前回は、"タスクの宙ぶらりん"をそのままにしておくと、プロジェクトに大きなリスクがあることを具体的な例をもとに説明しました。

今回は、"タスクの宙ぶらりん"をなくすために、どのようなアクションを、どのタイミングで、どう起こしていけばよいのかについて説明します。

"タスクの宙ぶらりん"解消のための4つのポイント

"タスクの宙ぶらりん"を解消するための基本的なアクションは、前回も説明したとおり、「何を誰がいつまでにどうするのか」をハッキリさせることです。

これ自体は大したことではありませんが、それをいつどのように実施し、どう管理していくかという点までを考えるとそれほど簡単な話ではなくなります。

以下では、そのノウハウを次の4つのポイントに分けて紹介しましょう。

  • 切り出すタイミングを計る
  • 文書で管理する
  • タスクを分解する
  • 担当者の稼働を考える

切り出すタイミングを計る

"タスクの宙ぶらりん"を発見したからといって、すぐに「それは誰がやるのか? いつまでにやるのか? どうやるのか? 」と、まくし立てて聞くのは最良のやり方ではありません。

こうした5W1Hの質問は、相手の話の腰を折ってしまう可能性があります。これらの質問は、具体的なやり方を決めるためのものであり、大抵の場合、それらは話題の中心にするべき内容ではありません。それよりも、何をおこなうべきかということを漏れなく示してもらうことのほうが大切であるケースがほとんどでしょう。

とは言え、確認しないことには"タスクの宙ぶらりん"は解消されません。話の腰を折らずにうまく確認するにはどうすればよいのでしょうか。

私は、2とおりの方法があると考えています。

1つは、打ち合わせの最後にラップアップをおこない、そこで"タスクの宙ぶらりん"を解消するというやり方です。"タスクの宙ぶらりん"が発生したと感じたときに、その状況を手元のメモに書き残し、それをラップアップで潰していきます。

これを実行するには、ラップアップをおこなう時間を確実に確保しなければなりません。そのため、私は、打ち合わせをおこなう場合、必ずアジェンダを配布し、そこに最後にラップアップを実施することを明示しています。こうすることで、ラップアップをおこなうことを意識してもらえます。

もう1つは、会話の中に自然な流れで確認事項を組み込む方法です。5W1Hを突きつけてまくしたてるのではなく、あくまで自然に確認するというのがポイントです。これは、プロジェクト内で、各人が担当している役割やスキルを把握できているときなど、ある程度限られた場合にのみ有効な方法ですが、ラップアップの時間を待たずに会話の中で確認することで、その都度"タスクの宙ぶらりん"をなくせるというメリットがあります。

具体的には以下のようなやり取りとりをおこないます。

システム部S部長: 「入金の消し込み方法はどうするかなー。まあ、業務部から検討のネタを出して貰うか」

開発ベンダーAさん: 「入金消し込み関連の話しであれば、業務部のMさんに検討してもらうのが適任かと」

システム部S部長: 「そうだな。そうしよう」

開発ベンダーAさん: 「Sさんから業務部へ依頼していただけますか? 」

システム部S部長: 「わかった。業務部のT部長へ依頼してみる」

開発ベンダーAさん: 「T部長へは今日依頼をされますか? 」

システム部S部長: 「ああ、今日、昼ご飯を一緒に食べるので、その時に言っておく。」

上記のやり取りにより、モヤモヤしていた入金消し込み方法の検討は、業務部のMさんが担当する方向であり、依頼をS部長が本日業務部のT部長へおこなうことになりました。

文書で管理する

"タスクの宙ぶらりん"を解消しても、口頭でのみの確認では約束した内容を忘れてしまう可能性があります。このためExcelを利用し、課題/ToDoシートとして管理をおこないます。

このときに気を付けて欲しいのは、課題とToDoを明確に分けて管理するということです。課題とToDoは、「何の問題をどうやって解決するのか」の「何の問題」と「どうやって解決」の部分に相当します。

上のAさんとS部長の例に適用すると、次のようになります。

課題(どうすれば解決するかの道筋がはっきり見えていないもの)
 → 入金消し込みを検討する担当者がいない

ToDo (具体的に何をすれば良いかが分かっており、検討をしなくてもよいもの)
 → 業務部に債権管理部分の要件の検討を依頼する

つまり課題だけ挙がっているのは"宙ぶらりん"の状態で、ToDoが明確になった時点でそれが解消されたということになります。

ときどきこれらをひとくくりに「課題」として管理している人を見かけますが、それでは宙ぶらりんの状態を放置したままであることと同じなので注意しましょう。

また、ToDoをさらに詳細化し、完了条件(どうするのか)、発生日(いつおきたか)、期限(いつまでに)、担当者(誰が)、完了日(いつ終わったか)をテンプレートとして用意し、各項目を入力するようにすればより効果的です。

