警備会社の実態は戦闘部隊!?

軍の業務を民間委託する方法の1つが、第一線の戦闘任務に近い部分、あるいは戦闘任務そのものを民間企業に委託してしまう方法だ。

直近の例としては、イラクなどで問題になっている民間警備会社がある。看板は警備会社だが、実際には自動小銃や装甲車で武装しており、日本における「警備会社」のイメージとはまるで違う。こうした会社の中で特に有名なのが、2007年にイラクのバグダッドで乱射事件を引き起こして、後にイラク政府から営業許可を取り消されたブラックウォーターUSA(現Xe)社だろう。

余談だが、このブラックウォーターUSA社はソマリア近海での海賊事件が問題になった時、自ら警備船を仕立てて護衛を行う構想を発表した。ところが、その後の音沙汰がないところを見ると、この企画に乗った船社はなかったのかもしれない。

そもそもバグダッドの事件以来、ブラックウォーターUSAの悪評は知れ渡っている(だからこそ社名まで変えたのだ)。だから、そうした会社と取引するにはちょっとした度胸がいる。実際、ある会社は「ブラックウォーターとは直接取引したくない」と主張したため、ブラックウォーターでは別途、子会社を設置して契約させた話もある。

では、船社が海賊対策を行っていないかというと、そうではない。GoAGT(Gulf of Aden Group Transit)という企業がイエメン海軍の哨戒艇を借り上げて、商船の護衛任務を実施している例がある。

こうした商売が成立する背景には、海軍の護衛に頼る際は船団を組んで航海する必要があるため待ち時間が生じるという事情がある。船社にしてみれば、航海に時間がかかるとその分コストが増えてしまうから、民間警備会社に護衛を頼んで早く航海するほうがソロバンに合う、と考える場合もあるわけだ。

この件に限ったことではないが、道義的問題・法的問題とソロバンの問題のせめぎ合いは、民間警備会社を巡る問題につきものと言える。

米海軍の臨検隊が、海賊船に乗り込みを行おうとしているところ。海賊が問題になっている海域がいくつかあるが、そこでも民間警備会社が護衛を手掛けている事例がある(Photo:US Navy)

顧客に代わって戦う傭兵会社

もう1つ、アフリカなどの地域紛争でしばしば名前が出てくるのが傭兵会社である。これは、「欧米諸国における軍縮の穴埋めというよりも、自力で優秀な軍隊を維持できないが取り急ぎ優秀な戦闘員が欲しい」という発展途上国向けの商売と言える。

すでに消滅したが、傭兵会社としては南アフリカのエグゼクティブ・アウトカム社が有名だ。同社は自動小銃や装甲車どころか、戦車や攻撃ヘリコプターまで保有しており、顧客からの要請があれば、契約に応じた規模の"部隊 を編成して送り込み、当該国の政府から討伐を求められた相手と交戦する。

同社は、アフリカ西部のシエラレオネで、首都に迫っていた反政府勢力を押し戻したことでよく知られている。もっとも、それでシエラレオネに平和がもたらされたかというと、そうではない。だが、それは別の次元の話なので措いておく。

このような有名な例だけでなく、自前で戦闘機パイロットを養成できない発展途上国が、他国のパイロットを雇い入れて空中戦を戦ってもらうという、「エリア88」みたいなことも起きている。

空軍は育成にも維持にも費用がかかる軍隊なので、発展途上国は空軍の育成・維持まで手が回らない場合が多い。しかし紛争になり制空権が必要という場合、背に腹は代えられずに傭兵パイロットに頼るという構図がある。

あまり注目されない顧問・教育系

後方支援業務を受け持つ民間企業、傭兵会社・警備会社と比較すると注目度は低いが、軍隊の育成や強化に関わる業務を請け負う企業もある。

この分野の企業としては、L-3コミュニケーションズ社の傘下に収まったMPRI(Military Professional Resources Inc.)社が有名だ。

こうした企業は社員として擁している退役軍人を教官や顧問として派遣し、軍の教育機関と似た形で相手国の軍隊育成を支援する。それによって、弱体だと思われていた国の軍隊が驚くべき変身を遂げた例もある。

教育・訓練業務と関連して、昨今では不可欠になってきているシミュレーション訓練機材の開発・運用に民間企業が関わっている例もある。