ITプロジェクトに関わっている読者の皆さんは、プロジェクトを円滑に遂行するうえで、顧客の参加する会議がいかに大切であり、また、それをうまく進めることがどれだけ難しいかは十分ご理解されているだろうと思います。

こうした会議は、プロジェクトの節目で行われ、そこで必要な決定について結論を出す必要があります。そして、会議には、情報システムの担当者だけではなく、業務部門や、経営層の方々等、利害が必ずしも一致しない関係者が参加されることもあります。

プロジェクトリーダーには、会議の限られた時間の中で参加しているこうした顧客関係者との確かな合意のもとで、プロジェクトの方向付けをするスキルが求められます。

会議で行われる発言の流れをリードして時間内に必要な結論を導くスキルは、ファシリテーションと呼ばれるものです。今回と次回の2回にわたり、ファシリテーションのスキルを向上させるためのテクニックとして「見せる議事録」について紹介します。

今回は見せる議事録テクニックの概要とその効果、活用するツールを紹介します。次回は、実際の議事録サンプルを提示しながら具体的な方法を説明していきます。

若手に取らせる従来の議事録

議事録の取り方はプロジェクトの種類や、会社の方針によって細かいところが異なりますが、システム開発のプロジェクトにおいては、以下のような方法を採用していることが多いようです。

  1. 会議に参加する一番若いメンバーが会議でメモを取る
  2. 会議終了後、持ち帰ってメモを元に議事録を清書する
  3. 会議から数日~数週間後の次回の会議で、清書された議事録を顧客と確認する。もしくは会議から何日か経った日に、メールで議事録を添付し、顧客に確認を依頼する

皆さんのプロジェクトでは、いかがでしょうか?

筆者もこのような議事録の取り方をするプロジェクトに何度も参画しましたが、このときに共通に起きる問題があります。それは、議事録が会議の内容と違うという指摘を顧客から受け、議事録を書き直さなければならなくなるというものです。

多くの場合、この原因は明らかで、大抵はシステムの仕様を十分把握できていない一番若いメンバーが議事録を作成しており、それをプロジェクトリーダーが十分チェックできていないからです。

かといって念入りにチェックをして議事録の作成に時間をかけていると、会議から何日も経った後に議事録を確認することになり、お互い話し合った内容を正確に覚えていないために、議事録に同意できないようなことになりかねません。

ファシリテーターが取る「見せる議事録」

この問題を根本的に解消するのが今回紹介する「見せる議事録」のテクニックです。具体的な議事録の取り方は、以下の3つの特徴を持ちます。

1. 会議を仕切るファシリテーターが、会議の最中に議事録を取る

見せる議事録テクニックでは、議事録取りを最も"若いメンバーのやる下っ端の仕事"という位置づけを見直します。議事録はむしろ、"会議で議論をスムーズに行わせ合意形成するツール"と考えます。

そのため、会議の進行を十分にコントロールできるプロジェクトマネージャーや、システムの仕様を十分把握しているリーダーがファシリテーターとなり、議事録を作成しながら会議を進行します。

2. ファシリテーターは議事録を会議の場でプロジェクターに映し、会議でなされるコミュニケーション内容を、リアルタイムで議事録に記載する

最近は議事録をPCで会議中にメモすることはよく行われていると思いますが、さらにそれを一歩進めて、プロジェクターに映し出して共有しながらリアルタイムで作ることが会議をスムーズに行う上で非常に重要です。

ではなぜ、プロジェクターに映しながら記載される議事録が、会議の進行をスムーズに行わせるツールになるのでしょうか?

それは会議の結論を決める上で非常に有利なポジションに立つことができるからです。このことは議事録がどういうものなのかを考えると理解することができます。

議事録は最終的にその会議で決まったことを公式に記録するためのものです。言いかえれば、議事録に書かれないことは結論にならないのです。

会議の司会者は通常参加者の発言を促すことしかできませんが、議事録を全員に見える状態で記録することで、結論自体を決める力を手にすることができるのです。

たとえば、ある議題からから逸れて別の議論が始まってしまい、本来の議論ができなくなることがあります。議論をしているのが上級のマネージャーの様な場合、司会者もなかなか口を挟めません。

しかし、議事録を会議の場で映し出し共有していれば話は違います。手を止めれば良いのです。プロジェクターで現在の議題を "見せ"、「ちょっと議論している内容が、現在の議題とそれて来ましたので、元の議論に戻りましょうか」と言えば元の議題に戻すことができます。

議事録にその会議で検討する議題(アジェンダ)を最初から書いておくとさらに効果的です。どのような議題があり、その時点でどこまで議論が進んでいるのかが、いつでもわかるからです。

