手の中にしっくりと収まり、するすると書き進められる筆記具は作業効率を上げてくれるだけではなく、使う人間を面白いアイディアや企画へと導いてくれるような気がする。「ぺんてる」のサインペンもそのような筆記具として、作家やマスコミ人、クリエイターに愛用されてきた1本だ。その抜群の書き味のよさから、アメリカ大統領や宇宙飛行士までをも虜にしてしまったほど。今回は、そんなサインペンの魅力に迫ってみたいと思う。


日本よりアメリカでまずブレイク

サインペンが誕生したのは1963年のこと。当時はまだ字を書く道具といえば筆や万年筆という時代でマーキングペンというと先が太くて臭いのきつい油性マーカーがあるだけで、その用途はダンボールに送り先を書く場合など限られていたという。そこで、ぺんてるは「ハネやハライもできて筆に近い文字が書ける」「ノートのように薄い紙でも裏うつりしない」「臭いがしない」ペンを作ろうと一念発起。数年の開発期間を経て、ペン先が細くサラサラ書ける世界初の水性細字ペンを生み出した。

全12色あるが国のニーズによって展開している色数は異なり、日本では黒、赤、青、緑の4色のみ展開。デザインは発売当初の姿を基本的に踏襲。グリップになる中央部分は鉛筆を意識した六角形だが、先のほうは円錐になっていて、お尻のほうも角がなくなり丸くなっているのがわかる。これはキャップをはめたときの勘合をよくするためのこだわりなのだ。このような細部への追求が日本ブランドらしくていい。「サインペン」/各105円

しかし、「これでペンの歴史が変わる」と意気込んで発売したにもかかわらず、関係者の期待に反して、話題も売り上げもパッとしない。しかし、創立時から海外販売にも積極的であったぺんてるは、海外市場での需要を開拓すべくシカゴの文房具国際見本市にサインペンを出品。これがアメリカでブレイクのきっかけになる。

というのも、この見本市で配布されたサインペンのサンプルが大統領付きの報道官の手に渡り、さらにそれを使う姿に目を留めた第36代L.B.ジョンソン大統領がサインペンを手に取り、その書き味が気に入った大統領は一度に24ダースものサインペンを発注したのである。こうしてサインペンは瞬く間に話題を集め、アメリカ上陸1ヵ月で180万本を売り上げた。この後、サインペンはNASAにも認められて宇宙へと旅立つのだが、その前にその構造について少し説明したい。


重力ではなく毛細管現象でインクが出る

サインペンは、水性インクを染み込ませた中綿からアクリル繊維のペン先にインクが染み出るような構造になっている。ボールペンの場合、インクは重力によってペン先へと下りてくるが、サインペンの場合は縦方向にそろえられた繊維と繊維の間で起こる毛細管現象の力で、ペン先がインクを吸い上げている。インクはペン先にしっかり上がってほしいが、出すぎても行けないわけで、その適量を保つ役割を担っているのが中綿なのだ。目指したのは“フランスパン”。まわりは硬く、なかは軟らかいという質感が、インク漏れを防ぎ、インクが滞ることなくペン先へと上がる理想的な中綿の構造とされた。材質や固め方など改良され続けてきた中綿の技術が、サインペンの書き味を支えているのだ。

サインペンの内部。白い部分が中綿で実際はインクを染み込ませてある。先の黄色い芯がペン先部分にあたる

この重力に頼らずにインクを上げる構造に着目したNASAは、サインペンを無重力空間でも使える公式スペースペンとして指定。サインペンは宇宙飛行士が使う筆記具として、1965~66年の有人宇宙飛行「ジェミニ」に乗船を果たす。

現在、サインペンは北米、南米、ヨーロッパ、アジア、中近東の各国で販売されていて、45年以上にわたるロングセラーを続けている。サインペンの登場で水性ペンというジャンルは確立されたが、研究と改良を積み重ねて現在の形へと集約されたサインペンの書き味には、そう簡単に並ぶことはできない。


そのほかのロングセラー文房具

新聞社や出版社の“超”ベテラン記者や編集者には修正液を今も「ホワイト」と呼ぶ人がいるが、その由来となるのがこのアイテムだ。鉄や樹脂、ガラスなどに白く書くことができる油性ペンで、1965年に発売され、工業部品にマークをつけるなどの用途で使用されている。芯径は7mmの極太から0.5mmまで全5種類。「ホワイト」/210円より

1972年に発売された水性ボールペンの草分け的存在。ペン先のボールをホールドしている部分を樹脂製にすることで、これまでにはなかったやわらかいタッチの書き味を実現。全身グリーンという見た目でもひときわ異彩を放っている。「ボールPentel B100」/各105円

1989年に発売され、ゲルインキを初めて使ったボールペンとして爆発的なヒットを飛ばした。油性にはない鮮やかな発色と、水性にはない耐水性・耐光性を兼ね備えている。初めてこのペンを使ったときには、くっきりと鮮やかに出る黒や赤の色に感動したもの。「ハイブリッド」/各105円

1950年代初頭にアメリカで生まれた修正液。専用の刷毛に修正液をつけて修正箇所に塗るというスタイルにかわる、ペンタッチタイプの修正液として1983年に初めて登場。ホワイトで培ったペン先の技術を応用して生まれた。「修正液」/525円


機能性重視の新作アイテム

ムニムニとした触感のやわらかいグリップ部分が、一度握ると手放せなくなる1本。グリップ部分の内部が約4000個のビーズとゲルからできているため、グリップが握った形に変化して、その形をキープする。シャープペンシルと油性ボールペンの2種類。「セルフィット」/各630円

プロが使う製図用シャープペンシルの基本設計をベースに、高いデザイン性と豊富なカラーリングを兼ね合わせた新作シャープ。ペン先の「先端パイプ」が4mmと長いので、筆記箇所が見やすく、定規にあてやすいのが特徴。芯径は0.3mmと0.5mmの2種類。2009年10月より発売。「グラフ600」/各630円

2009年1月にヨーロッパで発売され人気を集めたモデルが、日本でも8月より販売スタート。従来のゲルインキと比べて、素早く乾き、くっきりと鮮やかに発色するエナージェルインキを採用。ユーロブルーのスリム&ライトなボディデザインが新鮮。ボール径は極細の0.35mmから0.5mm、0.7mm、1.0mmまで、それぞれ黒、赤、青の3色展開。「ENERGEL EURO」/各178円