MicrosoftによるNokiaの買収が完了した。日本においてはNokiaの製品は、それほどポピュラーではないが、ワールドワイドの視点にたてば、それは果てしなく大きな買い物であったともいえる。

買収完了とデバイス&サービスカンパニー

Microsoftが手に入れたのは、Nokiaのデバイスとサービス事業で、世界50カ国、130以上の拠点の元Nokia社員がMicrosoftに移籍するという。そして、その拠点の中には、設計、開発、生産、販売を行う工場の従業員も含まれるという。その人数は3万人前後と言われているそうだが、Microsoftの社員を約10万人とすれば、社員数が一気に2~3割増えるという計算になる。

Nokiaの前プレジデント兼CEOのStephen Elop氏は、Microsoftのデバイスグループ担当EVPとして新CEOのSatya Nadella氏の直属で、スマホ、タブレット、フィーチャーフォン、Xbox、Surfaceなどを統括することになる。Microsoftはデバイス & サービスカンパニーへの移行を模索中だが、その半分の掌握を担当することになったともいえる。

Microsoftでは、今回の買収によって、年間500億ドルの売り上げをもたらすはずである次の10億人の市場にリーチできるようになるとしている。単純計算すれば、一人あたり50ドルだ。

この額には、WindowsもOfficeも含まれないだろう。つまり、WindowsとOfficeを知らず、必要としてこなかった人たちに、Microsoftブランドを浸透させようとしているわけだ。

米Microsoft、CEOのサトヤ・ナデラ(Satya Nadella)氏(左)と、デバイスグループ担当エグゼクティブバイスプレジデントのステファン・エロップ(Stephen Elop)氏(右)

Microsoftの思惑

MicrosoftはWindowsを、そして、Officeをあきらめようとしているのだろうか。そして、スマホを使って新たな生みに出て行こうとしているのだろうか。彼らのビジネスにおいて、WindowsやOfficeは、それほど重要なプレゼンスを持たなくなってしまうのだろうか。

だが、スマートフォンが「気づきのメディア」であることを忘れてはならない。iOSとAndroidが急成長した過去の成り行きの中で、そこに欠如しているように見えていたものだ。すべてをスマホやタブレットで完結させようとはしていなかったか。

先日発表されたニールセンの調査では、この3月末までの1年間で、パソコンからのネット利用は6%減少し、スマホからは38%が増加したという。女性の利用者が増加し、LINEやAmazonはスマホでのネット利用増加を超えて増加しているという。そこには「引越し」ではなく「新たな需要」が生まれていることが見て取れる。

第三のモバイルOSとしてのWindows Phone 8.1が、どれほどの魅力を持つ存在になるのかは、今の時点では不透明ではある。だが、それによって、スマートデバイスの魅力を知った人々が、もっと便利で豊かな暮らしがあるということに気がついたらどうなるか。メールが便利、SNSは楽しい、インターネットはすごいと気がつくことで、新たなエコシステムが回り始める。

個人的には、先進諸国におけるスマートデバイスも、多かれ少なかれ、似たような状況にあるのではないかと感じている。となれば、必然的にパソコン回帰の波が訪れる。Microsoftがそのことを期待していないとは思えない。既存モバイルOSの失敗をうまく回避できれば、それは大きな成功を導くに違いない。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)