ユーロファイタープロジェクトから抜けた仏は単独でラファールを開発

ヨーロッパにおける装備品の共同開発では、前回に解説したような事情から、寄り合い所帯で全員の意思統一がないと話が進まない体制になる場合が多い。すると、何か計画に変更を加える必要が生じた時になかなか話がまとまらなくなるし、1ヵ国の脱退表明が計画の危機に結び付くといった事態にもつながりやすい。

例えば、ユーロファイター・タイフーンは当初、イギリス・ドイツ・イタリア・スペイン・フランスの5ヵ国が参画していた。ところが、他の4ヵ国と比べるとフランスが求める機体規模が小さく、かつ自国製エンジンの搭載に固執したことから、結果的にフランスは脱退、単独でラファールを開発することになった。

イギリス・ドイツ・イタリア・スペインの4ヵ国によって共同開発され、オーストリアとサウジアラビアから受注を得ている「ユーロファイター・タイフーン」。日本・インド・スイスにも売り込みをかけているところだ Photo:Eurofighter GmbH

1国ですべて行ったためラファールの開発は比較的順調に進んだが、その代わりに経費の上昇はすべて自国で引き受けざるを得ない状況にある。それをカバーするために、年度ごとの支出を抑えてスケジュールを引き伸ばしたことから、総経費は増加しており、納入も当初の予定より遅れている。

しかも、機体の仕様をフランス軍の要求に合わせすぎたせいなのか、いまだに輸出商談を1つも獲得できていない。現在、アラブ首長国連邦、リビア、ブラジル、インド、スイスなどに売り込んでいるが、いずれも選定段階で結果が出ていない。

ユーロファイター計画から離脱したフランスが独自に開発した「ラファール」。開発は比較的順調に進んだが、まだ自国以外からの発注はない Photo:フランス国防省

一方、残された4ヵ国とユーロファイターはどうなったかというと、冷戦崩壊後に東西統合を実現したドイツが財政事情が厳しくなった都合から脱退を言い出し、空中分解の一歩手前まで行った。検討の結果、他の選択肢ではもっと高くつくと判断されたため、ドイツの脱退は回避されたが、1ヵ国が抜けるだけでも計画が空中分解しかねない一例ではある。タイフーンの前に開発したトーネードでも、カナダ、ベルギー、オランダが途中で計画から抜けている。

海上の「ホライゾン」と陸上の「ボクサー装甲車」の開発でもトラブル

海の上では、イギリス・フランス・イタリアが共同で防空フリゲート「ホライゾン」を開発していたが、これまたお約束の「要求仕様の相違」によりイギリスが脱退し、フランスとイタリアによる計画になって現在に至る。一方のイギリスは独自に45型ミサイル駆逐艦を開発、1番艦が就役したばかりだ。

もっとも、ホライゾン計画が分裂した後も、艦対空ミサイルや指揮管制装置といった戦闘システムの多くは共用しているので、その面では共同開発の果実はあったと言える。ただし、中核となる多機能レーダーはそれぞれ別々の、もちろん自国企業が関わっている製品を載せているのだから笑えない。

陸の上では、イギリス・オランダ・ドイツが共同でボクサー装甲車を開発していたが、イギリスが「財政難」を理由に脱退、残されたドイツとオランダが資金負担や生産分担の体制を見直した上で開発・生産を進めている。ところが、計画から脱退したはずのイギリスが、別件の汎用装甲車調達計画でボクサーを候補の1つに挙げたのだから、正に欧州情勢は複雑怪奇だ(採用には至らなかったが)。

このように、国際共同開発は「成功すれば天国、トラブルが出れば悪夢」という性質を備えている。しかし、財政的にも技術的にも、単独で新しい装備品を開発できる事例は少なくなってきており、しかも各国とも「産業基盤の維持」という課題を抱えている。そのため、苦労を承知の上で国際共同開発を進めるしかないというのが現状だ。

余談だが、国際共同開発においてはプロジェクトの名称が問題になりやすい。参加するいずれの国の言葉にも含まれている単語にしたいからだ。例えば、コンコルドでは、スペルをイギリス式に「Concord」にするか、それともフランス式に「Concorde」にするかで揉めて、後者に決着した話は有名だ。

実はユーロファイターも悩ましいところがある。「タイフーン」に決まったのはいいが、ドイツにとってはいささか面白くないだろう。というのも、第2次世界大戦中、イギリス空軍の戦闘爆撃機・ホーカー・タイフーンに自慢の陸軍が散々な目に遭わされた話を思い出しそうだからだ。そのせいか、ドイツ空軍における制式名称は「ユーロファイターEF2000」で、「タイフーン」という愛称が付けられる前と同じだ。