コストやスケジュールが下算される背景を推測してみる

軍隊の装備品開発に限った話ではないが、最初に見積りを行う時点でコストやスケジュールを下算してしまうことはよくある。これは、単に「見通しが楽観的すぎる」といって切り捨てるだけでは済まない話だろう。

もちろん、場合によっては見積り自体がいい加減なこともあるだろうが、すべてのケースがそれに該当するとは断言できない。いい加減な見積りにより後からコストやスケジュールの問題が露見すれば、最悪の場合はプログラムの打ち切りにつながる。それでは、却って利益を損ねることになるからだ。

単純に考えれば、開発やテストにかかる工数を見積もって積算することで、トータルのコストやスケジュールを算出できる。ところが、外的要因から「○日までに完成させてくれないと困る」、「○円の予算で納めてくれないと困る」といった話が出てくるから、コストもスケジュールも当事者の一存だけでは決められない。

例えば、老朽化した装備の代替品を開発する際は、代替対象が寿命を迎えて廃止になる前に、代わりの新装備を開発して戦力化しておく必要がある。そうしなければ、当該分野をカバーする能力を欠いた期間(業界用語では"capability gap" という)が生じてしまう。それを避けようとするとデッドラインが固定されてしまい、「何とかして間に合わせろ」という話になる。

コストにしても、単純に所要経費の積算だけでは話が済まない。軍隊といえども、お役所の1つだから、政府から予算を獲得しなければならない。また、軍の中でも陸・海・空と複数の部門があり、部門間での予算争奪がある。さらに、それぞれの部門の中でもまた然り。そうしたなかで確保できる予算に制約が生じれば、「この範囲で何とかしろ」とかいう要求が出て、辻褄合わせのためにコストの見積りを下算することがあってもおかしくない。

それに、正直に積算して見積りを立ててみたら「そんなに多額の予算は出せない」と言われて、「仕方なく削る羽目になった」なんてこともあるだろう。その場合、「スペックを落とすか」、「見積りで無理をするか」、「量産段階で調達数量を削るか」という話になってしまう。

大風呂敷の拡げすぎがアダとなることも

また見積りの下算だけでなく、大風呂敷の拡げすぎということもある。最初に壮大な構想を打ち出してみたものの、だんだんとコストの問題や技術的な困難が明らかになり、現実的な水準まで規模を縮小したり、要求水準を引き下げたり、といったことになるわけだ。

米陸軍のFCS(Future Combat System)は、そんな一例かもしれない。FCSとは、戦車とか航空機とかミサイルとかいった単体の装備ではなく、各種の有人車両・無人車両・無人機・ミサイル・火砲を組み合わせてネットワーク化した「システム」の構築を企図したものだが、特に無人ヴィークルの分野で取り止めが相次いでいる。

Future Combat Systemの構想 資料:米GlobalSecurity

そして、ネットワーク機能・無人センサー・一部の無人ヴィークル・対地攻撃用ミサイルなど、現実的にモノになりそうで、かつ、直面している脅威・想定される脅威に対応できそうなモノだけを残すことになり、FCSという大計画そのものは2009年に中止が決まった。

契約後の度重なる仕様変更もコスト増につながる

これは民間の開発プロジェクトでもありそうな話だが、開発・製造作業がスタートした後に要求仕様の変更が頻発して、開発側が振り回されるという問題もある。

もちろん、「この修正を入れないと仕事にならない」ということであれば変更は必要だが、それも程度による。度が過ぎると開発がいつになっても終わらず、スケジュールがどんどん延びて費用も増加してしまう可能性がある。実際、米軍の装備開発プログラムの中には、GAOがそうした問題点を指摘したケースが存在している。

メーカーに丸投げしていいものか?

また、従来であれば軍の関係者がプログラムの進行状況を監督していたものを、メーカーに依存してしまい問題視された例もある。有体に言えば、プログラムの進捗・コストなどに関する管理業務までメーカー側に丸投げして、それが傷口を拡げる結果になった話があるということだ。

企業では「報告・連絡・相談」という言葉が使われる。物事がわかっている上司であれば、「まずいことがあったら、真っ先に私に知らせてくれ」と部下に申し渡すこともある。このように、何か仕事を進める過程で問題が生じた場合は、できるだけ早い時期にその存在を知って手を打つことが重要になる。

ところが、プログラムの進捗・予算・品質などの管理までメーカー側に丸投げして、軍は出来上がった成果物をテストして領収するだけということになると、開発の過程で不具合が生じた時にその情報が伝わるのが遅れる危険性がある。結果として不具合への対応も遅れてしまい、話が露見した時はすでに大騒ぎなんてこともある。

実際、米軍の装備開発プログラムの中には、LSI(Lead System Integrator)という名称で主契約社となるメーカーを選定、副契約社の選定・発注やシステムを取りまとめさせる体制をとったことがあるが、あまり評判は芳しくなかった。もちろん、議会や会計監査当局からも叱られてしまう。そして、「このやり方でよかったのか」、「もっと軍の人間が関与すべきではないか」という議論に発展して、LSI方式は引っ込むことになった。