この4月1日に「ビッグローブ株式会社」として新たなスタートを切った旧BIGLOBE。その事業方針説明会で、古関義幸社長は今後の同社のVNO戦略について語った。急速に普及するMVNOビジネスだが、同社はこれからどこに向かって進んでいくのだろうか。

ビッグローブ 代表取締役社長 古関義幸氏

大手キャリアにしかできないことはやらない

「スマホの使い方を1時間かけて説明する? カンベンしてください。うちじゃとても無理。そういうのはドコモさんにおまかせしておけばいい」

会見終了後の囲み取材で古関社長はこういった。

「それにリアルショップはうちには無理。コストがかかりすぎますから」とも。

同社長のもくろみでは、現在、携帯電話契約者が国内に約1億人見込めるとして、そのうちの1割をMVNOの市場で分け合うので1,000万人、そのさらに1割を同社が獲得すると100万人。仮に一人1,000円程度の売り上げを見込めたとして、年間120億円。十分な数字だという。ちなみに現在の同社の契約者数は20万人弱で、それをできるだけ早い時期に100万人に届くようにしていきたいという。スタートしたばかりの新会社としては、ずいぶん、遠慮がちな数字にも感じられる。

BIGLOBEは、光インターネット、モバイルネットワーク、Wi-Fiネットワークを擁する通信事業者だが、実際には、どのネットワークも持たず、すべてをパートナーとの協業で調達している。だからこそのVNO、いわゆる仮想通信事業者だ。独立系のVNOとしては、業界シェア1位を守っている。

すべてのスマートデバイスにSIMを入れるにはまだ高い

モバイルの世界に注目すると、現在、総務省の政策によって、MVNOの市場がどんどん成長する傾向にあるという。国内市場の昨年末時点での577万契約は、今年には800万近くになり、やがて1,000万を超える。ただ、これは日本の総契約数のうち約3%に満たない。先進国ではMVNO利用者は全体の10%はいて、諸外国に出て行けば街中のどこででもSIMが手に入るのに、日本はその比率が異様に低いのだそうだ。同社としては、ここにビジネスチャンスを見いだし、世界と同レベルの市場を創出したいとする。

確かに今、MVNOのビジネスは、ある種の価格競争のフェイズに入っている。ドコモは接続料を下げ、総務省はもっと下げろとやかましい。だからこそ、大手キャリアでは考えられない価格で通信がまかなえるようになった。

BIGLOBEのサービス料金のうち、もっとも安いものは、1枚のSIMが提供され、LTEで1GB/月の通信ができるエントリープランが900円(税別)/月となっている。この勢いでドコモの接続料金が下がっていけば、まだまだ安くなる可能性はありそうだ。

ただ、同社に限らず、MVNO各社は、ほぼ同じ価格で提供される容量は増やしてきてはいるが、価格をダイナミックに下げることはしていない。ライトユーザーならこれで十分といっていた数百MBの月あたりの容量をGBレベルにまで引き上げているだけだ。一日中動画を楽しむような使い方をしない限りは、いわゆるライトユーザーにとって、オーバースペック的なサービスになりつつあるという印象も強い。

仮に、500MBで500円といった価格がかなえば、スマホ、タブレット、PCと、手持ちのスマートデバイスすべてにSIMを装着しておくような使い方ができるかもしれない。こう提案すると、古関社長は、そういう使い方ならスタンダードプランで3枚のSIMが提供され、合計7GB/月を3,790円で使えるスタンダードプランを利用してほしいという。やっぱりそれでは高いのだ。

もっと安くをかなえてほしい

ライトユーザーの味方的なビジネスをしていたMVNOは、1,000円/月という手頃感のあるサービス料金に固執し、だんだんオーバースペックなサービスになりつつあるように思う。もちろん大手キャリアの料金よりは遙かに安いとはいえ、ライトユーザーがヘビーユーザーの利用を支え、費用を負担しているという図式が、MVNOの世界でもまかり通るようになってきているようにもみえる。

SIMスロットを持ち、単独で通信ができるスマートデバイスが、なかなか充実しないのは、デバイスそのものの価格が高額になってしまうこともあるが、やはり、複数台のデバイスを持っていても、それぞれにSIMを入れて運用するということがコスト的に難しいからなのだろう。そこさえ解決できるなら、単独で通信ができたほうが便利に決まっている。SIM3枚で1GB/月を1,000円で使えるといったサービスがあればと願っているユーザーは少なくないはずだ。

BIGLOBEは、この日の記者会見で、腕時計型のウェアラブル端末の開発表明をしている。そして、SIMスロットを持ち、スタンドアロンで3G通信ができることを、開発途上にあるハードウェアの特徴としてあげていた。スマホをハブにしなければ通信ができないようでは、IoT端末として、使い勝手がよくない。そのためにも、さらに低価格のSIMは、今後、ますます求められるようになるのではないか。そうしたニーズをしっかり把握したビジネスにチャレンジしてほしいものだ。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)