1つの議題に予定よりも時間がかかってしまい、他の議論ができなくなる懸念が起きれば、プロジェクターで他に予定している議題を"見せ"ながら、「この議題は予定より時間がかかっているので、一旦は暫定の結論を置いて、次の議題に進みましょう」と言うことにより、会議をスケジュールに沿って進めることができます。

もちろん、議事の内容に対する合意も促進することができます。発言者の意図した内容で議事録に記載されなければ、参加者は「それは違います」とその場で訂正することができます。参加者が同じ認識を持つようになれば、議論が進まなくなったり、話がかみ合わなくなったりすることはなくなります。

このように、ファシリテーターが取る議事録は、会議をコントロールする強力なツールになるのです。

3. 会議終了後すぐに、遅くても当日中に参加者全員に議事録をメールで送付する

さらに見せる議事録テクニックは、会議中にほとんど議事録が完成するので、会議の終了後すぐに参加者全員にメールで送付することができます。参加者は会議の記憶が新しい状態で、議事録を確認できるので、議事録のここに書かれていることって何だっけ? というようなことが起こらない状態で、内容を忘れる前に最終確認することができます。

これも、会議の内容の認識齟齬を少なくする要因になります。

ファシリテーターは議事録を書きながら参加者に注意を払う

ファシリテーターは参加者から話を引き出したり言葉の真意を確かめたりすることで、発言力が強い参加者や、まとめて発言をすることが苦手な参加者からも、有益な議論を引き出すことが必要です。

そのためには、ファシリテーターは、会議参加者の表情やしぐさに注意を払い、会議を進行することが重要です。

見せる議事録テクニックでは、ファシリテーターは自分のモニタを見て議事録を書きながら、参加者の顔を見ながら会議を実施する必要があります。会議のイメージとしては、以下の図のようになります。

参加者の顔を見ながら行う「見せる議事録テクニック」を使用した会議

"見せる"議事録を作成するのに使えるツールには、テキストエディタ、Word、Excel、PowerPoint、マインドマップなどがあります。これらのいずれのツールを使えばよいかは、会議の性格によっても変わります。

テキストエディタ、Word、エクセルなどは、議事録の最終形としてよく使われている形式です。マインドマップのようなツールは構造を組み立てやすいので、ブレインストーミングなどの場合に効果的です。

標準的な会議で使うツールとして筆者としてお勧めしたいのは、PowerPointです。

"見せる"議事録を作るときに大切なのは、見せている議事録によって参加者の議論を妨げないようにすることです。例えば、カナ漢字変換のような作業を見せられるといらいらしますし、作業の最中にメール到着のポップアップなどが出てくると気が散ります。

PowerPointの以下4つの特徴を利用することで、こうした雑音に煩わされることがなくなります。

1. 画面全体を使う

スライドショーによって全画面を使うことで他のウィンドウやポップアップを見せることなく、議事内容だけを提示することができます。

2. テキストを自動で枠内に収める

議事録では、ある1つの話題についての議論がまとめて把握できることが大切です。ところが、テキストエディタなどでは、入力するテキストが長くなると少し前の議事内容がスクロールされて見えなくなってしまいます。

PowerPointでは、1ページに収まる範囲では、文字のサイズが自動で調整されるのでひとつの話題についての議事をまとめてとることができます。

3. 2画面機能が使える

PowerPointでは、自分だけ編集画面を見ながら、プロジェクターにはスライドショーを見せるような使い方ができます。こうすることによって、カナ漢字変換などのような編集操作を見せて煩わせることがなくなります。

また、他の参考資料などを示すときに、フォルダーを開いて探したりするような操作を参加者に見せることなく行うことができます。

4. 表や図を自由に配置できる

議論の内容によっては、図や表を使ったほうが整理しやすいこともあります。そのような場合にPowerPointであれば自由な場所にそれらを配置することができます。

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今回は、見せる議事録テクニックの概要を説明しました。次回は、実際の議事録サンプルを提示しながら、具体的に見せる議事録テクニックの方法を紹介します。

執筆者紹介

深谷 勇次(FUKAYA YUJI)
- ウルシステムズ コンサルティング第1事業部 シニアコンサルタント


大手SI会社にて、オブジェクト指向に基づいたシステムの研究開発に従事した後に、多数の顧客業務システムプロジェクトで上流工程の要件定義から下流工程の運用・保守まで幅広く経験。最近は、複数システムが同時に進行する大規模プロジェクトで、複数のユーザPMの支援を実施し、ユーザー主導によるシステム開発の成功を実感している。

プロジェクトがうまくいくために、ユーザー支援はもちろん、ベンダー支援もいとわず実施し、参画メンバが良かったと思えるプロジェクトになるよう、日々コンサルタントとして奔走している。