MVNO大手のIIJの契約数が100万回線を突破したそうだ。順調にそのビジネスを進める同社だが、その概況や最新市場動向を含めた記者説明会が実施された。同社サービスを含め、いわゆる「格安SIM」の認知度は向上の一途をたどっている。

いまや格安SIM市場には多くのMVNO事業者が参入し、料金やサービスの多様化を競っている

ご存じの通り、MVNOというのは大手携帯電話事業者、日本でいえばドコモ、au、ソフトバンクからモバイルネットワークを借り受け、それを使って一般消費者にサービスを提供する事業だ。自前でモバイルネットワークを持たないことから「バーチャル」の「V」がついて、Mobile Virturl Network Operatorと称されている。逆にドコモ等のキャリアは自前でモバイルネットワークを持っているため、「V」がなくMNOと呼ばれる。

逆にいうと「V」のつく事業者は、どんなにがんばっても「V」のつかない事業者を超えることはできない。借り受けているのだから当たり前だ。限りなく近づける、あるいは同じにすることはできるかもしれないが、それがせいいっぱいだ。だからこそ、真正面からキャリアに挑むのではなく、価格やサービス、利便性といった面の付加価値で勝負する。

MVNO各社は「格安SIM」といわれることにそれほど抵抗はないようでもある。実際、IIJでも、外部に対するコミュニケーションとして「MVNOサービス(格安SIM)」と名乗っているくらいだ。

MVNOが再び盛り上がる?

その格安サービスを揺るがしかねないトレンドがある。それが加入者管理機能(HLR、HSS)の開放だ。個々のキャリアが有する加入者のデータベースをMVNOに開放し、より柔軟なサービスを提供できるようにしようというチャレンジだ。

これによって、MVNO各社は自前のSIMを発行できるようになり、キャリアをまたいだサービスを提供できるようにもなる。日本国内においては今のところドコモのネットワークがもっとも廉価なのであまり意味が見出せないが、たとえば、海外の現地キャリアを使って格安ローミングのようなビジネスが実現可能になる。

たとえばGoogleは、米国向けにProject Fi(https://fi.google.com/about/faq/)と呼ばれるサービスを提供している。これは、一種のMVNOであり、米国内において複数のキャリアをまたいでネットワークが使われる。さらに、米国外に出たときも、現地のキャリアを使って接続される。価格的にもリーズナブルで魅力的なサービスになっている。

価格とコストとアイデンティティ

それなら日本でもと期待したいところだが、こうしたサービスを提供するためには、どうしても加入者管理機能を使う必要がある。仮に開放が実現されたとしても、そのためには馬鹿にならない数十億円単位のコストという問題が降りかかる。

総務省の調べによると現在のMVNOサービスの契約数は1,063万回線ある。そのうち格安SIMは4割程度と推定されるそうだ。高い成長率で推移しているもののその程度の数字だ。仮にHLR、HSSの開放に30億円かかるとしよう。単純に30億円を1,000万契約でワリカンすれば300円、こうした付加価値が必要のない契約をのぞいた格安SIM契約だけで負担すると、約4割の400万契約でのワリカンとして750円になる。つまり、それだけの金額を上乗せしないとビジネスが破綻する可能性があるわけだ。今後、ワリカンの母数がどんどん増えて、無視できる負担額になることもあるかもしれないが、それがゼロになるわけではない。

ユーザーがMVNOに対して何を求めるか。今のところは価格であることは明白だ。大手キャリアより安いというのが現時点でのMVNOのアイデンティティだ。IIJも、多額の投資が必要となるHLR、HSSは、必ずしもMVNOビジネスとは親和性が高くないと説明会では漏らしている。

ただ、格安SIMにとどまらず、大手キャリアが取り組むのが難しい新たな事業領域へのチャレンジは、MVNO各社にとっての絶好のビジネスチャンスでもある。各社が今年、どの方向に舵を取り、どのような動きをするのかには、よく注目しておく必要がありそうだ。

例年、4月頃には大手キャリアへのMVNO向け接続料金が公表される。値下がりは必須と予想されるが、昨年のように予測よりも下げ幅が低くMVNO業界全体が影響を受けた例もある。大手キャリアの接続料金の下げ幅がMVNOの料金にどう反映されるのか。そのあたりに注目すれば、水面下で何が動いているのか想像できるかもしれない。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)