前回は、金融機関が理解しやすい決算書を作るための経理のポイントについて説明しました。今回は、立てた予算に自信を持つためにすることについて解説します。

将来に対する予測は外れるものです。立てた予算がぴったり当たることもないです。しかし、経営者は計画を達成することが求められ、融資を申し込む際には金融機関に返済を約束します。先々起こることに対して確証が持てない中で堂々と交渉するためには、やはり事前の準備が欠かせません。

予算を立案した際の前提条件を変更した場合に、業績がどう変動するのかシミュレーションする方法があります。「実践プロジェクトファイナンス」という書籍で紹介されている、感応度分析という手法です。

様々なシナリオを比較検討して、キャッシュフローや利益を定量的に分析します。人間、分からないことがあれば不安になるものです。分からない範囲を小さくするための方法を整理していきます。業績に大きな影響を与えるファクターをあぶり出すことが目標です。

(1) 売上高増加シナリオ

予想以上に売上高が伸びたケースで利益がどう変化するのか、試算します。売上高は、極論すれば商品・サービスの単価と数量の積ですから、単価と数量の各々について考えます。

単価が上がり数量がそのままのパターンでは、生産面の変動費は変わらず、利幅は大きくなりやすいです。但し、高く売るための労力は見込む必要があります。単価がそのままで数量が増えるパターンでは、生産面の変動費が増大する点と、生産設備の追加投資のような固定費が急激に大きくなる可能性がある点に注意が必要です。

需要の価格弾力性を念頭に置いて、価格が上昇すれば販売数量が減ると考えることもあるでしょう。簡単ではありませんが、「価格の掟」に書かれている内容を参照して推計を試みることは可能だと思います。「何万件もの製品調査を通じて、価格弾力性がたいてい1.3~3の範囲に来ることがわかっている。中央値はだいたい2だが、製品や地域、産業ごとに価格弾力性は大幅に異なる」と紹介されているので、参考になると思います。

上記とは視点を変えて、売上高が減少するケースも想定することができます。シナリオ毎に、例えば「単価X%up/down、数量Y%up/down のケースでは利益Z%up/downする」と数値をまとめ、比較検討するとよいでしょう。価格変動が脅威なのか、数量変動のインパクトが大きいのか、見極めます。

(2) 原価増加シナリオ

給与の相場が上昇する、採用コストが増大する等の原因によって人件費が膨らめば、原価が増えて利益に影響が出ます。2017年時点では物流コストの増加が懸念されていますし、原材料となる資源が高騰することもあるでしょう。検討し始めたらキリがないですが、原価を占める割合が大きい経営資源については、調達コストが変動する際に利益へどの程度インパクトがあるのか、検証することをお薦めします。

先述の考え方に倣えば、「人件費X%up/downのケースでは利益Z%up/downする」「物流コストX%up/downのケースでは利益Z%up/downする」と比べることになります。経営計画にコミットする上で重点的に管理する項目が何か、確認します。

(3) その他のシナリオ

金利の変動や為替の変動、大規模プロジェクトを受託している企業であれば納期遅延の影響等についても、シミュレーションした方がよいケースがあります。事業環境を鑑みて、経営上重要と思われるリスクファクターが何か仮説を立てて、検算してみるプロセスが大切だと考えます。

ベースケースとなる予算を立てた後に、上記の要領で前提としていた数字を動かしてみて、変化を観察します。経営に対するインパクトが大きい指標を見つけ出すことができれば、管理対象の優先順位が定まり、経営計画の説得力が増します。重要なポイントは、損益計算書上で利益が出るだけでなく、融資の返済原資が高い確率で準備できるという見込みを示すことです。利益を伸ばすためのキーファクターが何か、業績の悪化につながる急所がどこか、把握するようにしましょう。

立てた予算に自信を持つためにすることについての説明は以上です。次回は本シリーズの最終回として、財務担当者へお薦めする参考文献を紹介します。

※写真と本文は関係ありません

執筆者プロフィール:千保 理(せんぼ ただし)

株式会社情報基盤開発 CFO(最高財務責任者)

ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学運動会バドミントン部を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業である株式会社情報基盤開発にCFOとして参画。Microsoft Innovation Award 2015にて勤務先が優秀賞を受賞した際のプレゼンター。融資による資金調達を得意としている。