしく負けていない装備調達コンペの敗者たち

当たり前の話だが、念のために書いておきたい。何であれ、複数の企業に競争させて勝者を決めることになれば、選定から漏れた企業は敗者ということになる。そして、勝者の総取り(winner-takes-all)方式をとれば、敗者は大損だ。だからといって、敗者となった企業にもセカンドソースとして仕事を出すことになると、何のために競争させているのかという話になりかねない。

また勝者が決まった時、その結果を敗者が素直に受け入れればよいが、「選定結果に納得がいかない!」と言い出すと、話がややこしくなる。実は最近、そうした事例が多いのだ。

その背景には、装備調達プログラムの高度化・高価格化によってプログラムの数が減り、「あるプログラムで負けても、別のプログラムで捲土重来」とは行かなくなってきている事情がある。下手をすると、ある装備調達プログラムのコンペティションで負けた結果として事業の見通しが立たなくなってしまい、「会社がつぶれたり」、「他の会社に買収されたり」なんてことになりかねない。

KC-Xをはじめとする"泥仕合"のいろいろ

とはいえ、選定そのものが常に公明正大に行われるという保証はないから、敗者に対して何らかの救済の余地を残すことも必要だ。例えば米国の場合、コンペティションの敗者はGAO (Government Accountability Office)に異議申立を行うことができる。

もちろん異議申立が行われると、その時点で作業は一時停止となる。なぜなら、結果がひっくり返るかもしれないのに作業を進めるわけにはいかないからだ。そして、GAOが「選定プロセスに問題あり」という裁定を下すと、そのコンペティションは仕切り直しになる。

そうやってスッタモンダした典型例が、米空軍の次期空中給油機調達計画「KC-X」だ。老朽化したKC-135のリプレースを巡って、ボーイング社のKC-767ATとノースロップ・グラマン社/EADS社のA330 MRTT(Multi Role Tanker Transport)が受注を競い、いったんは後者の採用が決まったのだが、敗者のボーイングがGAOに異議申立を実施。それをGAOが認めたため、仕切り直しになった。

その過程で、両方のメーカーが互いに自社の優位性を主張したり、相手の問題点を批判し合ったり、さらにそれぞれの陣営を応援する議員(早い話がメーカーの地元を地盤とする議員)まで巻き込んで、舌戦・口撃が飛び交う泥仕合になった。

その後、改めて空軍が改訂版のRFPをリリースしたが、それに対してノースロップ・グラマン社は「新しいRFPの内容はボーイング贔屓である。改訂を求める」と言い出し、同社を支持する議員まで巻き込んで揉めた。しかし、そうした努力(?)も空しく、RFPの大幅改訂は実現しなかったため、ノースロップ・グラマン社はKC-X計画への応札を断念している。不利とわかっているところに突撃して負けても、損するだけという計算だろう。

米国が長らく使ってきた空中給油機「KC-135」Photo:U.S. Air Force

航空自衛隊向けのKC-767。米空軍向けはこれをさらに発展させた機体になる 写真:防衛省

このKC-Xが最も派手な例だが、それ以外でも米陸軍の軍用トラック調達計画「FMTV(Family of Medium Tactical Vehicles)」で、オシュコシュ社、BAEシステムズ社、ナヴィスター社の3社が受注を競い、最も安い価格を提示したオシュコシュ社が受注を決めた例がある。

これまたほかの2社が「FMTVを手掛けた実績がないオシュコシュが、異常に低価格の提案を行って受注をさらった」として異議申立を行い、GAOは陸軍に対して選定過程の再検討を勧告する騒ぎになった。ただし、KC-Xのような完全な仕切り直しにはならず、陸軍ではオシュコシュ社との契約を継続することになった。異議申立を行っても通らないこともある。

異議申立で揉めるのは、米国に限った話ではない。スウェーデン陸軍ではBAEシステムズ傘下の地元企業であるHagglunds社に「SEP(Spitterskyddad Enhets Platform)」という装甲車の開発を発注していたにもかかわらず、装甲車調達計画「AMV(Armoured Modular Vehicle)」に際してSEPを退けて、隣国フィンランドのパトリア社の提案を採用してしまった。そこで、Hagglunds社が異議申立のために裁判を起こして、裁判所は同社の主張を是認。これで計画は仕切り直しとなったが、またパトリア社の採用が決まった。しかし今度は、選に漏れたスイスのメーカーが異議申立をしたそうだ。

最大の問題は「スケジュールの遅延」

どのケースでも、最大の問題は企業間の争いではない。異議申立を行えば、その主張が認められて仕切り直しになる可能性があるため、決着が着くまで作業はストップする。結果として、スケジュールが遅れてしまう。

実際、KC-Xではスケジュールが遅れているし、その一方で代替対象のKC-135ストラトタンカーの老朽化は待ったなしで進んでいる。つまり、異議申立の濫発による最大の問題は、スケジュールを遅らせることかもしれない。

だからといって、「異議申立を禁止すればよい」というのも暴論であり、どうにもこうにも結論が出ない問題と言える。