みなさんこんにちは。前回は、熱・温度に関することをご紹介しましたが、今回は引き続き、データ破損・消失を防ぐために気をつけなければいけないこと(温度以外)をご紹介します。

衝撃

HDDのトラブルというと、まず「クラッシュ」ですが、世間一般ではパソコンが動かないこと全てを「クラッシュ」と総称されている傾向がありますので、私どもが問合せを受けている場面でも、気をつけないと間違った判断をしてしまうことがあります。

正式には、クラッシュはヘッドクラッシュの略語であり、ヘッドがプラッタ(磁気記録用の円盤)に接触し障害を起こすことであり、パソコンが動かないことではないんです。実際に私たちのところで取り扱う中でも少数派なのです。

ハードディスクと衝撃

最近のHDDの耐衝撃性はかなり向上して、200G(Gは重力加速度のことで、200Gとは、重さの200倍の力をあらわす)まで耐えられる、などと言われています。ノートパソコン用の2.5インチのHDDでは、衝撃を受ける前に落下によるマイナス加速度を検出して、瞬時にヘッドをプラッタから退避させ、クラッシュの発生を防ぐものまで開発されています。ただ、まだまだ「クラッシュ」は無くなりません。また、クラッシュだけでなく、軸受けのトラブルも、この衝撃や振動が原因になっていることがあります。

激しくクラッシュしたハードディスク

最近のHDDの耐衝撃性の詳しい規格を見ると、「200G(2mS 正弦半波)」等、その衝撃の条件が書いてあります。電子機器に対する安全性の規格では、元々11mSとなっていたのですが、200Gと数字を大きくしてしまったのが、この(2mS)のような表示方法。

時間が短いと衝撃のエネルギーそのものは実際には小さいのです。そして、電子機器内部に搭載されているドライブには、その電子機器のケースや本体がクッションとして働くために、衝撃の大きさ(G)は小さくなりますが、その衝撃の働く時間は長くなります。ですから、200Gが保証している条件(2mS)には当てはまらなくなってしまうのです。

また、机の上に立ててあったHDDを、パタンと倒すだけでも、簡単に100G以上の衝撃になってしまうのです。したがって、耐衝撃性の数字が大きくなったからといって安心してはいけません。

注1)msとは、時間の単位で、千分の1秒を1mSとあらわす。
(注2)正弦半波とは、サインカーブの1/2のこと。

パソコンの引越し・輸送については

私どもの所にハードディスクを送るときや、引越しのときには、衝撃を避けるために梱包に注意した専用の箱を使って保護をお願いしていますが、たとえ停止中であっても、衝撃は非常に危険です。最近のドライブは、停止中はプラッタ上からヘッドが退避して、安全性を高めているものが多いのですが、100%ではありません。動作中のヘッドの浮上量は、最近のもので約10nm(ナノメートル:1nmは1メートルの10億分の1)で、空気というクッションをはさんでいるので、プラッタとの接触は起こりにくいのです。しかし、停止中はヘッドとプラッタの間に空気は供給されません。停止中の退避位置から衝撃で飛び出してしまうと、間違いなくプラッタとヘッドは接触の憂き目を見ることになります。電源が入っていないからといって、安心してはいけません。

クラッシュ以外にも

では、軸受への影響はどうなんでしょう。みなさんは、「地球ゴマ」というものを知っていますか? あるいはジャイロとか? ジャイロといえば、ミサイルの姿勢制御のためとか、カーナビのカーブセンサーとかに使われているので、言葉自体は知っている方も多いのではないかと思うのですが、要するに質量のある程度大きい円盤を高速回転させると、その姿勢をそのまま保とうとする力が発生するので、それを利用して姿勢の変化を検出する装置なんですが、HDDの場合もプラッタが高速回転しているため、このジャイロ効果が発生します。ですから、衝撃などで急な姿勢の変化が発生すると、特に最近の流体軸受けを使っている場合には、軸と軸受けの接触が発生しやすくなり、最悪、接触を起こす場合もあります。そうすると、簡単に言えばエンジンオイルの無いエンジンと同じで、ベアリングの焼きつきを起こし、止まってしまうこともあります。場合によっては、2度とプラッタは回らなくなってしまいます。

USBメモリーは衝撃に強い?

では、プラッタ(円盤)やヘッドが無いシリコンメモリー(メモリーカード類)では、その心配はないのでしょうか? 最近はUSBメモリーがすっかり安価になり、複数持っている人もいるかと思いますが、実はこのUSBメモリーも衝撃は禁物なのです。USBメモリーは、その回路上に発振子を使っているのです。発振子はクリスタルでもセラミックでも、構造的に衝撃は禁物です。衝撃で発振周波数が狂ってしまったり、動作しなくなったりします。ご存知ない方が多いので、ご注意下さい。

USBメモリー以外では、発振子を載せていることはありませんので、いわゆるメモリーカード類は振動・衝撃に対して強いのは事実です。

USBメモリー内部と発振子(赤丸内)

