「東京は物価が高いので、生活費が高い」または、「地方は物価が安いので、生活費が東京に比べてあまりかからない」と世間でよく言われていることは、本当なのでしょうか。

連載コラム「地方の生活コストは本当に安いのか?」では、ファイナンシャル・プランナーの高鷲佐織が、実際に東京から地方へ移り住んで感じたことを交えながらお伝えいたします。

家賃の相場

会社員で営業所や支店が全国規模の場合、会社から転勤を命じられることも少なくありません。会社によっては、社宅や独身寮といった住居を社員に提供する場合もありますが、自ら不動産会社に足を運び情報収集をして、物件を探さなければならないこともあります。

物件の面積、築年数、駅からの距離などの条件によって家賃の価格に違いはありますが、初めて訪れる地域での物件探しには、目安となる「家賃の相場」を知っておくとよいでしょう。

1カ月あたりの家賃 - 都道府県別

住宅の1カ月当たりの家賃を都道府県別に見ると、東京都が7万7,174円と最も高く、次いで神奈川県が6万7,907円、埼玉県が5万8,675円、千葉県が5万6,855円、大阪府が5万3,603円(赤く表示されたもの)となっています。

一方、青森県が3万6,529円と最も低く、次いで岩手県が3万6,679円、秋田県が3万7,158円、福島県が3万7,410円、鹿児島県が3万7,687円(青く表示されたもの)となっていて、東京都の1カ月当たりの家賃は青森県の約2.1倍になります(表1)。したがって、家賃に関しては世間で言われているとおり、東京を含む首都圏が高いようです。

礼金・敷金

次に、礼金・敷金について見てみましょう。礼金とは、マンション・アパート等を借りる契約を締結するときに、契約の謝礼金として家主に支払う一時金で、契約終了時に返還されません。一方、敷金とは、契約を締結するときに、家賃などの債務の担保として家主に預けておく一時金で、保証金のようなものです。何らかの理由で家賃などを払い続けることができなくなったときに、敷金で補填されることになります。基本的には契約解除の際に、家賃などの延滞未払い分がなければ返還されます。

しかし、契約によっては、退去する際に、入居者の原状回復義務に基づき修理負担分が敷金で賄われることもあります。なお、原状回復義務とは、賃貸借契約終了時に自分自身で設置した物を取り除き、契約の開始時の状態に戻して返還しなければならないことです。ただし、経年劣化や通常の使用による損耗等については回復の義務はありません。

敷金と礼金の推移(平均月数)

礼金と敷金の推移を平均月数で見てみましょう。礼金は、2015年下半期と2016年下半期を比べると、首都圏では0.1カ月分上昇し、その他のエリアでは若干下降し、全国的に見ても若干下降気味です。平均月数としては、関西圏が家賃の1.36カ月分で群を抜いて高いようです(表2)。

一方、敷金はいずれのエリアでも上昇しています。平均月数としては、その他のエリアが家賃の1.48カ月分で最も高いです(表3)。2016年下半期における礼金、敷金の平均月数は共に、関西圏やその他のエリアと比べて、東京が含まれている首都圏が一番低いです。したがって、礼金・敷金では、家賃とは違い「東京が最も高い」ということではありません。

終わりに

今回は、東京と地方の住宅に係るコストとして「家賃の相場」と「礼金・敷金」を取り上げました。「東京の家賃が最も高い」というのは、誰しもが想像できることだと思いますが、「礼金・敷金に関しても東京が最も高い」と思っていた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

私も実際に東京から地方に引っ越すことが決まり、現地で物件探しをしました。東京での住居と似たような条件で探したところ、ピックアップした物件はすべて東京より家賃は数万円安かったです。しかし、魅力的な物件の多くは礼金2カ月分、敷金2カ月分と設定されているものが多く、一方で「礼金・敷金ゼロ」をセールスポイントとしている物件は、かなり古い物件が多かったです。仲介手数料(主に家賃1カ月分)と合わせて家賃5カ月分の初期費用をすぐに支払えるように、銀行口座預金を確認して準備したことを覚えています。

毎月の生活コストとしては、家賃の他にも光熱費、通信費、食費、日用品費、外食費など様々なコストがあり、また、人生の大きなイベントである結婚や住宅の購入に係る多額の出費、また、出産やその後の教育費の費用も地域ごとの特色があります。次回以降も、様々な視点から東京と地方のコストを比較しながら「地方の生活コストって本当に安いのか?」お伝えしていきます。

執筆者プロフィール : 高鷲佐織(たかわしさおり)

ファイナンシャル・プランナー(CFP 認定者)/一級ファイナンシャル・プランニング技能士/DCプランナー1級。

資格の学校TACにて、FP講師として、教材の作成・校閲、講義に従事している。過去問分析を通じて学習者が苦手とする分野での、理解しやすい教材作りを心がけて、FP技能検定3級から1級までの教材などの作成・校閲を行っている。また、並行して資産形成や年金などの個人のお金に関する相談を行っている。