もし会議でプロジェクタが使えるようなら、打ち合わせの最後のラップアップ時に、このExcelを投影し、その場でインタラクティブに情報を入力することをお勧めします。入力をテンプレートへインタラクティブにおこなうことにより、関係者全員が納得できる形で漏れなく情報の管理がおこなえます。

タスクを分解する

タスクへ担当者を割り当てて、期限を設定したとしても、タスクの粒度が大きい場合には、担当者がどこからどう手をつけて良いか分からず、タスクをいっこうに消化できないことがあります。

このままでは、宙ぶらりんの状態にあるのと一緒です。「タスクの粒度が大きくて進まない」と判断した場合には、タスクが解決するまでのプロセスをプロジェクトメンバー内で検討し、タスクを細かく分解して、タスクを少しでも進める努力をしなければなりません。

この際、タスクの分解により、それぞれのタスクを実施する担当者が出現するため、実施する担当者へタスクの内容や、実施のタイミング、他のタスクとの連携を個別に依頼する活動をおこなわなければならず、手間と時間をとられる場合もあります。しかし、それを惜しんでいては、後になって深刻な事態に陥りかねません。

手間と時間を惜しまず、宙ぶらりんを解消するために主体的に動きましょう。

担当者の稼働を考える

タスクの内容によっては、ある要員へ負荷が集中することがあります。

開発ベンダーAさん: 「債務関連の取り纏めは誰にやって貰いますか? 」

システム部S部長: 「そうだな。ウチのM君にやってもらおう」

開発ベンダーAさん: 「では、経費管理の取り纏めは誰にやって貰いますか? 」

システム部S部長: 「うーん。M君だな」

開発ベンダーAさん: 「原価関連の調整は誰にすればいいですかね? 」

システム部S部長: 「まあ、M君だろう」

これでは、タスクが全てMさんへ偏ってしまっています。「何を誰がいつまでにどうするのか」を決めても、現実的にタスクを消化できない場合は、やはり宙ぶらりん状態にあるのと一緒です。

ある特定の要員へ負荷が集中する場合には、「実行は無理なのでは」と正直に意見することが大事です。

「細かい」、「うるさい」は褒め言葉

いかがでしたでしょうか。記事中の例は、主に開発ベンダーの立場で紹介させていただきましたが、企業の情報システム部門内でも同じような現象は起こりえます。

今回は"タスクの宙ぶらりん"をなくすテクニックをいくつか紹介させていただきました。中でも最初に紹介した「アジェンダを使ってラップアップをおこなう」は、明日からでもできるアクションです。今までに意識していなかった方は、是非とも実践してみください。効果はすぐに現れます。

最後に、心構えの話を付け加えておきましょう。

"タスクの宙ぶらりん"を防ごうとすると、細かい話しをすることになるため、他のメンバーから、「あいつは細かい」、「あいつはいちいちうるさい」と言われ、疎まれる立場になる可能性があります。

誰しも他人から疎まれることは気が進まないことだと思います。しかし、疎まれることを嫌がり、細かい話をおこなわなければ、宙ぶらりん状態のタスクがプロジェクトの中に残ってしまいます。そうなると結局、誰もが不幸になります。

そこでお勧めしたいのは、考え方を変えること。他人から「細かい」、「うるさい」と言われるのを、自身のプロジェクトマネジメント能力が褒められていると捉えるのです。

そのようにして前向きな気持ちを維持しながら、プロジェクトの最初から最後まで細かい話をし続けて、"タスクの宙ぶらりん"解消に全力で努めていきましょう。

執筆者紹介

横山 芳成(YOKOYAMA YOSHINARI)
- ウルシステムズ 事業推進企画室 室長


電気系SIerにてキャリアをスタートし、特許関連のシステム開発、保守・運用にプロマネとして数年従事。また、開発したシステムを外販するために、セールスエンジニアとしても活躍。

ウルシステムズ入社後は、コンサルタントとして、電子マネー関連の事業会社にて、ITグランドデザインや、プログラムマネジメント、プロジェクトマネジメントのデリバリを数年担当。直近では、様々な業種へのプリセールスや、事業会社のシステム部門へ実践的なトレーニングの実施、コンサルティングプロジェクトでのスーパーバイザー、メンバーの育成など、事業戦略の具現化 に努めている。PMP、CISA。