プリンタはあると邪魔だがないと不便な存在だ。モバイルデバイスからのプリントは、これからの暮らしの中でもそれなりに重要な位置づけにある。そこに介在するさまざまな問題を解決しようとしているのが「Mopria」だ。


モバイルプリントのためにイメージングベンダーが集結

今年のMWC(Mobile World Congress)開催直前、米HPがSMB向けのカラーLaserJet複合機「HP Color LaserJet Pro MFP M476」を発表した。特に、何の変哲もないレーザー複合機だが、その最たる特徴はMopriaのサーティフィケーションを受けた世界で最初の製品である点だ。

Mopriaは、キヤノン、HP、サムスン電子、ゼロックスの4社によって2013年9月に設立された非営利団体としてのアライアンスだ。スマホやタブレットなどのモバイル機器とプリンタにおける印刷ソリューションの標準規格を提案するために設立された。

この2月のMWCのタイミングでは、セイコーエプソンやコニカミノルタ、リコー、ブラザー、そしてアドビやレックスマークといったお馴染みのベンダーがアライアンスに参加した。これによって、これからのモバイルプリントの世界に大きな変化が起こりそうだ。

まずは企業のBYODから

Mopriaによれば、スマートフォンは2017年には15億台を超える見込みで、さらにはタブレットの出荷台数がノートPCを超えようともしている。世界の総人口を超える数のデバイスが稼働しようとしている状況だ。

さらに今、欧米企業の6割がBYODを導入している。その内訳としてはタブレットとノートPCは47%に留まり、過半数はスマートフォンであるという。企業のIT部門は、社員の生産性向上をBYOD導入の目的としてあげ、職場内からの情報アクセスに個人所有のスマートフォンを使えるようにしている。

そんな中で、モバイルからの印刷がより簡単にできることが求められるわけだが、スマホユーザー、タブレットユーザーの多くは、自分のデバイスからの印刷方法を知らない。仮に知っていたとしても、会社内で印刷ができるユーザーはわずかだ。それでもユーザーは印刷を望んでいるという。スマートデバイスは、ペーパーレスを目指していたはずだが、こうして見てみると、やはり印刷が求めらてれいるわけだ。

こうしたことからもわかるように、Mopriaの活動は、まずは、企業内でのプリントにフォーカスしているように見える。

まだ相手がいない世界初のMopria認定プリンタ

Mopriaは規格を作る団体ではなく、規格を作る団体に働きかけるために機能する。規格の標準化団体が、その規格のユースケースを考えることはまれで、それを補完する必要がある。たとえば、PictBridgeがUSB規格におけるPTP通信を行うようなもので、USBやPTPは規格として別のフォーラムが策定、そのユースケースとしてCIPAがPictBridgeを標準規格としているようなものだ。

印刷ソリューションの提供を各企業が個々にやっていては、それぞれに温度差ができてしまう。それを回避しようというのがアライアンスの目的だ。そして、ポストPC時代のユーザーニーズに応え、デバイスが何であっても同じように印刷できることを目指す。

具体的には、AndroidやiOSといったモバイルOSで動くアプリに、Mopria用のプラグインが提供され、アプリがMopriaプラグインにデータを渡すと、中間言語としてのレンダリングデータが生成される。Mopria対応プリンタは、その中間言語を解釈できるので、機器ごとのドライバなどをデバイスにインストールすることなく、誰でも簡単に印刷ができるようになる。最終的には、OSにビルトインするなど、ユーザーがMopriaの存在を意識しなくても「印刷」というファンクションを指示するだけで、ネットワーク内にある対応プリンタがリストアップされ、そこから出力できるようになるらしい。

デモンストレーションでは、印刷したい画面をスクリーンに表示したスマートフォンを、プリンタにタッチすると、NFCでIPアドレスが交換され、IPネットワークを介してデータが印刷される様子などが紹介されている。

Mopria対応は、基本的にソフトウェアだけで実現することができるので、ハードウェアの製造コストに対するインパクトはさほど大きくはならないともいう。

今回のHP製品は、世界初のMopria認定機だが、いかんせん、まだ、相手がいない。印刷のトリガーとなるスマホやタブレットがMopriaに対応しなければ、その機能を使うことができないのだ。つまるところは、環境が整うのはこれからということになる。

ルールの策定から始めたために、設立してから半年という時間の割には大きな活動が行えてこなかったMopriaだが、具体的にはこの春から状況が大きく進捗するだろうとMopriaでは考えているそうだ。モバイルデバイスからの印刷には、各社各様のソリューションが提供され、ちょっと混乱気味であっただけに、その活動には期待も大きい。