起業する際に融資を受けると聞いて、どのような印象を持つでしょうか。古い手法でトレンドではないという意見もあるでしょう。保証について考えたときに返済できるか不安だという気持ちも、もっともだと思います。ベンチャー企業が出資を受けるためのノウハウは数多く提供されているのに対し、融資に関する情報は圧倒的に少ないです。

本連載は資料が少ない融資による資金調達について、実務家の視点から情報提供したいと考えて企画しました。内容は筆者の個人的な経験に基づくものであり、正確性を保証するものではございませんが、起業を目指す方々の一助となれば幸甚です。

2017年現在、ベンチャー企業が増資をして資金調達をしたニュースが、多く流れています。ベンチャーキャピタルが集めた資金は大きくなり、ベンチャーキャピタリストの数も増えているようです。私の肌感覚としても、ベンチャーキャピタリスト1人あたりの取扱金額は着実に伸びている印象です。

一方で、ベンチャーキャピタリストが働くことができる時間は有限で、ベンチャーキャピタルのファンドの組成期間も有限です。自ずと1社あたりの投資金額は大きくなります。投資金額を大きくすることは、出資を受けるベンチャー企業側の視点から見れば、企業価値(時価総額)をより大きくするためにハードワークするか、もしくは、より多くの株式を譲渡することにつながります。つまり、ベンチャー企業が越えなければいけない条件が厳しくなっているといえるでしょう。

実際に大学発ベンチャー企業の関係者から、あるシードラウンドに特化しているベンチャーキャピタルが30%の株式シェアを要求してきたとの報告を受けました。割に合わない条件提示です。資本コストに敏感な一部のベンチャー企業は、増資以外の資金調達手段について再評価を始めています。

では、増資以外の資金調達手段には何があるでしょうか。各々の詳細は専門書に委ねますが、代表例として「寄付」「助成金」「融資」が考えられます。簡単に整理してみましょう。

寄付のメリットは、返済義務がないことと、資金の提供者に対する報酬が不要であること。デメリットは贈与税・所得税・法人税等の対象となり、満額を受け取れないことです。

助成金のメリットは、寄付と同じく返済義務がないこと。デメリットは時期を選ぶことができないことと、枠組として企業が先払いした費用を後から補填するものが多く、手元資金がなければ活用が難しいことです。

融資のメリットは、資金提供者との関係性に期限を設けることができること。デメリットは業績に関係なく出金が発生することです。

参考までに、増資(出資)はいつでも取り組めることがメリット、要求収益率が高いことがデメリットだと捉えています。

資金調達する際、制度と相場を見極めながら最適な手段を選ぶことがポイントですが、新規設立される法人数を考慮すると、件数が増加しているとはいえベンチャーキャピタルから出資を受けられるケースは稀であることがわかります。出資を得られない起業家の現実的な資金調達方法は、融資です。

次回は融資の概要について説明します。

※写真と本文は関係ありません

執筆者プロフィール:千保 理(せんぼ ただし)

株式会社情報基盤開発 CFO(最高財務責任者)

ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学運動会バドミントン部を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業である株式会社情報基盤開発にCFOとして参画。Microsoft Innovation Award 2015にて勤務先が優秀賞を受賞した際のプレゼンター。融資による資金調達を得意としている。