DefenseNewsのランキングを見てみる

そもそも、業界関係者でもなければ、昨今の防衛産業界においてどの会社が主流なのか、ご存じないだろう。

以下、防衛関連のニュースサイトであるDefenseNews.comがまとめた「Top100」(2008年版)から、上位20社の顔ぶれ、売上、売上に占める防衛関連の比率を示す。順位は防衛関連分野の売上を基準としている。

順位 社名 総売上 防衛関連比率 国名
1 ロッキード・マーティン 42,731 92.5% 米国
2 BAEシステムズ 34,351 95.1% 英国
3 ボーイング 60,909 51.0% 米国
4 ノースロップ・グラマン 33,887 78.4% 米国
5 ゼネラル・ダイナミクス 29,300 78.0% 米国
6 レイセオン 23,174 93.0% 米国
7 EADS 63,639 25.5% 蘭国
8 L-3コミュニケーションズ 14,901 81.6% 米国
9 フィンメカニカ 22,119 46.2% 伊国
10 ユナイテッド・テクノロジーズ 58,681 17.0% 米国
11 タレス 18,650 43.0% 仏国
12 SAIC 10,070 76.0% 米国
13 ITT 11,695 53.7% 米国
14 KBR 11,581 51.8% 米国
15 ハネウェル 36,556 14.5% 米国
16 アルマズ・アンテイ 4,617 93.9% 露国
17 ロールス・ロイス 16,951 25.2% 英国
18 GEエヴィエーション 19,200 20.8% 米国
19 ナヴィスター 14,724 27.2% 米国
20 MBDAミサイル・システムズ 3,995 100% 仏国

DefenseNews.comがまとめた、2008年版の防衛関連売上上位20社。売上の単位は100万ドル 出典:Defense News Top 100 for 2008

ランキング上位の内容からわかること

このランキングからは、上位20社の範囲ですら、下位になると急速に売上が少なくなっていることがわかる。1位のロッキード・マーティンと20位のMBDAミサイル・システムズの防衛関連売上は10倍も違う。それだけ、少数の大企業による寡占化が進んでいると言える。

もう1つのポイントは、防衛関連の売上が総売上に占める比率だ。個別の事例を持ち出せばいろいろと例外は出てくるが、大半の売上を防衛関連に頼っている企業と、民需が多くを占めていて防衛関連の比率が低い企業に大別できる。そして、上位10社では防衛関連の売上が高い比率を占める企業が目立つ。

つまり、民需を捨てて防衛関連需要に絞り込み、M&Aによる業容拡大によって企業体力を付けて、防衛関連分野の総合企業としてチャンピオンを目指す、という企業戦略が如実に表れたランキングと言える。では、なぜ民需を捨てたかという話になるのだが、それについては後述する。

ランキング上位の中で、例外的に防衛関連分野の比率が低いのがボーイング社とEADS社だが、いずれも旅客機部門が占める比率が高い点に注意だ(EADSはエアバスの親会社。また、ヘリコプターを手掛けるユーロコプターも傘下に擁する)。2008年版のTop100で26位に位置する三菱重工業も同様で、防衛関連の売上は全体の10%にも満たない。

こうした企業があるため、総売上を基準にして順位を付け直すと、まったく違ったランキングになる。防衛関連売上だけ見ると95位の富士通が、総売上では何と4位に急浮上するのだ。それだけ富士通の防衛関連売上比率が低く、総売上が大きいということなのだが。

ちなみに、ユナイテッド・テクノロジーズ社と言うと馴染みが薄いが、航空機エンジンを手掛けるプラット&ホイットニー社(P&W)や、ヘリコプターを手掛けるシコルスキー・エアクラフト社を傘下に擁する。いずれも、防衛関連も手掛けているが民需にも強い。

GEエヴィエーション社も同様で、これはゼネラル・エレクトリック社(GE)の航空機エンジン部門だ。電機メーカーが航空機エンジンというと不思議な感じがするが、ゼネラル・エレクトリック社は第二次世界大戦中にターボチャージャーの製造を手掛けており、その流れでジェット・エンジンに参入した事情による。そして、航空機用エンジンでは民間輸送機向けの市場が大きいので、その分だけ防衛関連の比率は下がる。

幻に終わった民需転換論

このように、現在の防衛関連大手には防衛関連分野に専念して民需を捨てた企業が多い。なぜそうなったのだろうか?

冷戦崩壊後、「もはや軍需の時代ではない。軍需で培ったハイテク技術を生かして民生分野に転換すればよい」という主張が聞かれたものだが、実際には防衛関連企業が民需に転換して成功した事例は少ない。よく考えてみればわかることだが、同じハイテクでも、兵器を製造するのと民生品を製造するのとでは、商売のやり方がまったく異なる。だから簡単に転換できるわけがない。

兵器の場合、時間をかけて研究開発を行い、いったん完成した製品は長く使う。そして、コスト引き下げに関する圧力は(少なくとも民生品に比較すれば)弱い。一方、民生品、特にコンピュータや各種デジタル家電製品は、短い開発期間と製品サイクル、強いコスト低下圧力といった状況に置かれている。兵器開発のビジネスモデルに慣れた企業が、こうした状況に対応するのは難しい。

しかも、要求された通りの性能と価格を満たしていれば許容される兵器と異なり、民生品では性能や技術に加え、デザインや販売戦略まで組み合わせて商品を売り出す必要がある。こうしたやり方は、兵器を手掛けてきたメーカーにとっては未体験の領域と言える。

こうした理由により、兵器メーカーの本格的な民需転換は幻に終わった。そのため、「市場縮小に対しては新規需要の開発や企業体力の強化、総合企業化によって立ち向かい、防衛関連分野に集中するべき」という考え方が現在の主流になっている。

こうした考え方が、M&Aの多発と業界再編の加速につながった。つまり、民需はアテにしないで、クロスオーバー化した「総合防衛関連企業グループ」の形成を目指して、限られた市場の中で生き残っていこうとする戦略を打ち出し、それを実現するためにM&Aを推進するという図式だ。

実のところ、大手防衛関連企業の売上増加には、M&Aによって買収先の売上をそっくり取り込んだ分が少なからず含まれている。それを念頭に置いて数字を見ないと、売上増加の原因を見誤ることになる。

一方では、民生品と防衛関連の両方を手掛けていた企業が、防衛関連部門を切り離して、民需に専念する方向を打ち出す事例も増加した。AFVを手掛けていた子会社をゼネラル・ダイナミクス社に売却した、ゼネラル・モータース社は典型例と言える。つまり、防衛専業と民需専業に二極分化したわけだ。