メモリーカードの注意点

では、これらメモリーカードの使用上の注意はなんでしょか? まず、一番に挙げられるのが、電源関連の注意事項です。デジカメの取扱説明書をよく読むと、「ファイルをパソコンに転送するときは、ACアダプタをご使用下さい」と書かれているのを、見たことがある人も多いかと思います。私どもの所にかかってくる電話でも、電源が原因と思われるものが多いのです。

ファイルの転送動作中にバッテリの電圧が落ちてしまうと、電子機器動作的に"リセット"が働き、問題の発生を回避するように設計されているのですが(それでも最低1枚の画像は失う可能性がある)、何かの問題でこの"リセット"がうまく働かないことがあると、「ファイル構造情報」や「区画構造情報」に損傷を起こし、画像を見ることができなくなったり、「初期化してください」等の警告を受けることになってしまいます。また、同じようなことが撮影中にも起こります。最も発生しやすい場面は、フラッシュ(ストロボ)撮影の直後です。

デジカメは撮影時にCCD等と呼ばれる撮影用の素子に画像を取り込み、そのデータをメモリーに書き込むという順番で仕事をしています。そして、フラッシュ(ストロボ)は、回路上のコンデンサ(蓄電器)に蓄えた電気エネルギーを瞬時に放出・発光させています。そして、発光した後に、次の発光に備えて充電を開始します。カラッポになったコンデンサには、突入電流と呼ばれる位の勢いで電流が流れ込み、徐々にその電流値が減少していくことになるのですが、この突入電流の大きさは、ほとんどショート状態といって良いほどの大きさになります。ですから、十分に充電されていない状態で、フラッシュ撮影をしてしまうと、CCD等に読み込んだ画像をメモリーに書き込もうとしているときに、その突入電流の影響でバッテリ電圧が下がり、リセットが働いてしまうのです。

脱着回数は寿命がある?

デジカメで撮った画像をパソコンに取り込むとき、みなさんはどんな方法を採りますか? パソコンにつないだカードリーダで読む、デジカメにUSBケーブルを直接接続する、のどちらかだと思いますが、いずれの方法を採った場合でも、接続に欠かすことのできないのがコネクタの経由。実は、コネクタには脱着回数の寿命があるのです。ですからお勧めは、ケーブルで接続することです。それは、ケーブルの寿命ならば別のケーブルを使えば良いのですが、メモリーカードのコネクタが寿命破壊した場合は、データそのものを読み出せなくなってしまうからです。

静電気

これはみなさんよく言われるので、あえて後ろの方に記述しました。静電気の対策として、メモリーカードでもデジカメでもそれなりの対策は内部に持っているので、静電気が原因と思われる事象を扱うことはそれほど多くはありません。 メモリーカードが静電気による障害を起こしやすいのは、コネクタ部分が無防備に露出された状態になってしまうため。静電気が飛びやすいのは、当然のことながらコネクタの端子部分(むき出しの金属があるから当然!)ですが、そのため、メモリーカードには静電気対策のために、内部でその端子と内部のアースの間に対策用の素子が入れてあります。デジカメとカードが接続された状態の場合は、その対策が並列に働くので静電気の影響を更に受けにくくなります。

ですから、メモリーカードを外さないで、デジカメとパソコンをケーブルで接続してデータ転送することは、静電気による事故の予防でもあるのです。

パソコンでも電源に注意

デジカメの電源(バッテリ)にまつわる障害については前述しましたが、パソコンにおいても電源には注意を払うことが大切なのは言うまでもありません。ハードディスクであっても、メモリカードと同様の問題が起こります。もちろん、普通の状態ではなく、落雷による停電などですが。

落雷で最近多く発生するようになったのが、誘電による障害です。落雷による停電ではなく、落雷の影響がサージ(尖塔電圧)として障害を引き起こします。サージアブソーバという言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょう。最近のACのテーブルタップでは、OA用としてサージアブソーバ内蔵のものが多くなってきています。

OAタップのサージアブソーバ

ノートPCだから、落雷なんかと思わないで下さい。停電に対してはバッテリがあるので問題は起こしませんが、誘電サージに対しては、ノートでもデスクトップでも大差ありません。それは、サージは非常に周波数成分が高く、ACアダプタやバッテリでは吸収しきれないことがあるのです。注意してください。

書けば書くほど次々と書き並べてしまいますが、これ以上書くと私たちの仕事がなくなってしまうので! という訳ではないのですが、あまり小さなことを書き並べても面白くないので、今回はこのくらいにしておきます。

次回は、いよいよ最終回になりますので、「セキュリティ対策とデータ復旧の関係」や「データ復旧業者の選び方」 などを紹介する予定です。

(ワイ・イー・データ オントラック事業部 尾形)

ワイ・イー・データ オントラック事業部

1994年末、データ復旧サービスの世界最大手である米オントラック社と独占的技術導入契約を締結し、ストレージ機器の製造・開発技術・経験・設備を活かしたデータ復旧サービス事業に進出。1995年、国内で最初のデータ復旧専用ラボを埼玉県入間市に開設し、国内及びアジア地区の拠点として、デジタルカメラ用メモリカードからHDD、大規模サーバ、NAS等データなどの復旧サービスを提供している。業界で唯一の東証上場会社でもある。
参照:ワイ・イー・データ データ復旧サービス