前回は、金融機関によって融資の条件に特徴があることを説明しました。今回は、融資の申込の際にどのような資料を準備するのか、筆者の経験をもとに解説していきます。

融資の申込時に準備する書類として、法務局や市区町村の役所へ訪問して発行してもらうもの、日常業務で使用しているもの、経理スタッフが作成するものがあります。どの金融機関に対しても共通で提出する定番の資料と、状況に応じて個別に作成する資料に分類することができます。

定番の資料

企業(法人)と代表者(役員)の実在性を金融機関側が確認するために、下記の書類を準備します。反社会勢力や反市場勢力に関するチェックも提出書類をもとに実施されます。

■ 法人に関するもの

定款のコピー、履歴事項全部証明書、代表取締役の印鑑証明、(株式会社であれば)株主名簿、実質的支配者等の確認書面

■ 役員に関するもの

住民票の写し、印鑑証明

■ 企業概要、商品・サービス案内

企業の全体像を説明する資料として、日常業務で使用しているパンフレット類を取りまとめます。

このほか、企業の返済能力を説明する資料として、計算書類(決算書3期分、3期経過していなければ事業計画書で代用)と納税証明書を準備します。計算書類には貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表、附属明細書が含まれ、勘定科目明細と法人税確定申告書も添付します。

貸借対照表と損益計算書からは、事業が伸びているか否か、趨勢を確認できます。勘定科目明細からは、経営に重要な影響を与える取引先がどこか、読み取ることができます。法人税確定申告書の別表からは、例えば保有している固定資産が何か、把握することができます。

納税証明書(特に、その3)は税金の未納がないことを示す資料です。借り手が担保処分で資金を返済する際、まず租税債権が優先されるため、金融機関よりも高い優先順位の債権者がいないことをチェックしています。

必要に応じて作成する資料

企業の将来像を説明する資料として、経営計画が挙げられます。収支の見込み、人員計画、営業計画、資金繰り表等を束ねて提出します。申し込んだ金額の妥当性を、金融機関側が検証するための情報となります。

企業や商品・サービスの外部からの評価について説明するために、特許やメディア掲載履歴をまとめた資料を準備します。新聞や雑誌に掲載された記事があれば、金融機関の担当者に読んでいただきます。メディア掲載履歴は、媒体名・掲載日/放映日・記事タイトル・WebのURL等を一覧表にまとめて作成します。

自社の商品・サービスの競争力については、業界概要や競合企業の資料を取りまとめて説明します。具体的な商品名・スペック・価格等の情報を整理して、自社のポジショニングが明確にわかるようにします。

製造原価報告書があれば、黒字の見込みが立つ事業なのか、事業継続してよいのか、ひいては将来融資を返済できるのか、説明することができます。原価計算ができているか否かが、融資を受けるための重要な要素になります。

その他の資料として、例えば売上上位10社、仕入上位10社、借入残高一覧等のリストを作成することがあります。特定の外部関係者に依存した経営状況であれば、どのように改善していくのか、説明を追加します。 預金通帳のコピーを提出するよう、求められることもあります。資金の出入りをチェックするとともに、金融機関が将来どの程度の手数料収入を得ることができるのか、推定するための根拠となります。

社会保険料納入証明書の提出を求められたこともありました。2016年時点では、年金事務所にて無料で発行していただけました。

融資の申込の際に準備する資料の概要は以上です。次回は、金融機関との出合い方について説明します。

※写真と本文は関係ありません

執筆者プロフィール:千保 理(せんぼ ただし)

株式会社情報基盤開発 CFO(最高財務責任者)

ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学運動会バドミントン部を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業である株式会社情報基盤開発にCFOとして参画。Microsoft Innovation Award 2015にて勤務先が優秀賞を受賞した際のプレゼンター。融資による資金調達を得意としている。