前回述べたように、装備品の輸出も外交政策の一環だから、外交政策と輸出の可否は直結する。装備品の輸出を外交のツールにすることもあれば、外交面でトラブルを抱えている相手の国に利益をもたらさないように、武器輸出管理制度を活用(?)することもある。

コンポーネントも武器輸出管理の対象

本連載の第9回で、米空軍の新型空中給油機導入計画「KC-X」に関連して「現在の民間旅客機は万国博のようなもの」と書いた。万国博とまでは行かないが、軍用機にも似たところはある。A国製の戦闘機がすべてA国製のコンポーネントで構成されているとは限らない、という話だ。

例えば、ヨーロッパで開発・製造されている航空機も、データリンクをはじめとする通信機材や航法関連の機材は米国製ということがよくある。特に通信は同盟国間で相互運用性を確保しなければならないため、米国の同盟国は米国製品を使用することになりやすい。自国で開発・製造するにしても、技術情報の開示を受けてライセンスを取得しなければ、互換性がある製品を作ることができない。

また、用途が特化しているためメーカーの選択肢が限られている製品については、米国製品を使わざるを得ないこともある。

合同演習のためにアラスカの米空軍基地を訪れた、スウェーデン空軍のJAS39グリペン戦闘機。サーブ社の製品だが、エンジンやミサイルをはじめ、米国製コンポーネントも使われている(Photo : USAF)

実のところ、完成品がどの国で作られたということに加え、その完成品に用いているコンポーネントがどの国で作られたかということも輸出許可に関わってくる。

ヨーロッパのメーカーが製造した航空機を他国に輸出する際も、その機体に米国製の通信機器や航法機器が使われていれば、米国政府からも輸出許可を取らなければならない。もしも米国政府から輸出許可が得られなければ、同等の機能・性能を持つ代替品を探してくるか、輸出を諦めるかという選択を迫られることになる。

コンポーネントの輸出許可を使って商談をつぶす

実際、これを逆手にとって米国がつぶした輸出案件がいくつもある。

スペインのEADS-CASA社がベネズエラから軍用輸送機を受注したことがあるが、ベネズエラのチャベス政権は反米主義を掲げており、米国とは何かにつけて角突き合っている仲だ。それゆえ、ベネズエラの軍事力強化につながるような輸出は、米国としては認めたくない。

この場合、スペイン政府に輸出を行わないよう外交的圧力をかけるのが正攻法だが、スペインとしても大事な輸出案件だから、簡単には同意できない。ところが、当該機では米国製の電子機器が使われていたため、米国政府はその電子機器について「輸出許可を出さない」とやった。これで万事休すだ。

もちろん、代替品を探すという選択肢もないわけではない。ところが、そうなると代替品を探して、既存の機体に組み合わせて、問題なく動作するかどうかをテストするための経費が余分にかかる。また、適当な代替品が必ず存在するとは限らない。こうした事情から、スペインは輸送機の対ベネズエラ輸出を諦めざるを得なかった。

同じような事例として、本連載の第8回で取り上げた、IAI(Israel Aerospace Industries Ltd.)製のクフィル戦闘機がある。クフィル自体はフランス製のミラージュV戦闘機をベースとした機体だが、あいにくとエンジンが米国のゼネラル・エレクトリック社製J79だった。だから、米国がJ79エンジンの輸出許可を出さなければ、クフィル自体も輸出不可能になる。実際、そうやって輸出話がつぶれた例もある。

コピー品だらけで輸出制限が機能しないことも

もっとも、このようにして輸出制限が機能するのは、本家のメーカー以外で当該製品を製造できない場合の話だ。時には、本家の意図を無視して世界中に違法コピー製品が溢れてしまうこともある。

その中でも最大にして最悪の例が、ロシアのカラシニコフ自動小銃だろう。もともと、カラシニコフはソヴィエト連邦で1940年代後半に開発された自動小銃で、7.62ミリ×39弾を用いる「AK-47」や、小口径化して5.45ミリ×39弾を使用する「AK-74」などのバリエーションがある。

ソヴィエト連邦は外交政策の一環として、衛星国に対してもカラシニコフ自動小銃の製造を認めていた。その結果、ソヴィエト連邦の崩壊後も各国でカラシニコフ自動小銃の製造が続き、しまいには、本家が認めていないコピー製品が溢れる事態が生じた。現在では、パキスタンの山奥で個人経営の鉄砲鍛冶が、カラシニコフ自動小銃を無許可でコピー生産する有様になっている。

こうなると、カラシニコフ自動小銃の製造・輸出を規制しようとしても土台、無理な話だ。それどころか、本家が違法コピーに駆逐されてしまい、ロシアでカラシニコフ自動小銃の製造を担当しているイズマシュ社が破産状態になってしまった。イズマシュの関係者にしてみれば、とんだ迷惑だろう。ロシア政府にとっては重要な企業なので、何らかの支援は行われるとみられるが、どうなるだろうか。